2023年5月30日火曜日

SRは生活民に何をもたらすのか?

ハイテクツールの5番めは、SRSubstitutional Reality:代替現実)を取り上げます。

SR(代替現実)は、技術的にはVR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)の延長線上にあるものですが、目的は大きく異なります。

SR(代替現実)は、某研究所が「メタ認知(認知行為を認知する行為)」を究明するため、新たに開発した実験装置です。睡眠時の夢想と覚醒時の現実を人間はいかに識分けしているのか、それを判断する高度認識機能を究明するもの、ともいえるでしょう。

この装置は「代替現実(Substitutional Reality; SR)システム」と名づけられ、「被験者に気づかれずに、予め用意した過去の映像を“現実”に差し替える」システムと説明されています。

体験するユーザーは、ヘッドマウントディスプレイ(HMDヘッドフォンを装着し、HMD上のカメラのとらえたリアルタイムのライブ映像と、同じ場所で予め撮影・編集された過去映像の両方を見られるようにします。

これによって、ユーザーは現在事象と過去事象の混在した視聴空間に追い込まれ、現在と過去あるいは虚構の間をあちこち往来させられることになります。目の前の事象を現実と信じたり、疑ったり、あるいは両方を体験することができるのです。

これまで述べてきたVR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)では、ユーザーはリアルな現実ではなくバーチャルな非現実であることを前提に、これらを使用していました。しかし、SRのユーザーにとっては、提供される現象が、現実か非現実かの判別がつかないのです。

 

以上のような特性を持つSRは、私たち生活民にどのような効果をもたらすのでしょうか。

生活構造(「生活体」の3つの軸)の中に位置付けてみましょう。

①感覚・言語軸(縦軸)



❶目の前に広がる現実事象は、あくまでもディスプレイを通した仮想事象である。その上に重なる過去事象もまた、事前に加工された仮想事象である。

❷両者が掛け合わされた代替現実は、環境世界を身分け・識分け・言分けできる映像・音声事象であるが、夢の中に現れる仮想事象は、身分け(認知)・識分け(識知)はされたものの、言分けがされる前の浮遊事象である。

❸現在+過去事象と夢想・浮遊事象を仕分けるのは、言分け能力である。

 

②個人・社会軸(横軸)



❶現在事象と過去事象が重なった代替現実は、個人及び少数のユーザー間で共有される(パロール1次元)

❷現在事象と過去事象が重なった代替現実は、1人のユーザーとして、さまざまに判断できる現象である(パロール2次元)。

❸現在事象と過去事象が重なった代替現実は、あくまでも実験対象者が体感できるだけで、社会的な事象にはなりえない(ラング次元)

 

③真実・虚構軸(前後軸)



❶ディスプレイを通す以上、現在事象も過去事象も、ともに虚構事象である。

❷個人あるいは小集団では、現在事象と過去事象を、一つの虚構事象として重ね合わせることが可能である。

❸虚実混在した日常界では、現在事象と過去事象を分けて理解することは不可能である。

❹両事象の比率を変えることで、さまざまな知-知実験が可能となる。

 

以上のような特性を持っているとすれば、SRとは、「識知」された夢想と「言知」された現実を、さまざまに仕分けする実験装置といえるでしょう。個人あるいは特定集団において、夢想や幻想などの「身分け―識分け」行動から、判断や思考などの「言分け」行動へ、つまり認知→識知行動への移行が、いかに進展していくのかを明らかにする、一つの手法なのです。

生活民にとっては、過去と現在を行き来できますから、SRSubstitutional Reality:代替現実)というより、RRRecycle Reality:回帰現実)というべきかもしれません。

2023年5月18日木曜日

MRを生活民はいかに使いこなすか?

ハイテクツールの4番めは、MRMixed Reality:複合現実)を考えてみます。

前々回のVRVirtual Reality:仮想現実)は、仮想世界を現実世界として体験できる技術であり、VRゴーグルを被り手足にセンサーを装着して身体を動かせば、360度の仮想空間が楽しめます。

前回のARAugmented Reality:拡張現実)は、スマートフォン、タブレット、メガネ(スマートグラス)などのモバイルデバイスを通じて、リアルな世界の映像を提供し、その上に仮想画像やテキストなどの情報を加えて、映像世界の「拡張」をめざすものでした。

これらに対し、今回のMRはヘッドセットなどを通して、目の前の現実世界と、デジタルの映像や音声などが創る仮想世界を、リアルタイムで「複合」する技術であり、複数のユーザー間で共感することもできます。

以上のような特性を持つMRを、私たち生活民の生活構造(「生活体」の3つの軸)の中に位置付けてみましょう。


①感覚・言語軸(縦軸)

❶目の前に広がる世界は、環境世界から身分け・識分け・言分けされた現実事象である。

❷現実世界の上に被さる仮想世界は、人工的に創られた仮想事象である。

❸両者を掛け合わせて得られる幻像は、コト界では日常的な事象として把握され、ウチ界では思考事象として理解される。


②個人・社会軸(横軸)



 

❶現実事象と仮想現実が重なった複合現実は、複数のユーザーの間で共有される(パロール1次元)

❷現実事象と仮想現実が重なった複合現実を、1人のユーザーとして、さまざまに判断できる(パロール2次元)

❸現実事象と仮想現実が重なった複合現実は、社会的な事象にはなりえない(ラング次元)


③真実・虚構軸(前後軸)



 

❶個人あるいは参加集団では、現実事象と仮想事象を重ねることが可能である。

❷虚実混在した日常界にもかかわらず、現実事象と仮想事象を明確に分けて理解することができる。

❸仮想事象をさまざまに変えることで、思考実験が可能となる。

以上のような特性を持っているとすれば、MRとは、個人あるいは特定集団において、頭脳内で行なわれている空間・音声的模擬思考を現実界に押しひろげ、体感的に共有できる思考へと導くもの、と位置づけられるでしょう。

生活民にとっては、パロール2としての活用が期待されます。