2019年8月28日水曜日

複合社会へ進展する

ポスト消費社会論へ戻ります。

「統合社会への転換」という視点から、互酬制という、新たな生産・分配制度が浮上してきました。

実をいえば、この制度は、【
象徴制度を再構築する!2019年7月30日】で述べたように、文化人類学済人類学が、人類の歴史の中から発掘してきたものです。

その代表者である、経済人類学者のK.ポランニーによると、人類が歴史的に創り出してきた生産・分配制度、つまり経済のしくみには、互酬、再配分、家政、交換4つがある、といっています。




それぞれの内容を改めて確認しておきましょう。

互酬(reciprocity)・・・「義務としての贈与関係相互扶助の関係」であり、「主に社会の血縁的組織、すなわち家族および血縁関係に関わって機能する」制度として、「対称的な集団間の相対する点の間の(財の)移動」をいう。

再配分(redistribution)・・・「権力の中心に対する義務的な支払い中心からの払い戻し」であり、「主に共通の首長の下にある人々すべてに関して効力をもち、従って、地縁的な性格」の制度として(財が)中央に向かい、そしてそこから出る占有の移動を表す」ものである。

家政(house holding)・・・「自らの使用のための生産」であり、ギリシャ人が、「エコノミー」の語源たる「オイコノミア(oeconomia)と名づけていた制度として、「閉鎖集団」内の構成員の「欲求を満足させるための生産と貯蔵という原理」に基づいている。

交換(exchange)・・・「市場における財の移動」であり、「システムにおけるすべての分散した任意の二つの点の間の運動」となる制度である。

    (『大転換』『人間の経済』『経済の文明史』による)

現代風にいいなおせば、「互酬」とは家族や親族、さらには継続的な地縁・友縁などによる生活扶助制度、「再配分」とは国家による生活保障制度、「家政」とは個々人とその家族だけの自給自足制度、「交換」とは市場を通じて形成される生活構築制度ということになるでしょう。

これら4つの制度について、ポランニーは、常に同じ比重で存在してきたのではなく、時代とともに変化してきた、と述べています(『大転換』)。

つまり、「西ヨーロッパで封建制が終焉を迎えるまでに、既知の経済システムは、すべて互酬、再配分、家政、ないしは、この3つの原理の何らかの組み合わせ基づいて組織されていた」のですが、16世紀以降、重商主義システムの下に、初めて「市場」という、新たな交換システムが登場しました。

この交換システムは、19世紀に入ると、貨幣を交換手段とする市場経済へと発展しました。市場経済は、従来の〝付属物〟的な「市場」とは根本的に異なる「市場交換システム」として拡大しましたので、経済制度の中心は互酬、再分配、家政から交換へと移行しました。

しかし、それでもなお互酬、再分配、家政の役割は消滅したわけではなく、とりわけ再分配の比重は高まる傾向にある、とも述べています。

以上の視点にたつと、現代社会の望ましい生産・分配制度とは、一息に互酬制を回復することではなく肥大した市場交換を抑制しつつも、互酬、再配分、家政の諸制度をほどよくバランスさせた社会、ポランニーのいう「複合社会(complex society)」へ向かって徐々に進むことだ、といえるでしょう。

家族や集落の相互扶助だけに頼る互酬中心社会、社会主義国家や福祉国家のような再配分至上社会、個人や家族内だけで生産・使用する家政社会、企業や資本家だけが闊歩する市場経済社会の、いずれの一つだけに偏るのではなく、4つの制度を4つとも存続させながら、それぞれのバランスをとっていくという方向です。

あるいは、移りゆく時代の変化に応じて、その組み合わせを再構成したり、それぞれの内容を微妙に変換していくこと、といってもいいでしょう。

それゆえ、ポスト消費社会の第3の方向として、「複合社会への進展」があがってきます。第1の生成社会や、第2の統合社会とともに、第3の複合社会の中にも、ポスト消費社会は改めて位置づけられ、その方向を問い直されなければなりません。

2019年8月20日火曜日

ファミレスからパソレスへ!

16年前に筆者が予言した現象がいよいよ始まった、と思われる記事が日本経済新聞に掲載されましたので、ポスト消費論や統合社会論を中断し、この件をについて一言触れておきます。

16年前、まさに全盛時代だったファミレスの将来について、筆者は『
人口減少社会のマーケティング・・・新市場を創る9つの消費行動』(古田隆彦著、生産性出版、2003年7月刊)の中で、次のように予言しています。

70年代から続いてきた「ファミリーレストラン」という名称は、まもなく消えていくだろう。代わって「シングルレストラン」や「ディンクスレストラン」といった、新たな外食形態が拡大してくる。

家族の拡大によって、外食市場ではすでに、従来の「ファミレス(ファミリーレストラン)」から「ファミレス(ファミリーがなくなる)が進み始めている。

その9年後、「週刊現代」(2012年02月20日号)の特集「経済の死角」にも、筆者は
次のような展望を載せています。

ファミレスは3世代家族や子どものいる核家族をターゲットとして生まれたが、そのような世帯は全体の4割を切るまで減ったと見られる。

代わりに増えたのが単身者や独居老人で、ファミリーを対象にした形態やメニューではやっていけない。すでに衰退期に入った業態といえる。

これらの予言がいよいよ当たり始めました。

2019年8月17日、日本経済新聞夕刊1面に、次のような記事が掲載されています。


ファミレス「個客」歓迎・・・電源・ついたて・・・1人席充実 単身世帯増 取り込み競う


要旨は次のようなものです。

外食各社が「お一人様」の取り込みに本腰を入れる。

ファミリーレストラン「ガスト」は、席の両側についたてを配置し、電源を備えた1人席を拡大する。

定食店「大戸屋ごはん処」は1人でも快適に食事できる新型店を開業した。

単身世帯の増加が続くなか、従来はファミリー層の利用が多かった飲食店でも「個客」の取り込みが急務になっている。

ファミレスや焼き肉など家族層の利用が多かった飲食チェーンが「個客」向けの店舗を増やしているのは、単身世帯の需要を取り込むためだ。


国立社会保障・人口問題研究所によると、20年の総世帯数のうち単身世帯は36%となる見通しで、今後も増加するとみられている。

今さら、という感じもなきにしもあらずですが、もう一歩踏み込んで、「ファミレス」から「パソレス(パーソナル・レストラン)」など、業態ネーミングの変更動向にまで触れてほしかった、とも思います。

2019年8月9日金曜日

互酬制を再建する!

互酬や互酬制を再建せよ」という主張は、最近ではマーケティング批判という範疇を超えて、社会学者はもとより経済学者や政治学者、さらには文芸評論家にまで広がっています。

いうまでもなく、それぞれの意見において互酬の内容や範囲には違いがありますが、家族、親族、地縁などの共同体に、構成員相互間の生活扶助や生活支援を、一定の規模で委ねようとする方向はほぼ一致しています。


これらの意見の背景にある、主な論拠を探ってみると、次の3つに整理できます。

第1は国家制度の欠陥を補う視点

近代国家に特有の、社会保障制度の拡大やそれに伴う財政への過剰な負担を避けるため、さまざまな共同体による互酬性を再建し、負担の一部を分担してもらおうという意見です。

生活に関わる諸費用や必要サービスのほとんどを国家に頼る、北欧型の福祉国家モデルを見直し、個人を包み込む共同体との連携強化をめざしています。

第2は市場経済システムの欠陥を補う視点

市場経済の拡大が引き起こす格差拡大や貧困層の増加を救済するため、セーフティーネット(安全網)として、共同体を再構築するという意見です。

アメリカ型市場経済の利点は認めつつも、過剰な競争と加重する自己責任が、結果としてもたらすマイナス効果に対処していくには、互酬制による最終的保護が求められる、というものです。

第3は社会構造の欠陥を補う視点

現代社会の中に構造的に潜んでいる個人化・モナド(孤立)化に対処するため、さまざまな共同体による保護体制が必要とする主張です。

具体的には、伝統的な共同体の復活や新たな共同体の構築によって、多様な互酬性を拡大し、老齢者や幼少年の保護、弱小家庭への支援などをめざしています。

以上のように、幾つかの分野から一斉に互酬制への期待が高まってきたのは、人口減少や経済停滞などに伴って、現代社会が成熟した結果だといえるしょう。

人口が増加し、経済も伸びていた時代には、成長・拡大型社会の背後に密かに隠れていた、さまざまな欠陥が、次第に露呈してきたというわけです。

とすれば、これからの日本にとって、このような要請に応えうる互酬システムの再構築が課題になります。

その方向は大きく分けて、次の2つでしょう。

1つは破壊された共同体の再建

市場経済や福祉国家がなしくずしに壊してきた伝統的共同体、つまり家族や親族、村落や町内会などの共同体を改めて支援し、保護・育成する政策が求められます。

2つめは新しい共同体の構築

都市化や産業化の進んだ現代社会に対応するには、伝統的な共同体の再興だけではもはや不可能です。

そこで、ハウスシェアリングやルームシェアリングなどのシェアリング家族、老齢者や単身世帯などが相互支援を前提に一緒に居住するコレクティブ家族、緊急時の共同対応や生活財の共同購入などを行なうマンション共同体、共同で農業を営む新農業共同体など、すでに進みつつある、新たな共同体の萌芽を活かしつつ、未来型の互酬制の主体を積極的に育成していくという対応が必要になります。

もしも以上にあげたような新旧の共同体の増加によって、新たな互酬制を拡大していくことができれば、社会全体の安定感は徐々に増していくでしょう。