2017年5月23日火曜日

「脱・真実」へ対応する!

post-truth(脱・真実)という言葉が流行しています。

この言葉を作ったオックスフォード大学出版局によると「客観的な事実が重視されず、感情的な訴えが政治的に影響を与える状況」を意味しているそうです。

アメリカ合衆国はもとより、ヨーロッパ諸国の政治状況をみると、なるほど!とも頷けます。日本もまた同様なのかもしれません。

背景の一つには、パソメディアの急速な拡大でマスメディアの相対的な凋落という、情報環境の激変が考えられます。

こうした社会的環境の変化に、生活民はどのように対応していったらいいのでしょうか。

メディア上を飛び交っている“言葉”の本質的な機能を改めて理解するところから、再構築していくことが求められます。

これについてはすでに「
前後軸が作るメタ・メッセージの世界」((2015年3月12日)や「差真化とは何か?」(2015年11月5日)で述べていますが、改めて解説しておきましょう。

私たち人間は、自然環境であれ社会環境であれ、周りの生活世界を、言葉やシンボルによって理解しています。生活世界のさまざまな現象は、一つずつ言葉と対応することによって、私たちの頭脳の中に収まっているのです。

だが、言葉とは意外に曖昧なもので、真実を示すとともに、虚偽もまた示すものです。言葉という人間独自のツールには、真実を表すとともに、嘘を表すことという、両方の機能があるからです。

こうした言葉の機能を、文化人類学の専門用語では「メタ・メッセージ」と名づけています。一つ一つの言葉がさまざまなモノやイメージを示す「基本的なメッセージ」の次元を超えて、幾つかの言葉がまとまって一定の約束事を示す「超越的なメッセージ」をあらわすことを意味しています。

この立場に立つと、言葉の示すことを全く疑わないですべて真実とみなすメタ・メッセージの場が、儀礼や儀式に代表される「真実空間」であり、逆に言葉の示すことはすべて虚構とみなしたうえで、その嘘を楽しむメタ・メッセージの場が「虚構空間」ということになります。



そして、2つの空間に挟まれて、真偽の入り混じった生活空間こそが、私たちが毎日暮らしている「日常空間」です。

要するに、私たちの生活空間とは、毎日の暮らしの世界、儀式や儀礼などの真実世界、ゲームやドラマなどの虚構世界の、3つで構成されていということです。

それゆえ、私たちの日常生活とは、真実と虚構の狭間で絶えず揺れ動いている、ということになります。

以上のように考えると、言葉が作り出す、さまざまな情報世界への対応がこれまでとはかなり変わってきます。

供給側からのマーケティング戦略では、真実向けを差真化戦略、虚構向けを差戯化戦略と位置付けて、日常的な戦略とは一味違った戦略を採用し始めています。

こうした社会環境の変化に対して、生活民はどのように対応していけばいいのでしょうか。 

2017年5月11日木曜日

SNSにどう向き合うか?

企業側からの差汎化戦略として、近年最も注目すべき事例の一つはSNS(Social Networking Service)の普及・拡大でしょう。

いうまでもなくLINE、 Facebook、Twitter、Instagramなど、internetを利用してユーザー同志が手軽に情報を発信しつつ、交流を深める双方向メディアです。

利用者は年々増加しており、今年中に国内で7500万人を越え、ほぼ2人に1人が利用する、との予測もあります。

年齢構造では、20代が最も高く7割に達していますが、40代で5割、50代で4割、60代で2割と、中高年でも大きく伸びています

利用目的をみると、全体の8割が「知人や友人とのコミュニケーション」、3割が「情報の探索」、2割が「交流の拡大」「体験の報告」、1割が「思考や考え方の主張」などで使っているようです(総務省・通信利用動向調査)。

SNSのメリットは、私たち一人ひとりが、新聞・雑誌やテレビといった既成のマスメディアを通さなくても、独自の情報を自ら発信できるようになったことです。

マスコミやミニコミとは一味違うパソコミ(Personal communication)の出現ともいえるでしょう。情報の社会的交流という生活分野では、今までほとんど受信一辺倒であった生活環境が大きく変わって、自ら発信する行動が急速に拡大しているのです。

そこで、無名の一市民もまた「保育園落ちた日本死ね!!!」とか「#東北でよかった」などと書き込んで、ネット上で〝炎上〟を引き起こし、社会的な関心を集めることに成功しています。

デメリットとしては、マスメディアのように送り手側の内容チェックが入りませんから、「某有名人が死んだ」とか「某国のミサイルが発射された」など、とんでもない虚偽情報やデマが大量に飛び交ようになったことでしょう。

これにつれて、客観的な事実に目をつむり、感情的な主張のみが罷り通る政治状況、いわゆる「Populism」も広がって、「post-truth(脱・真実)などという懸念も高まっています。

供給側の差し出した、こうした差汎化状況に、一人ひとりの生活民は一体どのように対応していけばよいのでしょうか。




一つは情報環境へ
の差延化行動として、「私仕様」「参加」「編集」「変換」「手作り」という5つの基本行動を積極的に展開し、情報市場の生活素場化を進めていくことです。

もう一つは情報発信の基本である言語行動の多様性、つまり「言葉」というツールの持つ、真実と虚構という二重性を徹底的に理解したうえで利用していくことです。

次回からは供給側の差し出す差真化戦略差戯化戦略に向けて、生活民自身の対応行動を考えていきましょう。

2017年4月27日木曜日

市場を“素場”に変えよう!

生活民が差汎化対応を積極的に行えば、既成の消費市場を自助のための「生活素場」に変えていくことができます。

生活民の差延化行動が増加するにつれて、供給側でもこれに対応するような経営行動が高まってくるからです。

例えば「手作り」行動の拡大は、DIY(Do it yourself)産業100円素材産業などを生み出し、「編集」行動の進行は総菜バイキングマイブレンド酒などを、すでに出現させています。

さらに才知に富んだ「変換行動」に刺激されて、供給側でも意外な新商品を生み出しています。



洗顔クロス・・・東レ㈱が1987年から発売しているメガネ拭き用「トレシー」は、洗顔時に使うと「毛穴の汚れを取るのに効果的」という口コミが20~30代の女性の間で広まって、売り上げを4倍に伸ばしました。これに対応しようと、同社では2004年に、洗顔専用の「トレシー洗顔クロス」やボディ専用の「トレシーなめらかボディタオル」を発売しています。

手芸用マスキングテープ・・テープ状ハエ取り紙からスタートし、包装用テープや工業用マスキングテープなどの粘着テープを主力製品とするカモ井加工紙㈱は、手芸好きの女性たちの間で広がった、マスキングテープの応用事例に感銘を受けて、2008年に色鉛筆のような20色のテープ「mt」を開発し、文具店や雑貨店で発売しています。

食べるラー油・・・激辛香辛料のメーカーである㈱桃屋は、リーマンショック後の内食志向が強まる中で、単身者や共働き世帯などでは「のっけ飯」や「卵かけごはん」など、簡単ご飯への需要が浮上し、激辛のラー油を利用する動きを捉えて、2009年、激辛香辛料の1つを「食べる調味料」や「食べる料理」へと用途を転換させ、「辛そうで辛くない少し辛いラー油」を発売しました。

以上のように生活民の差汎化対応が拡大すれば、企業側の差延化対応も広がりますから、消費市場は生活素場に変わっていきます。

それこそが、生活民マーケティングとって、究極の目的の一つなのです。

2017年4月16日日曜日

「共効」を素材として「私効」に変えられるか?

生活民の差汎化対応で、2つめに求められる行動は、「共効」を素材として差延化し、「私効」に変えることです。

企業側の差し出す新商品には、常に機能、記号、体感、遊戯、真摯などで、新しいネウチ(共効)が付加されています。

しかし、生活民自身にとっては、それらが自らの生活に本当にネウチ(私効)があるか否か、必ずしも決まっているわけではありません。

とすれば、さまざまな新共効を私効に変えられるか否か、を冷静に見分けたうえで、可能性があるとすれば、その部分を自ら変換して「私効」化することが必要です。

先に述べた「差延化」という行動を、生活民の側から積極的に実施していくということです。


具体的に言えば、私仕様、参加、編集、変換、手作りなどの差延化行動を、新たな共効に対して、次のように実施していくのです。


①「私仕様」・・・供給側の差し出した新オーダーシステムを利用して、どこまで自分自身の求める「私効」が達成できるか、を見極める。

②「参加」・・・供給側の提供する新商品を、7~8割程度の素材をみなして、どこまで自分自身の求める「私効」が達成できるか、を考える。 

③「編集」・・・供給側の差し出す、新しい商品を素材や部品とみなして、自らの“自主編集権”がどこまで満足できるか否かを判断する。

④「変換」・・・供給側の差し出す、新たなネウチ(共効)をあくまでも一つの素材とみなして、どこまで自らの「私効」に変えられるか、を検討する。

⑤「手作り」・・・供給側が新たに素材として提供するネウチ(共効)を利用しつつ、自らの頭と手を使って、どこまで自分のめざす「私効」を作り上げられるのか、を改めて考える。

以上のように、生活民の差汎化対応では、新たに提供されたネウチを冷静に取捨選択したうえで、自らの生活に取り入れていくという、高度な知恵が求められます。 

2017年4月3日月曜日

新商品の“共効”をしなやかにチェックする!

生活民の差汎化対応で、最初に求められる行動は、「企業の提案する新“共効”を、そのまま受け入れず、個効、私効としてチェックする」ことです。

新共効には、新機能、新記号、新体感、新遊戯、新真摯などがありますが、これらが生活民にとって、本当にネウチのあるものかどうか、を慎重に検討することが必要です。

企業側では、技術革新の成果やマーケティングリサーチの結果などに基づいて、新たに開発した新商品を開発し、次々に消費市場へ投入してきます。

だが、それらはあくまでも供給側からのネウチ提案にすぎませんから、個々の生活民にとっては、そのまま受け入れるべき個効、あるいは自ら利用できる私効ではありません

それゆえ、生活民には新商品の差し出す新たなネウチ、つまり新共効が果たして自らの個効や私効へ転換できるか否か、厳しく検討することが求められます。




新機能については、既存機能との違いを細かくチェックし、自らの生活構築にどこまで役立つかを見定めなければなりません。

新記号については、自らの差異的ネウチ観と見合っているか否か、を冷静に検討することが必要です。

新体感については、既存の体感に新たな体験を付け加えることが本当に必要なのかどうか、を見分けることが重要です。

新遊戯新真摯などでは、生活民が本当に求めているものであるか、を改めて検討しなければなりません。

生活民のしなやかなネブミ行動によって、新商品が生活素場に根付くか否か、それが初めて決まってくるのです。

2017年3月24日金曜日

差汎化対応の3つの行動

企業側のマーケティング戦略でいえば、新たなネウチ(共効)を持った新商品を、消費市場に向けて積極的に提案していくこと、それが「差汎化」戦略です、

新たなネウチ(共効)としては、新機能、新記号、新体感、新遊戯、新真摯、さらにはこれらをさまざまに組み合わせたネウチを持った新商品や新サービスが代表的です。

(下図では
社会界の9院をベースにして、代表的な5共効をあげています。)


昨今の消費不況の中で、供給者である企業側は、新しいなネウチ(共効)を持った用具(道具)や報具(情報具)などの開発に熱心であり、さまざまな新商品が毎日のように発売されています。

とりわけ新機能商品については、近年、AIやロボットなどの新情報技術を応用して開発された電子機器や乗用車など、続々と新機能商品が売り出されています。

このように続々と提案される新共効に対して、生活民はどのように対応していけばいいのでしょうか。

基本的な行動は次の3つだと思います。



 ①企業の提案する共効をそのまま受け入れず、個効、私効としてチェックする。
 ②共効を素材として差延化して、私効化する。
 ③差延化で生み出した私効を企業側へ提案し、共効化していく。


3つの対応行動によって、消費市場を「消費財購入」から「生活素材調達」の場へと転換させていくこと、これこそが生活民としての差汎化対応だと思います。

2017年3月14日火曜日

差汎化戦略に対応する!

生活民マーケティングの立場から、差延化戦略に続いて、その対極にある差汎化戦略への対応策を考えてみましょう。

差汎化戦略とは何なのか、企業側からのそれについては、すでに「
差汎化とは何か? 」(2015年9月18日)で述べましたように、社会、価値、同調などを求める世欲に応えて、社会的なネウチ(価値=共効)や共同体的な需要を創りだす手法です。

経済学では、いわゆる「ネウチ(有用性)を「効用」という言葉で表していますが、生活民マーケティングでは、この「効用」を次の
3つの次元に分けて考えていきます。

 共効・・・社会集団が共通して認める有用性=共通効用
 個効・・・個人が共効に基づいて認める有用性=個別効用
 私効・・・私人が純私的に認める有用性=私的効用

このように分けると、
すでに述べたように、市場社会で行われている、さまざまな需給行為には、次のような矛盾が指摘できます。

①供給者である企業は、市場の存在を前提にして、商品のネウチを作り出し、かつ供給しています。このネウチとは、市場を支える多くの需要者が共通して求める「個効」を集約したものですから、まさに「共効」です。つまり、商品のネウチとは、多くの需要者が共通して商品に求める有用性、いわば有用性の“最大共通素”とでもいうべきものです。

②通常、需要者である個人は、それらの「共効」に従って商品を購入し、そのとおりに使用して、個人的な効用である「個効」を実現しています。

③しかし、個性や独創を重んじる生活民の場合は、純私的、主観的な「私効」を目的にしますから、既存の商品を購入した場合でも、それに手を加えたり、別の有用性に変換するなど、自分なりの手法で使用して「私効」を満足させています(差延化対応)。この場合、一つの商品の有用性は、市場での最大共通素を前提にしながらも、その中から個人的、主観的に選ばれる有用性、いわば“最小共通素”となります。

このようなズレがあるため、一つの商品の持つ「共効」と「私効」の間には微妙なズレが生まれてきます。

企業の側では、できるだけ多くの顧客の求めに共通する「個効」を抽出して、商品の「共効」を作り出そうとします。これに対し、個性的な生活民の側ではできるだけ自分だけの有用性を求めて、商品の「私効」を購入しようとします。

両者は当然重なっていますが、最大共通素と最小共通素がぴったり一致するのはごく稀なことです。そこで、企業は少数需要者の「私効」の一部を切り捨てることで大量生産を可能にし、また生活民は自分なりの「私効」をある程度犠牲にすることでその生活行動を実現していきます。

企業の側に立てば、この落差を埋めることが差汎化戦略であり、次のような方向が求められています。

第1に、生活民自身が試みる用途転用や用途変換に常に注意を払って、既存商品のネウチを再点検することが必要です。

第2に、社会変化や生活変動に対応して、既存商品のネウチを一旦解体し、そのうえで変化に見合うように再構築していくことが必要です。

第3にはより積極的に、今後の日本が向う人口減少社会の望ましいと思う方向を、商品やサービスの新たなネウチとして提案していくことです。

供給者の行うこのような差汎化戦略に対して、生活民一人ひとりはどのように対応していけばいいのでしょうか。