2021年11月27日土曜日

言の葉の 元を辿れば 秋の果て

言語3階層(思考・観念言語、日常・交信言語、深層・象徴言語)は、言語形態(音声言語、文字言語、表象記号)と密接に絡み合いながら、生活世界構造へ関わっている、と述べてきました。どのように関わっているのか、階層別に考えていきます。

まずは深層・象徴言語



●擬声語・擬音語

擬声語は、ワンワン、コケコッコー、オギャー、ゲラゲラ、ペチャクチャなど、人間や動物の声を表現する言葉。

また擬音語は、ザアザア、ガチャン、ゴロゴロ、バターン、ドンドンなど、自然界の音や物音を表す言葉、とそれぞれ定義されています。

両方とも、「身分け」がとらえ、「識分け」が意識した、さまざまな音波を、最も近いと思われる「音声」で表現したもので、言葉の原点、言語の萌芽ともいえる階層です。

記号論的に言えばさまざまな音をシニフィエ(Sé=意味されるもの=対象)とし、その音に【最も近い音声】をシニフィアン(Sa=意味するもの=記号)として接合した言語、といえるでしょう。

擬声語・擬音語=Sé /Sa=さまざまな音波/最も近い音声

●擬態語・擬容語

擬態語は、キラキラ、ツルツル、サラッと、グチャグチャ、ドンヨリなど、無生物の状態を表す言葉。

また擬容語は、ウロウロ、フラリ、グングン、バタバタ、ノロノロ、ボウっとなど、生物の状態を表す言葉です。

両方とも、「身分け」が捉え、「識分け」が意識した、何らかの動きや様子を表すもので、聴覚的な音声ではなく、視覚・触覚的な「意識」象徴的な「音声」で表現したもので、モノを表現する写実的言語の萌芽といえる階層です。

記号論的に言えば、意識が捉えた、さまざまな感覚状態をシニフィエとし、それに類似した音声をシニフィアンとして接合した言語です。

擬態語・擬容語=Sé /Sa=さまざまな感覚状態/類似した音声

●擬情語

イライラ、ウットリ、ドキリ、ズキズキ、シンミリ、ワクワクなど、人間の心理状態痛みや快さなどの感覚を表す言葉です。

「身分け」が捉え、「識分け」が意識した、感覚や感情の動きを、聴覚的な音声ではなく、象徴的な「音声」で表現したもので、情意的な言語の萌芽ともいえる階層です。

記号論的に言えば、識分けが捉えた、さまざまな心理状態をシニフィエとし、その状態を表現しようとする音声をシニフィアンとして接合した言語です。

擬情語=Sé /Sa=さまざまな心理状態/表現しようとする音声


このように見てくると、深層・象徴言語は、同一の言葉を使う語族ごとに、言葉の成り立ちや意味が異なってくるという事実を示しているようです。

擬声語でいえば、「ワンワン:日本語族」は、「bow-wow:英語族」、「toutou:フランス語族」、「wáng yī:中国語族」、「gos wau:アラビア語族」、「yay-vay:トルコ語族」など、それぞれ異なっています。

また擬容語では、「バタバタ:日本語族」は、「flap:英語族」、「battre:フランス語族」、「plap:韓国語族」、「reveref:アラビア語族」、「solapa:スペイン語族」など、さまざまな音声化が行われています。

このことは、民族の音声感覚によって、言葉の基盤が形成されていることを示しています。

民族毎に異なってくる言語アラヤ識の基盤は、こうした深層言語の構造に潜んでいるのではないでしょうか。

2021年11月18日木曜日

生活世界と言語3階層の関係を探る!

生活世界の構造と精神状態や生活願望の関係を明らかにしてきましたので、いささか前後しましたが、この構造と言語3階層の関係、つまり思考・観念言語日常・交信言語深層・象徴言語がどのように位置づけられるのか、を明らかにしていきます。


思考・観念言語

「言分け」で生まれたコト界において、「おもう(思う)」行動や「はなす(話す)」行動に対応する手段として使われている言葉です。

実例としては、音声言語(思考語、学術語、専門語など)、文字言語(数字、学術文字、専門文字など)、表象記号(物理・化学記号、学術記号など)が相当します。

コト界は人間が言語記号によって独自に作り出した世界ですから、思考・観念言語典型的な人工記号として生み出され、かつ人為的なルールによって使用されています。

日常・交信言語

「識分け」で識知されたモノコトを、「言分け」によってコト界のコトに転換し、「はなす(話す)」行動として使われている言葉です。

実例としては、音声言語(口頭語、会話語、交信語など)、文字言語(表音文字、文書文字など)、表象記号(絵文字、文字記号、音声記号、交通標識、鉄道信号など)が相当します。

モノコト界のモノやコトは、「言分け」でコトとして“理知”されると、共同体が共有する記号として定着し、会話や文通を通じて情報交換を可能にします。

音声や文字などの記号と識知された対象が、シニフィアン(意味するもの)とシニフィエ(意味されるもの)として結びつき、特定のシンタックス(統辞関係)として流通するようになるからです。

その意味で、日常・交信言語は、コト界とモノコト界を始終出入りする言語階層と言えるでしょう。

深層・象徴言語

「身分け」で生まれたモノ界の「おぼえる(覚える)」行動に対応する手段を基本としつつ、モノコト界の「しる(識る)」行動への接近としても使われている言葉です。

実例としては、音声言語(擬声語:オノマトペ、擬音語、擬態語、擬容語、擬情語など:注参照)、文字言語(擬声文字、擬音文字、擬態文字、擬容文字、擬情文字など)、表象記号(元型:アーキタイプ、神話像、音符記号、絵画記号など)が相当します。

モノ界のモノは、「識分け」でモノコトとして理知される以前は、さまざまな無意識的イメージとして、頭脳の内側を浮遊しています。

このイメージを原初的な言葉に変えたものが深層・象徴言語であり、それによって「識分け」段階へと移行させていくことができます。

こうした意味で、深層・象徴言語は、モノ界とモノコト界を接続させる言語階層と言えるでしょう。

以上で説明してきた、言語記号の3つの形、つまり音声言語、文字言語、表象記号は、下表のように整理できます。 


このように考えてくると、言語3階層(思考・観念言語、日常・交信言語、深層・象徴言語)は、言語形態(音声言語、文字言語、表象記号)と密接に絡み合いながら、生活世界構造へ関わっているものだ、ともいえるでしょう。

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注:金田一春彦『擬音語・擬態語辞典』角川書店:1978

擬声語:人間や動物の声を表す言葉。わんわん,こけこっこー,おぎゃー,げらげら,ぺちゃくちゃ など。
擬音語:自然界の音や物音を表す言葉。ざあざあ,がちゃん,ごろごろ,ばたーん,どんどん など。
擬態語:音ではなく何かの動きや様子を表すもののうち,無生物の状態を表す言葉。きらきら,つるつる,さらっと,ぐちゃぐちゃ,どんより など。
擬容語:音ではなく何かの動きや様子を表すもののうち,生物の状態を表す言葉。うろうろ,ふらり,ぐんぐん,ばたばた,のろのろ,ぼうっと など。
擬情語:人の心理状態や痛みなどの感覚を表す言葉。いらいら,うっとり,どきり,ずきずき,しんみり,わくわく など。


2021年11月9日火曜日

生活世界構造で生活願望を読む!

私たちの生きている生活世界前回のように整理すると、それぞれの世界から湧き上がってくる、さまざまな生活願望の実態が如実に見えてきます。

どのような願望が、どのような形で現れてくるのでしょうか。


●欲外:insentien

ソト界(物質界:Physicsでは、精神行動が「無感覚:覚えず」ですから、生活願望もまた「欲外:insentient」となります。

言語行動も行われていない世界ですから、ここでの願望は意識もされず、表現も行われません

●欲動:drive

モノ界(認知界:Physisでは、精神行動が「無意識:覚える」ですから、その中から生まれる生活願望は「欲動:drive」となります。

認知はされているものの、識知以前の無意識的な願望であり、生死の区別や善悪の分割など日常的な評価基準をはるかに超えた、動物的、衝動的な願望です。

この世界には、深層・象徴言語が微かに届いていますから、「欲動」という願望も、ほとんど意識されないにもかかわらず、夢や幻想として現れる、さまざまなイメージ、つまり「象徴」として表現されます。

●欲求:Want

モノコト界(識知界:Gegonósでは、精神行動が「意識:識る」ですから、そこから生まれる生活願望は「欲求:Want」となります。

want〉という言葉がいみじくも示しているように、咽喉が乾いたから飲み物が欲しい、空腹を覚えたから食べ物が欲しい、寒くなったから衣類が欲しいなど、一人ひとりの身体の中で何かが「欠如」してくるため、それを「必要」とする心理として現れます。

そこで、欲求の対象になるのは基本的には物質であり、願望の中身もまた生理的、物質的なものとなります。

この世界では、深層・象徴言語と日常・交信言語がともに使われていますから、「欲求」という願望はさまざまなイメージや、具体的な言語として表現されます。

●欲望:Desire

コト界(理知界:Cosmosでは、精神行動が「知識:想う」、あるいは「はなす:話す」ですから、生活願望は「欲望:Desire」となります。

テレビで紹介された料理が食べたい、流行の服が着たい、友人なみのマンションに住みたいなど、物質そのものというよりも、その上にのった文化関係や社会関係、あるいはそれらについての観念や表象を求めるものです。

人間が言葉を持った故に生まれてきた願望であり、生理的、生物学的な必要性がなくとも、「言葉(word」や「観念(idea)」といった「記号(sign)」の刺激を受けて、私たち一人ひとりの内部に発生し、物質への願望を越えて、言語的、文化的な願望となります。

この世界では日常・交信言語と思考・観念言語が使われていますから、「欲望」という願望は具体的な単語観念的な用語で表現されます。



以上のように、生活世界構造で読み解くと、私たちの生活願望がどのようにして生まれ、いかなる形で表現されるのか、ひとまずは整理できます。