2020年2月28日金曜日

“脱・真実”に対応するブランディングとは・・・

生活民と共立するブランドの方向。
3つめに検討すべきは、生活民の「虚構」基盤へどのように対応するのか、という課題です。

「脱・真実」でブランドは無視される!2020年1月21日】で述べたように、生活民を取り巻く3つの世界において、ブランドという記号は「真実」界では確かに意味を持っていますが、「日常」界ではまあまあの意義、「虚構」界に至ってはほとんど無意味なマークとなっています。

クールでクレバーな生活民ほど、虚構界に軸足を置いていますから、ブランドに対してはほとんどネウチを認めようとはしません。

まして昨今のように、デジタル化の急速な進展に伴って、「post-truth(脱・真実)という現象が日増しに強まっている時代においては、ブランドといネウチに対して、より厳しい視線を向けることになります。

となると、表層的な「記号」の訴求を本質とするブランディングにとって、より強く求められているのは、次の3つの方向ではないでしょうか。



 
①脱・真実の功罪に対応して、デジタル対応とリアル対応を明確に分けたうえで、両面からの強力なアプローチが求められます。

デジタル対応では、夥しく飛び交うフェイク情報に対抗するため、SNSやインフルエンサーを利用した、自己顕示向けの情報発信などよりも、サイト保護対策優良顧客をベースとした情報網の構築などで、さらに的確な情報を発信していくべきでしょう。

リアル対応では、自社商品のリアルな信頼性を増強するとともに、自社商品の探索・選択の省力化購買リスクの削減といった、ブランド本来の信用度を高める情報提供を、デジタル以外の分野でいっそう強化していくべきでしょう。

以上のように、ブランドなどという虚構情報に、冷ややかな視線を送る生活民に対しては、謙虚で堅実な対応こそ求められているのです。

2020年2月17日月曜日

欲動に応えるブランディングとは・・・

生活民と共立するブランドの方向を考えています。

2つめに検討すべきは、生活民の「欲動」へどのように対応するか、という課題です。

欲動はブランドを求めない!:2020年1月13日】で述べたように、生活民は「言葉(word)」や「記号(sign)」よりも「感覚(sense)や「象徴(symbol)」を重視しています。

カラー、デザイン、ネーミング、ブランド、ストーリーなどよりも、シンボル、アーキタイプ、センス(感覚)、ドリーム、ミソロジーなどを重んじる、ということです。

このような生活民へ対応するには、ブランディングにもまた根本的な変革が求められます。

基本的な方向は【
差元化とは何か?2015年8月20日】で述べたような、①象徴次元、②無意識次元、③感覚次元への、3つのアプローチです。



これらをブランディングに応用してみましょう。

象徴次元へのアプローチ
 ブランドが何かを示すものだとしたら、従来のようにハイソ、ファッショナブル、クールなど欲望対象を表現するのではなく、トラディショナル、プリミティブ、ウェットなどの欲動が求める次元を積極的に提示していくことが必要でしょう。

無意識次元へのアプローチ
生活民が無意識次元で求めているのは、眠り、酩酊、陶酔といった状況の中でたっぷりと夢や幻想を味わい、そこから生来の直感力や超能力を回復させて、外部から誘導されるトレンドの虚構性を自覚し、本来の生活願望を確認していくことです。
となると、生活民の無意識次元に対して、できるだけ介入しないことブランディングの役割となるでしょう。

感覚次元へのアプローチ
生活民は表層的、記号的な自己顕示だけでなく、深層的、体感的な満足を求めています。
アパレル分野を例にとれば、防寒、防暑、触感、吸収性、芳香など、感覚・触覚次元の欲動に敏感になっている生活民に対し、より直感的な次元から、新たな素材やデザインなどを積極的に提供するブランドであることを、より強く提示することが求められるでしょう。

以上のように、「欲動」次元へのブランディング、つまり「差元化ブランディング」では、表層的なコト戦略をできるだけ遠慮したうえで、深層的なコトや感覚の世界へアプローチを新たに展開していくことが求められるのです。

2020年2月8日土曜日

ブランディングの全く新たな方向!

生活民とブランドは、まったく相容れない対立関係にある、と述べてきました。

しかし、生活民もブランドも、この世の中にはれっきとして存在しています。

もしブランドが生活民と共立する道があるとすれば、それはいかなる方向でしょうか。

最初に検討すべきは、生活民の「私効」へどのように対応するか、ということでしょう。

生活民はブランドを無視していく!2019年12月29日】で述べたように、ブランドというネウチは、最も強度な「共効」ですから、生活民の強く求める「私効」に届くためには、提供する商品の本質、例えば機能や品質から付帯サービスに至るまで、根本的な次元からの革新が求められます。

現代の市場社会の中で生活民が「私効」を実現していくには、【
生活民の差延化志向に対応する!2017年10月8日】で述べたように、「差延化」という方法があります。

この「差延化」に供給側が対応していくには、【
差延化戦略には5つの方法があった!2016年12月31日】で述べているように、5つの方法があります。

①「私仕様」対応・・・ユーザー独自の注文に応えるもの。

②「参加」対応・・・ユーザーに7~8割程度の素材を提供するもの。

③「編集」対応・・・ユーザーの“自主編集権”を満足させるもの。

④「変換」対応・・・ユーザーが商品の用途を自由に変えられる要素を提供するもの。

⑤「手作り」対応・・・ユーザーに2~3割程度の素材を提供するもの。

5つの戦略は、①から⑤へと進むほど、ユーザーの差延化願望に対応するレベルが上がっていきます。


だが、と③は「個効」と「私効」の妥協策ともいえる手法ですから、もし「私効」を本格的に支える商品やサービスを考えるのであれば、少なくとも②④⑤の手法を検討する必要があります。

つまり、新たなブランディングの第一歩は、次の3つの効用を提供できるような商品やサービスを新たに創り出すことだ、と思います。 



第1は「参加」対応として、ユーザーの自作向けに7~8割程度完成した素材を提供すること。例えば、最後の仕上げはユーザー自身で可能なスーツ素材、仕上げはユーザーが行うキット家具セット、ユーザーが自由に設計できるプレハブ住宅やログハウスなどをブランド化することです。

第2は「変換」対応として、ユーザーが商品の用途を自由に変えられるような商品を創造すること。例えば、用途が多様化できるポケットベルや、総合保管庫に代えられる冷蔵庫など、生活民が自由に用途を変換できるような商品をブランド化することです。

第3は「手作り」対応として、ユーザーの“自作”行動向けに、2~3割程度完成した素材を商品化すること。例えば、ユーザーが手作りで醸造できるビールの素材、自由にインテリアを装飾できるデコラティブ・ペインティング素材、自由に個人手配のできる海外旅行サービスなど、手作りを促進する商品・サービスであることそのもののブランド化です。

以上のように、生活民の「差延化」志向に対応していくブランディングとは、完成した商品やサービスの次元を大きく超えて「私効」達成のための素材や半製品そのものをブランド化していくことだと思います。