2015年7月31日金曜日

21年前、差延化戦略を提案しました!

「差別化」「差異化」と話を進めてきましたので、先に掲げた一覧表でいえば、「差元化」「差汎化」「差延化」「差真化」「差戯化」の順に、諸戦略を説明していくべきかもしれません。
 
しかし、伝統的な「差別化」から「差異化」が独立したように、さらなる細分化のきっかけを作ったのは「差延化」でしたので、順番を変えて、この戦略から説明していきます。

「差延化」という戦略を最初に提案したのは、他でもない、この筆者です。

21年前の1994年4月29日の日本経済新聞・経済教室で「消費、〝効用〟創造型に移行」と題する論文において、次のように書いています。
 
  • ポスト構造主義の主導者、J・デリダは「差異化」の延長上に「差延化」を展望している。差延化とは「差異とはあらかじめ作られたものではなく、時間とともに作られていく」という考え方に基づく。
  • これを商品のレベルでいえば、「差異」があらかじめ決定された売買時の「価値」であるのに対し、「差延」とは使用している間に作られていく「効用」ということだろう。
  • 好況と深刻な不況を経験した後の消費社会は、その経験を生かして、生活者自らが「効用」の創造者となって生活を構成していく生活者主導社会へ移行していく。このため、マーケティングの方法も、時間とともに効用を生み出していく「差延化」に変わる。 
「差別化」から「差異化」へ、さらに「差延化」へと視野を広げると、マーケティング戦略は従来の〝機能・効率・利便の差〟という欲求次元や、〝記号・イメージ〟という欲望次元を超えて、より広大な沃野に歩み出ることが可能になってきます。

2015年7月29日水曜日

差異化戦略はなぜ登場したのか?

差異化戦略が注目されるようになったのは、1980年代の半ばからです。その背景には、次の3つの事情が重なっていました。

第1は工業社会の高度化。これに伴って、各企業の商品やサービスの水準が均一化し、どれをとってもさほど差が見られないという状況が生まれたことです。新しい機能・効率・利便性は、アッという間に他社の商品にも広がり、自社商品の優位性を失わせました

第2はテレビや週刊誌といったマスメディアの拡大。多様なメディアは、ユーザー層の情報感度を刺激して、流行やムードに乗りやすい社会風潮を創りました。ユーザーは商品の機能・効率・利便性よりも、ファッション性や流行性に強い関心を向けるようになりました。

第3はバブル経済の進行。これに伴って、株や不動産で資産を増やした消費者の多くは、機能・効率・利便型の商品では一通り所有欲を満たしたうえ、次の消費目標として、ステータスやファッションなど、文化的・記号的なネウチを求めるようになりました。

以上のように、①差別化競争の飽和化、②情報化の進展、③バブル経済の進行という、3つの要因が重なった結果、生活者の願望はもはや単なる機能・効率・利便といった〝差別〟次元を超えて、自己表現や自己誇示といった、表層的な記号の〝差異〟へ重心を移していったのです

そこで、マーケティングにおいても、機能・効率・利便性といった基本的なネウチの競争ではすまなくなり、その上に表現性、流行性、誇示性など、表層的なネウチを載せて、新たな需要を作り出すという手法が広がりました。

これがカラー、デザイン、ネーミング、ブランド、ストーリーといった記号を駆使する、いわゆる「差異化」手法でした。

また、これらの差異を強く刺激、誘導、喚起するため、広報・広告手法においても、急拡大したマスメディアを最大限に利用する、新たな戦略が展開されました。


商品イメージ戦略としては、流行、センス、ライフスタイルなどの〝記号〟を幾重に張り巡らすために、イメージ広告や販促イベントが積極的に実施されました。

また企業イメージ戦略としては、センスや感性に強い〝情報発信型企業〟をユーザーに印象づけるため、
感性広告CI(コーポレイト・アイデンティティー)、メセナ(mécénat:企業が資金を提供して支援する文化・芸術活動)など、いわゆる〝感性マーケティング〟が頻繁に行われました。

以上の傾向を的確に象徴しているのが、80年代後半に「便利な生活」から「おいしい生活」へと移行したCMの変化です。


デパートはもはや「便利な生活用品」を売る場所ではなく、「おいしいライフスタイル」を売る場所に変わったのです。

2015年7月28日火曜日

トイレットペーパーから何を学ぶ!?

トイレットペーパーの市場動向が注目されている。人口が減っているのに、販売量が増えているからだ。この背景には業界が打った、7つの新戦略がある。

・・・繊研新聞(2015年7月21日)Study Roomに書きました。
・・・http://gsk.o.oo7.jp/insist15.htm#tp



2015年7月22日水曜日

差別化と差異化・・・何が違うのか?

1970~80年代には、「差別化」と「差異化」がマーケティングの2大戦略として、さまざまな生活財関連企業に採用されてきました。

しかし、一部の学者や経営者からは、2つの区別を無視する意見が出されています。商品やサービスの違いを示すのだから、「差別化のうちカラーやデザインの差を訴求するのが差異化」とか、「差異化も差別化の一つの手法にすぎない」などというものです。

けれども、こうした見方はモノ界とコト界の違いや人間のさまざまな能力をまったく理解していない、まことに浅薄な主張です。「差別化」戦略と「差異化」戦略には、単なる言葉の差を超えて、内容面で根本的な違があるからです。

なぜなら、1970年代に、フランスの社会学者J.ボードリヤールが「消費されるためには、モノは記号にならなければならない」(『物の体系』:Le Système des objets,1968)と主張したことによって、私たちの〝消費〟観は根本的に覆りました

ヒトは他の動物とは異なり、本能や身体が要求するものを求めるだけでなく、言葉が要求するものも求める、ということに気づいたからです。

のどが渇いた時、水道の水を求めるだけでなく、カラフルな軽飲料やCMで見たドリンクを求めます。寒さを感じた時、木綿の下着を増やすだけでなく、鮮やかなカラーのセーターを着たり、流行のデザインのオーバーコートを求めます。

本能や身体が要求するものを求める願望が「欲求」であり、言葉が要求するものも求める願望が「欲望」です。


欲求も欲望もともにコト界の生活願望ですが、前者は感覚という身体性、つまり身体の求めるものを言語によって意識化したものであり、後者は言葉が作り出した幻想そのもの追いかけるものです。

極言すれば、欲望とは「身体がまったく求めないものも、あえて求める願望」といってもいいでしょう。

どちらの願望に応えるかによって、マーケティングの基本的なスタンスが大きく変わってきます。
前者の欲求に対するマーケティング戦略が「差別化」であり、後者の欲望に対するそれが「差異化」なのです。

差別化は、生活界の中心の日常界で発生する、身体の求めるものを言語化した「欲求」を対象にして、さまざまな〝機能〟を投げかける戦略です。

これに対し、「差異化」は、記号界から生まれてくる願望、つまり身体よりも言語を重視する「欲望」に向けて、さまざまな〝記号〟を投げかける戦略ということになります。

差別化と差異化という、2つのマーケティング戦略の間には、これほど大きな違いがあるのです。これを無視するのは、鈍感以外のなにものでもありません

2015年7月17日金曜日

差異化とは何か?

差異化とは、生活球の上部に位置する生活願望「欲望」に向けて、商品やサービスのうえに、言語やイメージなど、さまざまな「記号」を載せて、新規性や異質性を訴求するマーケティング戦略です。

基本的な手法としては、カラー化、デザイン化、ネーミング化、ブランド化、ストーリー化などの手法が含まれます。

差異化と差別化の間には、次のような違いがあります

平常球から生まれる生活願望「日欲」は、身体が求めるものを意識化した「欲求」が中心ですから、その内容は具体的、実体的なコトへと向かいます。商品やサービスに対しても、機能や品質、つまり「便利さ」「使い易さ」「確かさ」などを求めます。それゆえ、メーカーや流通業などの供給側がこれに対応するには、〝機能・効率・利便の差〟をユーザーに強く訴えかける「差別化」手法が有効です。

しかし、供給水準の向上で機能・効率・利便の差が縮小したり、あるいは日常的な「日欲」にユーザーが一通り満足してしまうと、今度は上下・前後・左右の6つの方向へ、新たな生活願望が拡大していきます。その1つが、機能・効率・利便性に加えて、
言語、記号、意識、理性、観念、物語など
記号やイメージなどを求める「欲望」という願望です。

この欲望に対応するのが「差異化」という手法です。そこで、「差別化」が機能や品質という、モノ次元の〝差〟を強調する手法であったのに対し差異化」はモノの性質を離れて、モノの上に載せたコトの〝差〟を訴えかける手法になります。


ところで、英語圏では一般に、「差別化」は“Differentiation”、「差別化戦略」はDifferentiation Strategy”などと英訳されていますが、これは極めて不正確な表現であり、より正確に表すには“Discrimination”を使うべきだと思います。

その差別(Discrimination)」という言葉は、明らかに上下や強弱の関係を意味しています。ところが、差異(Difference)」という言葉は単なる〝違い〟しか示していません。

というのは、言葉やイメージなど、いわゆる〝記号〟の本質が、上下や強弱には関わりなく、ひたすら他の記号との〝違い〟を示すことにあるからです。言葉やイメージは〝差異〟を作ることによって、それぞれの存在意義を持っているのです。





それゆえ、差異化戦略では、モノの性質とは関係のない次元で、カラー、デザイン、ネーミング、ブランド、ストーリーなど、いいかえれば色彩、形態、名称、商標、物語などの差異を作り出し、そこで生まれた、新たなネウチをユーザーに提供していきます。

2015年7月7日火曜日

差別化の3つの側面

生活体27界の中で「日欲」を構成する3つの願望(欲求・実欲・常欲)の視点に立つと、差別化には3つの側面が考えられます。


機能性・品質性・・・
水平軸(横軸)を「常欲」の断面で切り取ると、下図の左のような9つの願望が含まれていますが、これらに対応する差別化が「機能性・品質性」です。

それは、さまざまな商品の、物・モノ・コトの次元において、物質的な特性や効能など、新たな関係を創りだすことを意味しています。
具体的には、物の新たな特性、新しい利用法、新規の特殊な用途などを創造することです。

効率性・能率性・・・
垂直軸(縦軸)を「欲求」の断面で切り取ると、下図の中のような9つの願望が含まれていますが、これらに対応する差別化が「効率性・能率性」です。

それは、ラング・パロール1・パロール2の次元において、物・モノ・コトに関する、新たな順位や優位性を創りだすことを意味しています。
具体的には、従来品を超える特性、他より優れた利用法、従来品を超える用途などを創造することです。

 
利便性・実効性・・・
前後軸(左右軸)を「実欲」の断面で切り取ると、下図のう右のような9つの願望が含まれていますが、これらに対応する差別化が「利便性・実効性」です。
 それは、真実・日常・虚構の次元において、日常生活への新たな関与度の創りだすことを意味しています。
 具体的には、新たな実用的特性、新たな利便性、生活に応用できる簡易性などを創造することです。
 


 一般的に使われている「差別化」という言葉にも、以上のような3面がありますから、これを戦略としてマーケティングや商品開発に応用する場合にも、それぞれの意味に十分配慮することが求められます。

2015年7月3日金曜日

差別化とは何か?

差別化とは、生活球の中心に位置する生活願望、「日欲」(欲求・実欲・常欲)に対して訴求するマーケティング戦略です。

基本的には、新たな機能・性能・品質を提示するもので、具体的には新機能化、高性能化、高品質化などの手法が含まれます。

これまでのマーケティング戦略では、差別化」という手法が主流でした。商品開発戦略といえば差別化に尽きる、といわれるほど、現在でもこの手法が広く用いられています。

その理由は、それこそがユーザーの生活願望の最も中心にある日常的な願望=日欲に向けて、これまた商品のネウチの中の最も中心にある機能や品質を訴求する手法であったからです。それによって、自社製品が他社製品より優れていることを強調したのです。

ユーザーの生活願望の中核は、すでに述べたように、生活世界の中心にある平常球から生まれてきます。この小世界は記号⇔感覚、社会⇔個人、真実⇔虚構の交点に位置しているため、微妙なバランスのうえになりたっています。いいかえれば、私たちの日常生活とは、記号と五感の、外向と内向の、儀礼と遊戯の、絶え間ないせめぎあいの中で営まれているものです。

それゆえ、平常球の中での生活は、身体の奥底から無意識的な「欲動」でも、世の中の情報に煽られた記号的な「欲望」でもなく、身体が求めるものを自ら意識化した「欲求」に基づいて展開されています。

この欲求に基づいて、テレビや新聞を見たり、学校や会社などで講義を聴いたり、会議に参加したり、あるいは家族や友人と会話をしています。

同時に、虚実の入り混じった言語行動の中から、一つひとつ真偽を確かめながら、自分なりの選択をしています。毎日の生活を実際に形成していくには、最も基本的な生活要素を確保しなければなりませんから、幾つかの願望のせめぎあいの中で適切にバランスをとっていくことが求められるのです。

平常球の生活がこのようなものである以上、そこから生まれてくる願望もまた、具体的、実体的なコトへ向かいます。商品やサービスに対しても、主に機能性、品質性、能率性、効率性、利便性、実効性といったネウチ、つまり「便利さ」「使い易さ」「確かさ」などを求めます。


こうした平常球からの願望=日欲に積極的に対応するのが「差別化」であり、〝機能や品質の差〟をユーザーに強く訴えかけていきます。具体的にいえば、テーブルの高さ、椅子の座り易さ、洋服の着心地などの使い勝手や、冷蔵庫の冷却効率、電気洗濯機の洗浄効率、自動車の速度や燃費など、他の商品に対する比較優位性を強調します。

「差別化」戦略は、著しい経済成長によって、私たちの日常生活が急速に拡大した1960~70年代には、最も中心的なマーケティング戦略でした。


そこで、広告や広報でも、差別すべき利点を告知、説明、広報することに重点がおかれ、「私にも写せます」(富士写真フィルム・フジカシングル8、1965)、「大きいことはいいことだ」(森永製菓・エールチョコレート、1968)、「となりのクルマが小さく見えまーす」(日産自動車・サニー1200,1970)といったテレビCMが頻繁に流されていました。

しかし、1980年代になると、これを超える戦略が求められるようになってきました。