2022年3月28日月曜日

思考・観念言語の利点と限界を考える!

前回、言語3階層の各階層について、それぞれの特性を考えました。

この中で、科学用語や数理用語など、現代社会の理知基盤を形成している思考・観念言語の特性を改めて整理しておきましょう。

思考・観念言語とは、前回のブログで述べたように、「言分け」で生まれたコト界において、「おもう(思う)」行動やその結果を「はなす(話す)」行動に対応する手段として、主に理知界で使われている言葉です。

この言葉は、自然発生的な地縁言語共同体に基盤を置く日常・交信言語の応用から始まりますが、次第に専門分野や特異分野といった、特定の“理”縁言語共同体において新たに創造された人工的言語へと変化していきます。

それゆえ、深層・象徴言語や日常・交信言語と比べてみると、思考・観念言語には次のような特性が強まってきます。

①自然発生的な音声性や包括性が薄くなり、極めて人工的な構造となるから、議論や論文などで使用されるにつれて、目的性や正確性などの識知要素が濃くなる。

②他の2つの言語に比べ、多義性や曖昧性などが消えて、極めて純粋な意味が濃くなるから、意味も文法もともに取捨選択されて、明確かつ狭義的なものなる。

③特定分野の専門家などの理縁集団によって創造され、使用されるケースが多くなるから、地縁発生的な要素が消えて、ほとんど“理”縁的な構造となる。

当ブログの視点からいえば、「身分け」が捉え、「識分け」が認めた現象の中から、特定の思考目的に見合うように取捨選択したモノコトだけを、シニフィエ(意味されるもの)とするように作り上げられたサイン(記号)であり、それらを繋ぐシンタックス(繋がり方)もまた、特定の目的の範囲内に定められている言語、といえるでしょう。

とすれば、この言葉には、次のような利点と限界が潜んでいます。

◆利点

狭義的で正確性が強く、特定の目的となる現象を理知的に理解し、的確に対応することができる。

❷理縁的共同体に属する人々の間で、理解と利用が広まるにつれ、共同的な思考行動を拡大できる。

❸現象を細分化した、個々の言語をネットワーク的に連結することによって全体を把握し、システムとして対応できる。

◆限界

❶狭義的、あるいは一義的であるため、現象の一面しか表示(シニフィエ)できず、全体像を見失う恐れがある。

❷専門家集団の内部でしか意味交換ができず、通常の地縁集団や日常集団などとの間では、言語として流通することができない

❸ネットワークに基づくシステム的な対応では、ラッピング状に分節化されたストラクチャーの全てを動かすことはできない(システム的対応とストラクチャー的対応の違いについては【システム(体系)でなくストラクチャー(構造)で捉える!】を参照のこと)



以上のように見てくると、科学用語や数理用語に代表される思考・観念言語では、さまざまな社会現象はもとより、気候変動やパンデミックなどの自然現象についても、その対応力は必ずしも完璧なものではなく、常に浮遊しているものだ、と理解すべきでしょう。 

2022年3月18日金曜日

言語3階層説を再び整理する!

生活世界の中に言語の3階層(深層・象徴言語、日常・交信言語、思考・観念言語)はどのように位置づけられるのか、【生活世界と言語3階層の関係を探る!】以降のブログでさまざまな角度から考えてきました。

これらを踏まえて、それぞれの言語の特性を要約すると、以下のように整理できます。

●深層・象徴言語

「身分け」で生まれたモノ界の「おぼえる(覚える)」行動に対応する識知として、あるいは「識分け」で生まれたモノコト界の「しる(識る)」行動への接近として、識知界で使われている言葉である。

基本となる音声言語では、擬声語・擬音語、擬態語・擬容語、擬情語などが、地縁共同体である特定民族の音声感覚、つまり言語アラヤ識によって、それぞれの基盤が形成されている。

●日常・交信言語

「識分け」で識知されたモノコトを、「言分け」によってコト界のコトに転換し、「はなす(話す)」行動として、識知・理知界で使われている言葉である。

音声言語、文字言語、表象記号などがあるが、これらの言語によって、話し手と受け手の間でコト(情報)交換が可能になるのは、その記号体系(シニフィアン\シニフィエ、シンタックス、ラング)が「言語共同体」ともよぶべき地縁集団において、予め共有されているからである。

●思考・観念言語

「言分け」で生まれたコト界において、「おもう(思う)」行動やその結果をはなす(話す)」行動に対応する手段として、主に理知界で使われている言葉である。

この言葉は、自然発生的な地縁言語共同体に基盤を置く日常・交信言語の応用から始まるが、次第に専門分野や特異分野といった、特定の“理”縁言語共同体において新たに創造された人工的言語へと進展していく。

3つの言語階層には、以上のような特性がありますので、それぞれの間には、次のような関係が見られます。


①自然性×人為性

深層・象徴言語では、サインもシンタックスもともに自然発生的な要素が濃厚であるが、日常・交信言語になるにつれて、少しずつ人為的、意図的な要素が加わり、思考・観念言語では極めて人為的な構造となる。

「見分け」が掴んだモノや「識分け」が捉えたモノコトを、音声や文字などに置き換える行動は人類という生物特有の知要素が残っているが、会話や文通などを経て、議論や論文になるにつれ、目的性や正確性などの知要素が濃くなっていく。

②多義性×一義性

深層・象徴言語では、サインもシンタックスもともに曖昧な要素を含む多義性が濃厚であるが、日常・交信言語になるにつれて次第にシンプルとなり、思考・観念言語では極めて純粋な一義構造となる。

「身分け」で生まれたモノを識知化する深層段階での言語はかなり曖昧で多義性を含んでいるが、日常段階になるにつれ、意味も文法も次第に取捨選択され、思考段階になると、明確かつ一義的なものなる。

③地縁性×理縁性

深層・象徴言語では、サインもシンタックスもともに縁発生的な要素が濃厚であるが、日常・交信言語になるにつれて少しずつ縁的要素が加わり、思考・観念言語ではほとんど理縁的な構造となる。

「身分け」から「言分け」を経て言語が生み出されるのは、一般的には特定地域の縁集団の内部であるが、日常・交信言語になるにつれて他地域の集団との間で言語の共有化が進み、さらに思考・観念言語になると、特定分野の専門家などの縁集団によって創造されるケースが多くなる。

以上のように、3つの言語階層の間には、それぞれの特性によって3つの方向に分離されるという、明確な傾向が潜んでいるようです。

2022年3月9日水曜日

表象記号で思考する!

思考・観念言語について、音声言語、文字言語に続き、今回は表象記号をとりあげます。

表象記号とは【思考・観念言語は地縁共同体から”理”縁共同体へ!】で述べたように、専門分野や特異分野など特定の“理”縁言語共同体において、新たに創造された、さまざまな概念を、視覚的なイメージとして表現した記号、符号、文字を指します。

さまざまな分野で使われていますが、代表的な事例をあげておきましょう。

物理記号

Δ(デルタ関数)、Θ(角度)、Σ(置換)、Ω(角速度)、Ψ(波動関数)などの論理記号。

物理学で使用する記号は、物理現象を解き明かすのに必要なパラメータ(変数間の媒介変数)を表すもので、アルファベットやギリシア文字で表されるものが多い。

これらの記号のシニフィエ(記号内容)は、特定の対象ではなく、対象間の関係という論理(ロジック)を示している。

幾何記号

∟(直角)、⊥(垂直)、(近似的に等しい)、≡(合同)、∽(相似)などの論理記号。

幾何記号は、幾何学上に抽象された概念を簡潔に表すために用いられる。

これらの記号のシニフィエもまた、特定の対象というより、対象間の関係という論理(ロジック)を示している。

化学記号

H(水素)He(ヘリウム)、Li(リチウム)、Be(ベリリウム)、B(ホウ素)などの物質記号。

化学物質を表す記号であり、主として元素記号として使われている。

アルファベットが特定の物質を示しているから、この記号のシニフィエは、論理(ロジック)ではなく、特定の対象を示している。

気象記号

〇(快晴)、●(雨)、◎(曇り)、◒ ()などの天気記号。

気象状況を表す記号であり、単純な形態で使われている。

これらの記号は天候、気象など特定の状況を示しているから、シニフィエもまた、論理(ロジック)ではなく、特定の状況を示している。

こうしてみると、表層記号には、そのシニフィアンがロジックや関係を表すものと、特定の対象や現象を表すものの、2種類があるようです。

物理記号や幾何記号はシンタックス(統辞)を示し、化学記号や気象記号はシニフィエ(意味内容)を示している、ということです。








とすれば、私たちの思考・観念行動において、物理記号や幾何記号はさまざまな対象間の関係状況として作動します。

これらの記号は日常・交信言語として口に出ることもありますが、基本的には頭の中や紙に書き込んだイメージとして使用されますから、思考・観念言語の典型ともいえるでしょう。

先に述べた数字・計算文字計算文字もまた同様ですから、私たちの思考・観念行動はこれらの文字や記号に依存するケースが多いのです。

こうした文字や記号は、日常・交信言語で使われる自然言語を大きく超えて、人間が思考のために敢えて創り出した人造言語です。

改めて議論しますが、対象を細かく分節化したうえで、特定部分だけを抽出化した記号ということになります。

一方、物質記号や気象記号は特定の物質や状態を示すものとして、それぞれ使用されています。対象間の関係を示すものではなく、個々の対象や状態を示しているのです。数字・計算文字でいえば、数量文字に相当しています。

思考・観念行動では、シンタックスを示すのではなく、その素材となる対象をシニフィエしています。

以上のように、思考・観念言語としての表象記号もまた、シニフィエを示す記号シンタックスを表す記号に大別されます。

とすれば、私たちが表象記号で思考しようとするには、予めそれぞれの専門分野という“理”縁共同体の中で重層的に蓄積された、各記号のシニフィエとシンタックスを十分に理解することが求められるでしょう。