2022年7月31日日曜日

科学用語の限界を考える!

言語3階層説を総括しています。

3つの言語階層のうち、思想・観念言語の構造について、もう一言付言します。

近年、世界のあちこちで、新型コロナやサル痘などパンデミックの拡大に伴い、医学や衛生学などの対応力について、その限界性や信憑性など、さまざまな意見が広がっています。

この背景には、現代社会をリードしている「科学」という「理知」の限界があるようです。その実態を言語論識知論の立場から考えてみましょう。

 

医学や衛生学で使われている医療用語実験用語などの思考・観念言語もまた、「科学」という「理知」に基づいて成立しています。

思考・観念言語は専門家集団という“理”縁共同体で使われていますが、その基盤には当然、日常の世界で使われている日常・交信言語が潜んでいます。

日常・交信言語は、地縁共同体の中で自然発生的、いわば慣習的に発生し、広く共有化されているものです。

例えば、日本国という共同体では日本語英国という共同体では英語アラブ諸国という共同体ではアラビア語というように、それぞれの地域社会が基盤になっており、地縁共通語とでもよぶべきものになっています。

こうした地縁共通語を基礎にしつつ、思考・観念言語は、特定の“理”縁共同体の中で意図的に作成されたうえ、さまざまな地縁共通語間での翻訳を経て、特定のシニフィエ(意味)を与えられ、地縁を超えた“理”縁共通語になっています。

具体的に言えば、哲学、倫理学、心理学などから、数学、物理学、天文学、生物学、医学などにおいて、さまざまな地縁共通語を基に観念化された思考・観念言語は、幾つかの翻訳によって、各国の“理”縁共通語に置き換られ、それぞれの“理”縁共同体の内部においてのみ通用する思考・観念言語に変化していきます。それはまさに学問別の分散的な状態ともいえるものです。

とはいえ、現代社会においては、“科学”用語という思考・観念言語が、さまざまな“理”縁共同体において、最も強力な共通基を形成しています。

もともと思考・観念言語とは、「網分け」によって創り出された抽象的な言葉や記号群です。それが故に、前回も述べたように一定の限界があります(システム(体系)でなくストラクチャー(構造)で捉える!】や【思考・観念言語の利点と限界を考える!】を参照)。

この視点は、「科学的」といわれる医学や衛生学についても同様ですから、研究や実験を重ねて網目を次々に細かくし、ソト界やコト界の現象に限りなく接近していく、ということはできると思います。

しかし、そこから漏れ出した現象については、必ずしも的確に把握できるとはいえません。網目の形や大きさなどによって、把握できない現象は幾らでもあるからです。

人類の持っている外部環境把握の能力が、このブログや【JINGEN(人減)ブログ】で述べてきたように、身分け・識分け・言分け・網分けというプロセスを踏んで発達してきた以上、「科学」という「理知」もまた、その一段階と考えるべきではないでしょうか。

とすれば、現代の「科学」の次に来ると思われる、新たな理知は何でしょうか。人類の環境認識の歴史DynamismAnimismMythologyReligionScienceという時代識知の流れから考察すれば、次の方向を読み取ることも必ずしも不可能ではないと思います。

現在の「科学」を超える、次世代の理知はどのようなものなるのか、超長期の人口波動説から、考えていきます。

2022年7月20日水曜日

「ことしり」から「ことわり」へ!

言語3階層説を総括しています。

3つの言語階層のうち、日常・交信言語と思想・観念言語の関係について、もう一言付言します。 

日常・交信言語は、前回述べたように、「身分け」が知し、「識分け」が知した対象を、「言分け」の知によって言語にしたものです。

一方、思考・観念言語は、「身分け」が知し、「識分け」が知し、「言分け」が知で言語にした対象を、さらに観念によって特定化した言葉です。

両方とも、「身分け」が認知し、「識分け」が識知し、「言分け」が理知した言葉ですが、後者はさらに観念によって特定化された言葉です。

 「観念による特定化」という表現で、2つの階層を分けてきましたが、より正確に表現すれば、以下のようになります。 

「言分け」による言語化には、「言知」による日常・交信言語化と、「理知」による思考・観念言語化の、2段階があります。

言知」とは大和言葉の「ことしり」であり、「識知」が捉えた対象を音声や記号などで表わすことです。

一方、「理知」は大和言葉の「ことわり」であり、「こと()」によって「こと()」を分割し、それらを組み合わせて、新たな言葉を作ることを意味しています。

とすれば、「言分け」という行為の中には、音声化・記号化という行為に加えて、もう一つ「網分け(あみわけ)」という行為が潜んでいることになります。 

網分け」とは、「言分け」による「分節」で生み出された言葉や記号に対し、さらに特定の意図による「網」をかけて、抽象化された言葉や記号を創り出すことです。

(「分節」と「網」の違いについては、【システム(体系)でなくストラクチャー(構造)で捉える!】や【思考・観念言語の利点と限界を考える!を参照してください。)


以上のように、言語3階層説から見ると、私たちの生活構造では「身分け」「識分け」「言分け」という認識行為に加えて、さらに「網分け」という分離行為が行われている、といえるでしょう。 


網分け」によって、日常・交信言語の世界、つまりコト界(言知界)広義的な言語が推理・整頓され、極めて狭義的かつ正確的な思考・観念言語が生み出されるのです。

2022年7月9日土曜日

言語3階層説を総括する!

言語3階層説を具体的な「言葉」によって、改めて検証してきました。

その結果を取りまとめ、言語の3階層を総括しておきます。

すでに【言語3階層説を再び整理する!】において、言語には3つの階層があると述べてきましたが、今回の個別分析によって、次のように要約できると思います。

深層・象徴言語

●「身分け」が認知し、「識分け」が識知した対象を、「言分け」の理知によって原初的な記号に置き換え、シニフィアン(意味するもの)とシニフィエ(意味されるもの)の関係をとりあえず繋いだ言葉である。

縁共同体において自然発生的に創造され、共通記号として広まった言葉である。

●自然発生的に生まれた言葉であるから、シニフィアンとシニフィエの関係やシンタックス(文法)精度は曖昧なままであるが、その分多義的で可変性も高い。

●特定の縁共同体の内部で生まれた言葉であるから、その共同体との距離によって使用の範囲が定まる。

●感覚の捉えた対象を直観的な理知力で表現する記号であるから、詩歌絵画などの形式で表現されるケースが多い。

実例・・・音声言語(擬声語:オノマトペ、擬音語、擬態語、擬容語、擬情語など)、文字言語(擬声文字、擬音文字、擬態文字、擬容文字、擬情文字など)、表象記号(元型:アーキタイプ、神話像、音符記号、絵画記号など)

日常・交信言語

●「身分け」が認知し、「識分け」が識知した対象を、「言分け」の理知によって言語化し、シニフィアン(意味するもの)とシニフィエ(意味されるもの)の関係を共同化した言葉である。

縁共同体において自然発生的に創造され、共通記号として定着した言葉である。

●自然発生的に生まれた言葉であるから、シニフィアンとシニフィエの関係やシンタックスの制度はかなり曖昧であるが、その分広義的で融通性もある。

●特定の地縁共同体が創り出した言葉であり、その共同体との距離によって使用の範囲が定まる。

●識知の捉えた対象を日常的な理知力で表現する記号であるから、会話、書簡、信号などの形式で表現されるケースが多い。

実例・・・音声言語(口頭語、会話語、交信語など)、文字言語(表音文字、文書文字など)、表象記号(絵文字、文字記号、音声記号、交通標識、鉄道信号など)。

 思考・観念言語

●「身分け」が認知し、「識分け」が識知し、「言分け」が理知で言語化した対象を、さらに観念によって特定化し、シニフィアン(意味するもの)とシニフィエ(意味されるもの)の関係を極めて限定した言葉である。

●地縁共同体において自然発生的に創られた日常・交信言語を基礎にしつつ、縁共同体が人工的に創り出した言葉である。

●意図的に創られた言葉であるから、シニフィアンとシニフィエの関係やシンタックスの制度は極めて明確であるが、その分狭義的である。

●特定の縁共同体が創り出した言葉であり、その共同体との距離によって使用の範囲が定まる。

●識知の捉えた対象を組織化された理知力で表現する記号であるから、論文、評論、発表、講演などの形式で表現されるケースが多い。

実例・・・音声言語(思考語、学術語、専門語など)、文字言語(数字、学術文字、専門文字など)、表象記号(物理・化学記号、学術記号など)。

以上のように、言語における3つの階層を整理してみると、私たちが日常的に使っている言葉にも、およそ3つほどの段階があり、それぞれの使用によって、把握対象の姿表現様式の形もまた、さまざまに変わってくるといえるでしょう。