2025年10月11日土曜日

生活学・新原論を応用する・・・生活民➀

生活学・新原論を提案してきましたが、この視点を応用して、このブログではすでにさまざまな論考を展開してきましたので、今一度振り返り、ポイントを整理しておきましょう。

最初は「新原論Ⅰ・生活主体」で提唱した「生活民Life Creator」です。

「生活民」とは、経済学での「消費者(Consumer」、経営学や家政学での「生活者(User」などを大きく越えて、市場社会の枠組みを超えた、自律的な人間像を意味しています。


生活民」という主体が創り上げられてきたプロセスは、以下のとおりです。

➀「生活民」の定義

「生活民」とはどんな人?20161013日)

「生活民」とは、生活の主体である人間像を、生活学の「生活人」や社会経済学の「生活者」を継承しつつ、より統合化したコンセプトです。

「生活民マーケティング」はLC-Marketing」だ!2017730日)

生活民の英語名称も、Consumer(消費者)やPro-sumer(生産・消費者)はもとより、User(需要者)やSelf-helper(生活者)もまた超えて、Life Creatorというべきです。

アトモノミクスの基盤を考える!20181120日)

新しい生活学=アトモノミクスátomo:私人・原子  nomos:法)では、市場の成立以前から存在した、自立的な人間像の上に、Life Creatorという、新たな要件を満たす人格を改めて「生活民」と定義し、彼の行う生活諸行動について、様式や原理などを構築していきます。

➁「生活民」の生活構造

これが生活体だ!2015319日)

私たちの生きている生活世界は、感覚⇔言語軸、個人⇔社会軸、真実⇔虚構軸の、3つの軸によって構成されています。

生活体マンダラ・立方界を提案する!2015322日)

3つの軸によって【感覚・認知・言語】【個人・間人・社会】【遊戯・日常・儀礼】の各要素をクロスさせると、3×3×3の、27の小立方体に分割できます。

「生活体」から「生活球」へ201541日)

「生活体」という立法体を「生活球」という球体でとらえ直すと、真ん中の平常球を中心に、言語球、感覚界、社会球、個人球、儀礼球、遊戯球の、7つの小球で構成されています。

今回はとりあえず、➀➁を振り返りました。次回は➂意識構造➃生活行動です。

2025年9月27日土曜日

生活学・新原論・ひとまずまとめ!

ほぼ1年半にわたり「生活学・新原論」を展開してきましたので、ここでひとまず、基本的な方向を整理しておきましょう。

新原論Ⅰ・生活主体・・・「生活民」を提案しました。

生活民とは、市場社会のユーザーを超えて、市場の成立以前から存在した、自立的な人間像を意味しています。「自給自立人」という発想ですから、英訳すれば「Self-helper」になるでしょう。

新原論Ⅱ・生活意識・・縦軸、横軸、前後軸の3視点で意識構造を捉えます。

縦軸では未知界~認知界~識知界~言知界~理知界の5つの認識行動、横軸では社会界~間人界~個人界の3つの対応行動、前後軸では真実界~日常界~虚構界の3つの世界が浮上し、3軸をクロスさせた立方体を生活民の意識構造と考えます。

新原論Ⅲ・生活世界構造・・・3軸をクロスした立方体を、生活民の意識構造から拡大し、最も基本的な生活世界へと展開していきます。

言葉が創り出す、3つの軸で構成される生活世界構造。これこそが、生活民の心理、願望、行動などが生まれてくる基盤となります。

新原論Ⅳ・生活願望論・・・生活世界構造から7つの願望が浮上してきます。

私たちの生活願望は、欲望~欲求~欲動、世欲~実欲~私欲、真欲~常欲~虚欲の9つに分けられ、欲求・実欲・常欲を「日欲」とまとめると、7つに整理できます。

新原論Ⅴ・生活行動論・・・生活願望を基盤にすると、生活民の生活行動は7つの行動として展開されることになります。

生活願望の構造からは、差識化、差異化、差元化、差延化、差汎化、差真化、差戯化の、7つの生活行動が生まれてきます。

新原論Ⅵ・生活空間論・・・生活民の居住空間もまた、7つの生活願望に基づいて、7つの要素に分かれてきます。

差識化では最も基本的な居住「住み家」、差異化では家屋のデザインや屋内の家具意匠、差元化では家屋への直感や雰囲気、差延化では自室や寝室への自作行動、差汎化では改造可能性の高い居室やDIY先導型の家具、差真化では学びや信仰のための住居や家具、差戯化では遊びや休養のための別荘や家具などが、それぞれ求められます。

新原論Ⅶ・生活時間論・・・生活民の生活時間についても、7つの生活願望に基づいて、7つの要素に分かれてきます。

生活世界構造で生活時間統計を読み解くと、【感覚⇔観念】の比重、つまり上下活動(感覚的・無意識的行動⇔記号的・意識的行動)が中心であり、この軸に生活時間消費の核心が潜んでいることがわかります。

新原論Ⅷ・生活コスト論・・・生活世界構造で家計調査を分析すると、私たちの暮らしの重層的な構造が浮かび上がってきます。

コスト構成の基本的傾向としては、差元化(食料、寝具、下着、医療など)、差識化(家賃、光熱費、消耗品、雑費など)、差汎化(交通、通信、交際など)の3つが高い順に並び、続いて差戯化(菓子、酒類、外食など)、差真化(教育、教養など)、差異化(装飾品、ファッション、通信など)、差延化(理美容、身のまわりなど)の順となっています。

以上のように、新原論の原点では、新たな生活主体としての「生活民」の立場から、衣食住などへの生活願望、生活時間、生活コストなどの基本要素を見直すことができました。

この延長線上では、どのような展開が可能なのでしょうか。

2025年9月17日水曜日

生活学・新原論Ⅷ-6:生活コスト論を振り返る!

生活学・新原論では、8番目の検討項目として「生活コスト論」を考えてきました。

総務省統計局の「家計調査年報・家計収支編」をベースに、当ブログの「生活世界構造」の視点に基づき、➀10年間の変化、➁複合世帯と単身者、➂単身者の男性と女性、➃単身者の年齢別消費について、7差化の動向を分析しました。

10年間の変化では、差元化と差戯化で自宅内・家庭内での生活コストが増える一方、差異化、差延化、差汎化では、外部や外見などへの支出を減らす傾向が見られました。

複合世帯と単身者を比較すると、前者では差元化と差真化が、後者では差識化、差延化、差戯化がそれぞれ高く、背景には世帯人数、育児・教育費、嗜好消費などの違いが読み取れました。

単身者の性別を比べると、男性では差戯化や差汎化など、外向きの消費傾向が強く、女性では理美容消費の差延化や、差識化や差元化など、内向き消費が多いようです。

単身者の年齢別では、「~34歳」の若い世代は居住や遊びなどに、「35~59歳」の中年世代は交通費や交際費などに、「60歳~」の高齢世代は医療費や交際費などに、それぞれが生活行動の重点を置いている、などがわかりました。

以上のような傾向を「生活世界構造」として判読すると、次のような生活態様が浮かんできます。

❶コスト構成の基本的傾向としては、差元化、差識化、差汎化の3が高い順に並び、続いて差戯化、差真化、差異化、差延化の順となっています。

上位の3つ、差元化(食料、寝具、下着、医療など)、差識化(家賃、光熱費、消耗品、雑費など)、差汎化(交通、通信、交際など)は、活の基本的な消費を示しており、身体維持を基本としつつ、外部的な交流が求められているようです。

下位の4つ、差戯化(菓子、酒類、外食など)、差真化(教育、教養など)、差異化(装飾品、ファッション、通信など)、差延化(理美容、身のまわりなど)は、個人的な嗜好性に基づく生活志向を示しています。

下位前半の差戯化と差真化は、心理的、あるいは精神的な消費の比重を示しており、遊びなどの方が勉学よりも多少多く求められるようです。しかし、差戯化と差真化に相当する消費データは、「家計調査年報」では「教養娯楽用品・サービス等」として一括集計されていますので、両者の強弱を正確に把握することはできません

下位後半の差異化と差延化は、純個人的な趣味や独創性の比重を示しており、生活世界の主体である生活基盤の強弱を表わしているようです。

このように整理してみると、「生活世界構造」による「生活コスト」分析によって、私たちの暮らしの深層的な構造が、朧げながらも浮かび上がってきます。

2025年9月5日金曜日

生活学・新原論Ⅷ-5:単身者・年齢別消費を比較する!

新原論の生活コスト分析では、前回の「単身者・男性×女性」に続いて、今回は「単身世帯の年齢階層」を検討してみます。

●基本データ

日本の単身世帯は2,296万世帯(総世帯数の40%)で、「~34歳」が627万世帯(27%)、「35~59歳」が702万世帯(31%)、「60歳~」が967万世帯(42%)です(国立社会保障・人口問題研究所・日本の世帯数の将来推計:2025)。

➁生活コストのデータは、総務省統計局の「家計調査年報・家計収支編:2024年」の「男女・年齢階級別1世帯当たり1か月間の収入と支出(単身世帯)」です。

➂集計対象となったサンプル数649人で、「~34歳」が68世帯(平均年齢:27.7)、「35~59歳」が121世帯(同:50.6)、「60歳~」が460世帯(同:75.1)です。

有業者比率は、「~34歳」が99、「35~59歳」が90、「60歳~」が23です。

➄1ヵ月当たりの消費支出額は、「~34歳」が176,160、「35~59歳」が184,750、「60歳~」が159,249、平均が169,547です。

以上のようなデータを基に、年齢階層別の消費傾向を当ブログの「7差化」で比較してみましょう(前回と同じく、教養娯楽データは「差真化」と「差戯化」に等分しています)。

●消費傾向比較

➀生活行動で見ると、差識化では「~34歳」(主に居住関係費が高い)、差元化では「60歳~」(主に医療費が高い)、差異化では年齢差なし、差汎化では「35~59歳」(主に自動車等関係費が高い)、差延化では「~34歳」(主に理美容関係費が高い)、差真化差戯化では「~34歳」(主に教育費と娯楽費が高い)と、それぞれの階層の比重が高いようです。

➁年齢階層で見ると、「差元化」「差汎化」「差戯化」でバラつきが大きく、それ以外ではほぼ同様の比率を示しています。

➂「~34歳」では「差識化」「差延化」「差真化」「差戯化」が平均値より高く、「差元化」と「差汎化」が下回っています。

➃「35~59歳」では「差汎化」と「差戯化」が平均値より高く、それ以外はほとんど低い状況です。

➄「60歳~」では「差元化」が平均値より高いのですが、それ以外はすべて低い状態で、とりわけ「差戯化」は最低です。

こうして生活コストのデータを見てくると、「~34歳」の若い世代は居住や遊びなどに、「35~59歳」の中年世代は交通費や交際費などに、「60歳~」の高齢世代は医療費や交際費などに、それぞれの世代の生活行動の重点が浮かび上がってきます。

2025年8月22日金曜日

生活学・新原論Ⅷ-4:単身者・男性×女性を比較する!

今回の生活コスト分析では、前回の「複合世帯当×単身世帯」に続き、単身世帯の「男性×女性」を検討してみます。

●基本データ

➀日本の単身世帯は2,296万世帯(総世帯数の40%)で、男性が1,176万世帯(21%)女性が1,121万世帯(19%)です(国立社会保障・人口問題研究所・日本の世帯数の将来推計:2025)。

➁生活コストのデータは、総務省統計局の「家計調査年報・家計収支編:2024年」の「男女・年齢階級別1世帯当たり1か月間の収入と支出(単身世帯)」です。

➂集計対象となったサンプル数は649平均年齢は58.7(男性53.5歳、女性63.4歳)、有業者比率は57(男性67%、女性47%)、持家率は60.1(男性52.4%、女性66.8%)です。

➃1ヵ月当たりの消費支出額は、男性世帯が164,372女性世帯が174,112であり、女性の方が10,000ほど多くなっています。理美容商品・サービスや交際費などが多少多いから、と思われます。


●消費傾向比較

以上のようなデータを基に、男女別の消費傾向を当ブログの「7差化」で比較してみましょう(前回と同じく、教養娯楽データは「差真化」と「差戯化」に等分しています)。


❶7差化別の消費構成は、男性、女性ともほぼ同じ傾向を示しています。

❷7差化で比較すると、男性が高いのは差戯化と差汎化女性が高いのは差延化、差元化、差識化、差異化で、差真化はほぼ同じです。

男性差戯化6%ほど高いのは、外食、酒、たばこなどが、差汎化が1%高いのは自動車関係費などが、それぞれ比重が重いからです。

女性差延化4%ほど高いのは理美容用品・サービスなどが、差元化2%ほど高いのは野菜・海藻類が、差識化0.7%ほど高いのは光熱水道費や生活雑費などが、差異化で0.6%ほど高いのは洋服代や通信費などが、それぞれ重いからです。

以上のように見てくると、男性では差戯化や差汎化など、どちらかといえば外向きの消費傾向が強いのに対し、女性では差延化で理美容消費とともに、差識化や差元化など、生活の基本に関わる内向き消費が多いことが浮かんできます。 

2025年8月12日火曜日

生活学・新原論Ⅷ-3:家族世帯と単身者を比較する!

当ブログの提案する「生活世界構造」によって、生活コストの実態を分析しています。

総務省統計局の「家計調査年報・家計収支編:2024年」のデータに基づき、今回は複合世帯(2人以上世帯)単身世帯月間消費動向を比較してみましょう。

日本の家族構成2024年で推計すると、複合世帯は3,431世帯(60)単身世帯は2,296世帯(40%)となっています(国立社会保障・人口問題研究所・日本の世帯数の将来推計:2025)。

両方の世帯において1ヵ月当たりの消費支出額を比較すると、複合世帯(2024年人員:2.99人)300,243、単身世帯では169,547となっています。

それぞれの中味を当ブログの7差化で比較してみましょう。


消費金額比較

●上の図の上方金額別に見ると、両世帯の消費金額はほぼ同じ傾向を示しています。

前回と同じく、教養娯楽データは差真化と差戯化に等分しています。)

●出費傾向では、複合世帯のトップが差元化(食料、寝具など)であるのに対し、単身世帯のトップは差識化(住居、光熱費など)となっています。

●なぜ単身世帯で差識化が高いのでしょうか。食料や寝具などへの基本的な出費(差元化)は、世帯人数に比例していますが、ベーシックな差識化への負担は、単身世帯でも複合世帯とほぼ同様にかかり、人数配分の少ない分だけ多くなるからだ、と思います。

消費構成比較

●図の下方構成比(%)に比較すると、複合世帯は差元化と差真化で、単身世帯は差識化、差延化、差戯化でそれぞれ高く、差異化と差汎化ではほぼ同じです。

●複合世帯で差元化が高いのは、上記のように世帯人数に比例しているからであり、差真化が高いのは、授業料や教科書代など子どもたちへの費用がかかるからです。

●単身世帯で差識化が高いのは、家賃や設備など住宅関連の費用が高いためであり、差延化が高いのは理美容品やサービスへの消費が多いからです。差戯化が高いのは、外食の消費機会が多いからだ、と思われます。


以上のように、複合世帯と単身世帯の消費傾向を比較してみると、基本的な消費構成はほぼ同じではありますが、世帯人数、育児・教育費、嗜好消費などの点では当然のように差異が浮上してきます。

2025年7月26日土曜日

生活学・新原論Ⅷ-2:10年で生活コストが変わった!

当ブログの提案する「生活世界構造」によって、生活コストの実態を分析しています。

総務省統計局の「家計調査」のデータ(2人以上の世帯・1世帯当たり1か月間の用途別支出金額)を素材に、今回は10年間の変化を考えてみます。

20142024を、前回述べた生活行動7項目【生活世界構造】によって仕分けし、デフレーターを考慮して、で表してみると、下図のようになります。

(教養娯楽データは、前回指摘したように差真化と差戯化に等分しています。)

2014年と2024年を比べてみると、全体では次のような変化が浮上してきます。

➀7項目別では、差識化(約25%)、差元化(約23%)、差汎化(約12%)の比重が高く、この3つで60に達しています。

2014年より2024年が高かったのは差元化(+3.42%)と差戯化(+1.26%であり、ほとんど変わらなかったのは差真化(+0.02%、低かったのは差識化(−0.25%)、差異化(−0.86%)、差延化(−1.32%)、差汎化(−2.27%です。

生活行動別に眺めると、次のような変化が見られます。

❶差元化では、調理食品、肉類、穀類などの食品保険医療費が増えています。

❷差戯化では、菓子類外食などが増えています。

❸差真化では、教育、教養費がともに伸びています。

❹差識化では、家事用消耗品家庭用耐久財などへの支出が増えましたが、光熱・水道費が減っています。

❺差異化では、洋服通信費が減っています。

❻差延化では、理美容品やサービスが増えましたが、小遣い使途不明金が減っています。

❼差汎化では、交際費が大幅に減っています。

全体的に見れば、差元化、差戯化などで自宅内・家庭内での生活コストが増えていますが、差異化、差延化、差汎化などでは、外部や外見などへの支出を減らす傾向が現れています。

この背景には、コロナ禍の残滓による在宅中心生活の継続や、濃密社会の浸透に伴う欲望志向の低下などが推定されるでしょう。