2015年8月9日日曜日

差延化戦略はなぜ有効か

「差延化」という発想は、現象学や記号学を生み出した現代思想の文脈の中に見つけることができます。

J.デリダは、フランス語の「différence(差異)」の動詞形(différer)に含まれる「延期する」という意味を踏まえて、「différance(差延)という同音異議語を作りました。「差延」とは、言葉の意味を生み出す「差異」に対して、結果として差異を生み出す“動き”を意味しています(『声と現象』)。




具体的にいうと、パロール(parole:話し言葉)では、言葉の意味が話し手と聞き手の間で同一性を保っているケースが多いのですが、エクリチュール(écriture:書き言葉)になると、書き手の文章が読み手によって多様に解釈できる場合が多くなります。

なぜなら、会話で使う話し言葉では、話し手が抑揚や表情やジェスチュアなどを加えますから、単語の意味が一義的に受け手に伝わります。

しかし、手紙や文書で使う書き言葉では、文字でしか表現できませんからともすれば曖昧になりますが、逆に受け手はその意味を多義的に解釈できます。その結果、一つの言葉は新たな意味を持つようになります。

こうした言葉の開かれた機能が「差延」です。言い換えれば、差延とは「予め作られた差異ではなく、送り手と受け手の間で時間とともに作られていく差異」といえるでしょう。

以上の視点をモノや商品に当てはめてみますと、モノにおける差延とは、予め作られたモノの“価値(value)や“効用(utilityではなく、売り手と買い手の間で時間とともに作られていく、私的な効用、つまり“私効(private utility)”ということになります。

価値や効用は社会的なネウチですが、私効は純私的なネウチです。つまり、参加性、変換性、編集性、あるいは「インタラクティブ」といった情報行動まで広く含んでいます。

「差延化(différarize)」とは、生活者のこうした生活行動に積極的に対応しようとするものです。量産された市場的な「価値」や「効用」の差を増すのが「差別化」や「差異化」であるとすれば、個々のユーザーにとっての独自の「私効」の差を増すのが「差延化」ということになります。

さらにいえば、モノの「差別化」や「差異化」が、売り手側が予め決定した、売買時の「価値」や「効用」に関する戦略であるのに対し、「差延化」とはユーザーが使用中に自ら作り出す「私効」に関する戦略です。

もっと突き詰めれば、メーカーや流通業が差し出す「価値」や「効用」を超えて、ユーザー1人1人に独自の「私効」を積極的に創りださせる戦略といえるでしょう。

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