差別化、差異化、差延化に続いて、いよいよ新たなマーケティング戦略の一つ、差元化戦略へ踏み込んでいきます。
差元化戦略とは、感覚界の感覚、無意識、欲動、感度、体感、象徴、神話などを求める感覚願望に応えて、言葉や記号をあえて外し、身体性や直感性、原始性や動物性などの「身分け」力を回復させる手法です。
感覚界とは、単なる物質的次元ではなく、感覚や象徴で外界をとらえた次元です。現象学の「エポケ」をまねて、まずコト界の欲望や生理的な欲求を捨て、そのうえで無意識的な欲動の次元へ降りていきます。
そこに見えてくるのは象徴や神話の世界であり、さらにその下には無意識や本能の世界が広がり、もっと下には感覚や体感の世界が広がっています。感覚界はおおむねこの3層で構成されていますから、差元化戦略はそれぞれに向けて対応していきます。
①象徴次元へのアプローチ
この次元では、シンボルや元型(アーキタイプ)の動きに注意を払うべきでしょう。後述しますが、「シンボル」という言葉は、既成の言語体系が形成される以前の未言語段階、あるいは前言語段階の意味体系です。私たちは、感覚や無意識でとらえたものを言葉で表す前に、より始原的なイメージによって表現します。
そこで、新たな戦略では、象徴や元型を拡大させていきます。始原的なキャラクターに触れ合ったり、それらを幾つか組み合わせた神話やおとぎ話を振り返ることで、私たちの心の深層にある沃野に立ち戻って、個人を超えた集合的無意識を再確認することができるでしょう。
②無意識次元へのアプローチ
この次元では、身分けと言分けの接点から生まれてくる無意識や本能の動きに、こまめに注意をはらっていきます。それらは通常、意識下の暗い深淵に潜んでいますが、時折、夢や幻想などの形をとって噴出し、記号で覆われた欲望の厚い膜を突き破ります。
とすれば、無意識や本能が見えやすい環境を、積極的に作り出すことが求められます。眠り、酩酊、陶酔といった状況に自らを追い込んで、その中でたっぷりと夢や幻想を味わい、そこから生来の直感力や超能力を回復させる。それができれば、外部から誘導された欲望の虚構性が自覚され、生身の生活願望が見えてくるはずです。
③感覚次元へのアプローチ
ここでは、個々人の身分け能力、つまり五感や六感などの感覚をいっそう鋭敏にすることが求められます。マーケティングやマスメディアの作り出す幻想を超えて、生活者の感覚を研ぎ澄ますことで、それぞれの生活行動をリフレッシュさせます。
最近の消費行動では、一方で「みせかけ消費」や「あこがれ消費」が、他方では「身の丈消費」や「実質消費」が広がるなど、二極化が進行していますが、どちらにしても、モノ選びの基準として頼れるのは、惑わされやすい視覚よりも、触覚や嗅覚など自分自身の感覚です。
こうした感覚を取り戻すには、一旦は理性的、合理的な鎧を脱ぎ捨てて、直感的、感覚的な裸身をさらけ出していくことが必要です。野性的な動物性や出生直後の乳児性などの次元に立ち戻って、触覚、嗅覚、聴覚など視覚以外の感覚、つまり肌触り、快感、快汗、芳香、悪臭、瀬音、騒音などに敏感になることです。
以上のように、差元化戦略は、一見、「モノづくり」への回帰のように見えますが、決してそうではありません。例えば、記号を剥いで象徴を求め、物語を捨てて神話に遊び、意識よりも無意識へ接近するなど、表層的なコトを除いたうえで、深層的なコトや感覚の世界へアプローチしていく手法なのです。
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