2021年12月30日木曜日

数字の起源を考える!

文字や記号という視覚言語もまた、音声言語と同様に、深層・象徴段階で発生し、やがて日常・交信段階へと変貌していく、と述べてきました。

とりわけ、表語文字(漢字、アラビア数字等)は、象形文字が起源となっているケースが多く、「識分け」次元と「言分け」次元を繋ぐ役割を果たしていますので、深層・象徴言語と日常・交信言語の両界に跨る文字と言えるでしょう。

そこで、現代社会の科学的思考の原点になっている「数字」がどのように生まれてきたのか、を考えてみます。

人間が「身分け」によって得られたモノ世界の幾つかの同類を、「識分け」によって「一つ、二つ、三つ」と眼や指で認識し、それを地面や掌などへ何らかのイメージで書き留めた。そこに数字という文字の始まりがあるのでは、と思います。

数字の起源については、先史時代と推定されていますが、明確な時期については確定されていないようで、研究者の間でもさまざまな見解があります。

その中で最も古いという見解では、B.C.3000年頃の古代バビロニア、シュメール時代に、粘土板にとがった筆記用具で、識知した数をそのまま書き込んだ「楔形(くさびがた)数字」があげられています。

またほとんど同時期のB.C.3000B.C.300年頃古代エジプトでも、パピルス(パピルス草で作られた紙)に染色棒で書かれた象形数字が生まれた、といわれています。

当時使われていた3種のエジプト文字のうちの1つ、ヒエログリフ(hieroglyph:神聖文字)では、一は垂直な棒、十は放牧牛を繋ぐ道具、百は長さを測る巻測量綱、千は蓮の葉、万は指、十万はオタマジャクシ、百万は驚いている人、といった記号が用いられていました。

その後、B.C.300年からA.D.1200年頃にかけて、インドで生まれたインド数字が、イスラム圏を経てヨーロッパへと伝わり、いわゆるアラビア数字12345…)になりました。

インド数字の最古はB.C.300年頃からのブラーフミー数字(バラモン数字)とよばれるものですが、これにはまだ0 の数字がありませんでした。その後、A.D.500年頃までに 0 が発明されて十進法位取りのデーヴァナーガリー数字となり、イスラム圏へ伝播しました。

イスラム圏ではこの数字が少しずつ改変され、その後1013世紀ごろにヨーロッパへ伝わりました。同地ではさらに修正が加えられると、急速に世界中に広まって、現在のアラビア数字となりました。

以上のように見てくると、現代社会の時代識知の、有力な基盤の一つである「数字」もまた、深層・象徴次元の記号文字や象形文字を基礎にして、簡略的に創造された日常・交信文字である、と推定できます。

さらにいえば、思考・観念言語の典型である数理思考言語もまた、深層・象徴次元の識知の中からさまざまに取捨選択したうえで、意識的に創られた言語、ということができるでしょう。 

2021年12月18日土曜日

視覚言語を言語3階層で考える!

文字や記号は、音声言語や識知的な観念を、視覚的に表現しようとする、人類の発明ですが、それがゆえに深層・象徴言語とも密接な関りを持っています。 

前回整理した文字分類を、文字と記号で分けてみると、次のようになります。

文字で表現するもの・・・音節文字音素文字(ともに表音文字)表語文字(表意文字)。

記号で表現するもの・・・象形文字(表意文字)、記号文字象徴文字(ともに絵文字)。

 ①②と音声文字との関係を、言語=Sé(意味されるもの)Sa(意味するもの)で整理すると、次のようになります。

❶文字で表現・・・(意味/音声)/文字・・・文字によって音声の意味するものを表現する。

❷記号で表現・・・意味 または(意味/音声)/記号・・・記号によって意味や音声の意味するものを表現する。

このように整理すると、文字よりも記号の方が、深層・象徴言語には馴染んでくるように思われます。

深層・象徴言語という言語段階は、「識分け」で捉えたモノコト界の事物を、「言分け」次元の言葉や記号などに置き換えようとする、初期的な次元ですから、曖昧な音声や深層的なイメージほど馴染みが深いからです。

それゆえ、識分け力が捉えた物音や幻像などは、文字よりもイメージの方が表現されやすい、といえるでしょう。

例えば、ユング心理学でいう元型(アーキタイプ)は、人類の深層心理に潜んでいる普遍的なイメージのことですが、まずはさまざまなイメージとして象徴文字で表現され、そのうえで音声言語によって捉えられています(ユングの元型は言葉で把握されている!)。

その延長線上で、さまざまな宗教のシンボルもまた、太陽、星、光、大樹、大河などを象徴するシンボルマークとして、象徴文字で表現されています。

とすれば、深層・象徴言語の段階では、象徴文字がまずは生まれ、続いて象形文字と記号文字に進化していくのではないでしょうか。

象徴文字(元型、宗教印、国旗等)、象形文字(ヒエログリフ、古代エジプト文字等)、記号文字(ピストグラム等)の順に、文字が生まれたということです。

一方、音節文字、音素文字、表語文字は、「音声で言分ける」という「言分け」次元から生まれてきます。

このうち、表語文字(漢字、アラビア数字等)は、前回述べたように、象形文字が起源となっているケースが多く、「識分け」次元と「言分け」次元を繋ぐ役割を果たしていますので、深層・象徴言語と日常・交信言語の両界に跨る文字と言えるでしょう。

また音節文字(ア、イ、ウ、エ、オ等)と音素文字(A、B、C、D、E等)は、すでに音声化された言葉を文字化するという表音文字ですから、「言分け」で生まれた日常・交信言語の次元に近いと言えます。

以上のように、文字や記号という視覚言語もまた、音声言語と同じように、深層・象徴段階で発生し、やがて日常・交信段階へと変貌していくのです。

2021年12月8日水曜日

視覚言語を3つに分ける!

言語3階層(思考・観念言語、日常・交信言語、深層・象徴言語)と、言語形態(音声言語、文字言語、表象記号)の関係を考えています。

前回は深層・象徴言語と音声言語の関係を取り上げましたので、今回は視覚言語(文字言語と表象記号)を取り上げます。

視覚言語とは、どのような言葉をいうのでしょうか。さまざまな定義や種類があるようですので、先達各位のさまざまな見解を参考にしつつ、改めて整理してみました。 


当ブログの立場によると、視覚言語とは、音声言語やそれらが意味する想念・観念などを、視覚的な文字や記号によって表現したもので、大別すると、表音文字、表意文字、絵文字(ピクトグラム)に分けられ、さらにそれぞれが2つに分かれてきます。

1.表音文字(phonogram

一字が音節または音素を表し、「意味」には対応しない文字体系。下記の表語文字が一つの文字で一つの「意味」を示すのに対し、表音文字は2つ以上に繋がった文字で一つの「意味」を示すケースが多いようです。

11.音節文字(syllabary・・・一字が一音節(単音または連続単音)を表わす文字。例:日本語の仮名(ア、あ)。

12.音素文字(segmental script・・・一字が音素(母音と子音の組み合わせ)を表わす文字。例:ローマ字(A、B)、ギリシア文字(α、β)。 

2.表意文字(ideogram

一字が一つの「意味」を表わす文字体系。一つ一つの文字が明確に「意味」を表していますが、聴覚的な発音との結びつきが薄い体系です。

21.表語文字(logogram・・・一字が発音と「意味」を同時に表している文字。この文字の多くは、象形文字(言葉と文字と意味が一対の対応)が起源となっています。例:中国語の漢字(火、山、川)、アラビア数字(1, 2, 3)。

22.象形文字(hieroglyph・・・モノの形を象った‎‎記号‎‎で「意味」を表す‎‎文字。‎‎この文字は、3で述べる‎‎絵文字(言葉よりもモノ自体を表すイメージ)‎‎から発展したものと考えられています。例:ヒエログリフ(神聖文字=古代エジプト文字)。 

3.絵文字(pictogram

モノを描いた形状で、モノの「意味」する想念・観念を表示する記号。

31.記号文字(signal character・・・一つのイメージによって、それに類似した、特定の「意味」を表す記号。文字という記号を使用せず、イメージそのものから想起される「意味」を表しています。例:東京2020オリピック・パラリンピックスポーツピクトグラム。

32.象徴文字(symbolic character・・・一つのイメージによって、抽象的な「意味」を表す記号。「識分け」から漏れた「身分け」次元の想念を、言葉になる以前のイメージで表わすものです。例:元型アーキタイプ、宗教印、国旗。

以上のように、文字や記号とは、聴覚的な「言語」識知的な観念を、視覚的に表現しようとする、人類の発明ですが、それがゆえに深層・象徴言語とも密接な関りを持っています。

いかなる関係なのか、次回で探ってみましょう。

2021年11月27日土曜日

言の葉の 元を辿れば 秋の果て

言語3階層(思考・観念言語、日常・交信言語、深層・象徴言語)は、言語形態(音声言語、文字言語、表象記号)と密接に絡み合いながら、生活世界構造へ関わっている、と述べてきました。どのように関わっているのか、階層別に考えていきます。

まずは深層・象徴言語



●擬声語・擬音語

擬声語は、ワンワン、コケコッコー、オギャー、ゲラゲラ、ペチャクチャなど、人間や動物の声を表現する言葉。

また擬音語は、ザアザア、ガチャン、ゴロゴロ、バターン、ドンドンなど、自然界の音や物音を表す言葉、とそれぞれ定義されています。

両方とも、「身分け」がとらえ、「識分け」が意識した、さまざまな音波を、最も近いと思われる「音声」で表現したもので、言葉の原点、言語の萌芽ともいえる階層です。

記号論的に言えばさまざまな音をシニフィエ(Sé=意味されるもの=対象)とし、その音に【最も近い音声】をシニフィアン(Sa=意味するもの=記号)として接合した言語、といえるでしょう。

擬声語・擬音語=Sé /Sa=さまざまな音波/最も近い音声

●擬態語・擬容語

擬態語は、キラキラ、ツルツル、サラッと、グチャグチャ、ドンヨリなど、無生物の状態を表す言葉。

また擬容語は、ウロウロ、フラリ、グングン、バタバタ、ノロノロ、ボウっとなど、生物の状態を表す言葉です。

両方とも、「身分け」が捉え、「識分け」が意識した、何らかの動きや様子を表すもので、聴覚的な音声ではなく、視覚・触覚的な「意識」象徴的な「音声」で表現したもので、モノを表現する写実的言語の萌芽といえる階層です。

記号論的に言えば、意識が捉えた、さまざまな感覚状態をシニフィエとし、それに類似した音声をシニフィアンとして接合した言語です。

擬態語・擬容語=Sé /Sa=さまざまな感覚状態/類似した音声

●擬情語

イライラ、ウットリ、ドキリ、ズキズキ、シンミリ、ワクワクなど、人間の心理状態痛みや快さなどの感覚を表す言葉です。

「身分け」が捉え、「識分け」が意識した、感覚や感情の動きを、聴覚的な音声ではなく、象徴的な「音声」で表現したもので、情意的な言語の萌芽ともいえる階層です。

記号論的に言えば、識分けが捉えた、さまざまな心理状態をシニフィエとし、その状態を表現しようとする音声をシニフィアンとして接合した言語です。

擬情語=Sé /Sa=さまざまな心理状態/表現しようとする音声


このように見てくると、深層・象徴言語は、同一の言葉を使う語族ごとに、言葉の成り立ちや意味が異なってくるという事実を示しているようです。

擬声語でいえば、「ワンワン:日本語族」は、「bow-wow:英語族」、「toutou:フランス語族」、「wáng yī:中国語族」、「gos wau:アラビア語族」、「yay-vay:トルコ語族」など、それぞれ異なっています。

また擬容語では、「バタバタ:日本語族」は、「flap:英語族」、「battre:フランス語族」、「plap:韓国語族」、「reveref:アラビア語族」、「solapa:スペイン語族」など、さまざまな音声化が行われています。

このことは、民族の音声感覚によって、言葉の基盤が形成されていることを示しています。

民族毎に異なってくる言語アラヤ識の基盤は、こうした深層言語の構造に潜んでいるのではないでしょうか。

2021年11月18日木曜日

生活世界と言語3階層の関係を探る!

生活世界の構造と精神状態や生活願望の関係を明らかにしてきましたので、いささか前後しましたが、この構造と言語3階層の関係、つまり思考・観念言語日常・交信言語深層・象徴言語がどのように位置づけられるのか、を明らかにしていきます。


思考・観念言語

「言分け」で生まれたコト界において、「おもう(思う)」行動や「はなす(話す)」行動に対応する手段として使われている言葉です。

実例としては、音声言語(思考語、学術語、専門語など)、文字言語(数字、学術文字、専門文字など)、表象記号(物理・化学記号、学術記号など)が相当します。

コト界は人間が言語記号によって独自に作り出した世界ですから、思考・観念言語典型的な人工記号として生み出され、かつ人為的なルールによって使用されています。

日常・交信言語

「識分け」で識知されたモノコトを、「言分け」によってコト界のコトに転換し、「はなす(話す)」行動として使われている言葉です。

実例としては、音声言語(口頭語、会話語、交信語など)、文字言語(表音文字、文書文字など)、表象記号(絵文字、文字記号、音声記号、交通標識、鉄道信号など)が相当します。

モノコト界のモノやコトは、「言分け」でコトとして“理知”されると、共同体が共有する記号として定着し、会話や文通を通じて情報交換を可能にします。

音声や文字などの記号と識知された対象が、シニフィアン(意味するもの)とシニフィエ(意味されるもの)として結びつき、特定のシンタックス(統辞関係)として流通するようになるからです。

その意味で、日常・交信言語は、コト界とモノコト界を始終出入りする言語階層と言えるでしょう。

深層・象徴言語

「身分け」で生まれたモノ界の「おぼえる(覚える)」行動に対応する手段を基本としつつ、モノコト界の「しる(識る)」行動への接近としても使われている言葉です。

実例としては、音声言語(擬声語:オノマトペ、擬音語、擬態語、擬容語、擬情語など:注参照)、文字言語(擬声文字、擬音文字、擬態文字、擬容文字、擬情文字など)、表象記号(元型:アーキタイプ、神話像、音符記号、絵画記号など)が相当します。

モノ界のモノは、「識分け」でモノコトとして理知される以前は、さまざまな無意識的イメージとして、頭脳の内側を浮遊しています。

このイメージを原初的な言葉に変えたものが深層・象徴言語であり、それによって「識分け」段階へと移行させていくことができます。

こうした意味で、深層・象徴言語は、モノ界とモノコト界を接続させる言語階層と言えるでしょう。

以上で説明してきた、言語記号の3つの形、つまり音声言語、文字言語、表象記号は、下表のように整理できます。 


このように考えてくると、言語3階層(思考・観念言語、日常・交信言語、深層・象徴言語)は、言語形態(音声言語、文字言語、表象記号)と密接に絡み合いながら、生活世界構造へ関わっているものだ、ともいえるでしょう。

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注:金田一春彦『擬音語・擬態語辞典』角川書店:1978

擬声語:人間や動物の声を表す言葉。わんわん,こけこっこー,おぎゃー,げらげら,ぺちゃくちゃ など。
擬音語:自然界の音や物音を表す言葉。ざあざあ,がちゃん,ごろごろ,ばたーん,どんどん など。
擬態語:音ではなく何かの動きや様子を表すもののうち,無生物の状態を表す言葉。きらきら,つるつる,さらっと,ぐちゃぐちゃ,どんより など。
擬容語:音ではなく何かの動きや様子を表すもののうち,生物の状態を表す言葉。うろうろ,ふらり,ぐんぐん,ばたばた,のろのろ,ぼうっと など。
擬情語:人の心理状態や痛みなどの感覚を表す言葉。いらいら,うっとり,どきり,ずきずき,しんみり,わくわく など。


2021年11月9日火曜日

生活世界構造で生活願望を読む!

私たちの生きている生活世界前回のように整理すると、それぞれの世界から湧き上がってくる、さまざまな生活願望の実態が如実に見えてきます。

どのような願望が、どのような形で現れてくるのでしょうか。


●欲外:insentien

ソト界(物質界:Physicsでは、精神行動が「無感覚:覚えず」ですから、生活願望もまた「欲外:insentient」となります。

言語行動も行われていない世界ですから、ここでの願望は意識もされず、表現も行われません

●欲動:drive

モノ界(認知界:Physisでは、精神行動が「無意識:覚える」ですから、その中から生まれる生活願望は「欲動:drive」となります。

認知はされているものの、識知以前の無意識的な願望であり、生死の区別や善悪の分割など日常的な評価基準をはるかに超えた、動物的、衝動的な願望です。

この世界には、深層・象徴言語が微かに届いていますから、「欲動」という願望も、ほとんど意識されないにもかかわらず、夢や幻想として現れる、さまざまなイメージ、つまり「象徴」として表現されます。

●欲求:Want

モノコト界(識知界:Gegonósでは、精神行動が「意識:識る」ですから、そこから生まれる生活願望は「欲求:Want」となります。

want〉という言葉がいみじくも示しているように、咽喉が乾いたから飲み物が欲しい、空腹を覚えたから食べ物が欲しい、寒くなったから衣類が欲しいなど、一人ひとりの身体の中で何かが「欠如」してくるため、それを「必要」とする心理として現れます。

そこで、欲求の対象になるのは基本的には物質であり、願望の中身もまた生理的、物質的なものとなります。

この世界では、深層・象徴言語と日常・交信言語がともに使われていますから、「欲求」という願望はさまざまなイメージや、具体的な言語として表現されます。

●欲望:Desire

コト界(理知界:Cosmosでは、精神行動が「知識:想う」、あるいは「はなす:話す」ですから、生活願望は「欲望:Desire」となります。

テレビで紹介された料理が食べたい、流行の服が着たい、友人なみのマンションに住みたいなど、物質そのものというよりも、その上にのった文化関係や社会関係、あるいはそれらについての観念や表象を求めるものです。

人間が言葉を持った故に生まれてきた願望であり、生理的、生物学的な必要性がなくとも、「言葉(word」や「観念(idea)」といった「記号(sign)」の刺激を受けて、私たち一人ひとりの内部に発生し、物質への願望を越えて、言語的、文化的な願望となります。

この世界では日常・交信言語と思考・観念言語が使われていますから、「欲望」という願望は具体的な単語観念的な用語で表現されます。



以上のように、生活世界構造で読み解くと、私たちの生活願望がどのようにして生まれ、いかなる形で表現されるのか、ひとまずは整理できます。

2021年10月24日日曜日

生活世界構造で精神状態を読む!

私たちの人類の存在基盤である「言語使用」の実態を明らかにするため、生活世界構造論を展開してきました。

この構造の中に、新たに精神状態・行動を組み入れて、全体の用語の関係をもう一度整理しておきましょう。

世界の名称

カタカナ表記・・・【ソト界―モノ界―モノコト界―コト界】は、生活世界構造論を創始された、日本の先達の用語(身分け・言分け構造)を継承して、敢えて日本語のカタカナで表わしました。

漢字表記・・・【物質界―認知界―識知界―理知界】は、カタカナ表記の意味するものを、一般的な思想用語で表現するため、漢字で表わしました。

このうち、認知―識知―理知は、人間の言語使用のさまざまな段階を表しています。

欧文表記・・・【physicsphysisGegonóscosmos】は、日本語の意味するものを一般化するため、ギリシア語の英文表記を使いました。

 精神状態・行動

漢字表記・・・【無感覚―無意識―意識―知識】は、生活世界名のカタカナ・漢字表記に対応すると推定される、人間の精神状態を一般的な思想用語で表わすため、漢字で表わしました。

このうち、無感覚は他の3つの感覚状態と対比するもの、無意識意識と対比するもの、知識は意識の中の一部となるものを、それぞれ意味しています。

ひらかな表記・・・【おぼえず―おぼえる―しる―はなす・おもふ】は、漢字表記の意味するものを、生活世界名のカタカナ表記に対応させるため、ひらかなで表わしました。

おぼえず―おぼえる】の【おぼ】は「憶える=記憶する」ではなく、「感覚」の「」を意味しています。

しる】は、「知る」ではなく「る」を意味しています。

はなす・おもふ】は、知識状態において行なわれる精神行動であり、会話と思考をそれぞれ意味しています。

以上のように、私たちの生きている生活世界を整理すると、それぞれの世界から湧き上がってくる、さまざまな生活願望の実態が如実に見えてきます。次回にご期待ください。

2021年10月19日火曜日

生活構造図を「生活世界構造図」に修正する!

前回、生活世界の基本構造を4つの世界で説明してきました。

しかし、研究者諸賢や読者の皆様からさまざまなご批判やご意見をいただきましたので、一部を下図のように修正したいと思います(今後、再考によって再修正も考えられます)。

第1「生活構造論」の名称変更です。

この言葉を、当ブログでは、哲学系先達の用法を継承して使ってきましたが、経済学生活学などでは、「個人や家族の営む生活行動に観察される構造」など、主としてミクロ経済的・家計分析的な意味として使用されており、現象学的な「生活世界」にまでは及んでいません。

そこで、当ブログの趣旨を明確にするため、E.フッサールの「生活世界」論やA.シュッツの現象学的社会学に因んで、新たに「生活世界構造論」と名称を変更し、図解についても、「生活世界構造図」と名づけることにします。

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2は名称変更に伴う構造内の用語の変更と明確化です。

前回の文章の内、下線をつけた赤い文字を、新たな言葉に置き換えました。

生活世界の基本構造・・・私たちが日頃どっぷり浸かっている生活世界は、「ソト界(物質界)」「モノ界(認知界)」「モノコト界(識知界)」「コト界(理知界)」の4つから成り立っています。

ソト界(物質界:physics)・・・私たち人間や動物などを取り巻く、ありのままの環境世界。

モノ界(認知界:physis)・・・私たち人間が自らの「身分け」能力によって、周りの環境世界の中から把握した世界。「身分け」されたものは、まずは「無意識」として佇み、されなかったものは「無感覚」として物界に沈んでいく。

モノコト界(識知界:gegonós)・・・私たち人間が自らの「識分け(しわけ)」能力によって、モノ界の中から認知できた世界。「識分け」されたものは「意識」の対象となり、されなかったものは「無意識」のままモノ界に沈んでいく。

コト界(理知界:cosmos)・・・私たち人間が自らの「言分け」能力によって、モノ界の中から把握した世界。「言分け」されたものは「知識」となり、されなかったものは「意識」のままモノコト界を漂うことになる。

以上のような修正を行った理由を述べます。

4つの世界の名称のうち、3つはコト界、モノコト界、モノ界と大和言葉で表現していますので、物界も外界、つまり「ソト界」に修正します。

4つの世界の別称を、物質界、感覚界、認知界、識知界としてきましたが、感覚界は「身分け(=認知)」によって生まれる世界ですから「認知界」に、また認知界は「識分け(=識知)」によって生まれる世界ですから「識知界」に、それぞれ変更します。

③従来のモノコト界=認知界を今回は「識知界」に変えましたので、今回のコト界は新たに「理知界」と名づけることにします。この世界は「言分け」によって生まれる世界ですから、「理(ことわり)」による「知」という意味で、このような言葉を使いました。

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3はコト界、モノコト界、モノ界、ソト界の精神状態の明確化です。

身分け識分け言分けが進むにつれて、私たちの精神状態また次第に変わっていきます。

その変化を無感覚無意識意識知識と明確化しました。

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以上のような修正によって、生活世界構造論は今後、より多面的な議論を引き起こす可能性を孕んだ、と考えています

2021年10月11日月曜日

言語3階層説の基盤を考える!

生活構造論において、「身分け」「言分け」の間には、もう一つ「音分け」次元があるのではないか、という発想で、言語3段階説を考えてきました。

もともと生活世界の構造を哲学的な視点から再構成する「生活構造論」は、欧米の思想を参考にしながらも、日本の思想家の先達が独自に構築されたものです。

自然のままの環境世界から、人間の感覚が直に把握する「身分け」世界を最初に提唱されたのは哲学者の市川浩先生であり、それを前提にして、人間の言語能力が新たに創り出す「言分け」世界を提示されたのは、言語学者の丸山圭三郎先生でした。

このため、日本の思想界では永らく、「身分け・言分け」構造が、生活世界論の定説となってきました。

しかし、このブログで検証してきたように、欧米思想家のさまざまな言語観を振り返ってみると、「身分け」と「言分け」の間に、もう一つ、新たな次元を導入することが絶対に必要ではないか、と思えるようになりました。

そこで、とりあえずオノマトペ(擬声音)をベースとする「音分け」次元を提唱したのですが、言語3階層説の検証過程で、言語の存在次元を突き詰めていくうちに、「識分け(しわけ)」よぶべき次元に変更した方がよいのでは、と思いついたのです。

「音」の息づかいはもとより、「色」への反応、「味」や「臭」の違和感、「蝕」の有無といった「意識」次元をひとまとめにして、新たな分節次元にすべきだ、と考えたのです。

いいかえれば、感覚把握と言語把握の間に、もう一つ「意識」把握の次元がある、ということです。

感覚が把握したものであっても、意識が把握していない限り、言語の把握には至りません。意識が把握しないものは、無意識となって、身分け次元の空間に沈殿していきます。

それゆえ、仏教の唯識論井筒俊彦先生の言語アラヤ識論にも因んで、「識」次元を組み入れたのです。

「識る」は大和言葉で「シル」と発音しますから、「識分け」は「シワケ」とよぶことになります。

仕分け」と同じ発音ですが、この言葉もまた「区分して分ける」ことを意味していますから、もともとは「識分け」と同義語だった、ともいえるかもしれません。

そこで、以上のような視点から、当ブログで展開してきた生活構造論をもう一度見直し、下図のように改良したいと思います。


この図に基づいて、幾つかの論点を解説していきます。

最初は生活世界の基本構造・・・私たちが日頃どっぷり浸かっている生活世界は、「物界(物質界)」「モノ界(感覚界)」「モノコト界(認知界)」「コト界(識知界)」の4つから成り立っています。

物界(物質界:physics・・・私たち人間や動物などを取り巻く、ありのままの環境世界。

モノ界(感覚界:physis・・・私たち人間が自らの「身分け」能力によって、周りの環境世界の中から把握した世界。「身分け」されたものは、まずは「無意識」として佇み、されなかったものは「無感覚」として物界に沈んでいく。

モノコト界(認知界:gegonós・・・私たち人間が自らの「識分け(しわけ)」能力によって、モノ界の中から認知できた世界。「識分け」されたものは「意識」の対象となり、されなかったものは「無意識」のままモノ界に沈んでいく。

コト界(識知界:cosmos・・・私たち人間が自らの「言分け」能力によって、モノ界の中から把握した世界。「言分け」されたものは「知識」となり、されなかったものは「意識」のままモノコト界を漂うことになる。

4つの世界が生まれるのは、人間の基本的な能力である「身分け」「識分け」「言分け」の成果と思われます。

この構造をベースとして、言語の3階層の持つ、それぞれの特性を考えていきます。

2021年9月29日水曜日

言語活動の階層を探る!

言語3階層説の視点から、古今東西の思想家の言説を検証してきました。

その延長線上で、私たちの生活の中で、実際に行われている言語活動では、いかなる階層の言葉が使われているのか、を考えてみたいと思います。

私たちは毎日の暮らしの中で、さまざまな階層の言葉を使いこなしています。

大きく分けてみると、❶頭の中で思考するための言語❷他人と交信するための言語❸心の中の情念を味わうための言語、の3つに大別できるでしょう。

それぞれにおいて使われている言語では、3つの階層、つまり深層・象徴言語日常・交信言語思考・観念言語のいずれかに重点が置かれています。

どのように比重が異なるのか、おおまかな言語活動別に眺めていきましょう。

頭の中で思考するための言語

数学的思考・・・身分けが捉えた環境世界を、数値や数学記号言分けしたうえ、その関係を独自のシンタックス(統辞法)で把握するものですから、思考・観念言語の典型といえるでしょう。

統計学的思考・・・数学的思考と同様、思考・観念言語が主導していますが、表現の対象が現実世界に向けられていますから、思考・観念言語と日常・交信言語の両方に広がっています。

物理・化学的思考・・・上記2つの思考と同様、思考・観念言語が多用されていますが、応用の対象が現実世界に向けられている点で、思考・観念言語と日常・交信言語の交流が一層強まっています。

囲碁・将棋・ゲーム・・・身分けが捉えた環境世界を、独自の記号とシンタックス(統辞法)によって、大まかに単純化したうえで、勝敗を争うものですから、思考・観念言語の典型といえるでしょう。

他人と交信するための言語

日常会話・・・身分けが捉えた環境世界を、特定の共同体による言分け(例:日本語、英語)によって、独自の言葉とシンタックス(文法)で把握し、会話による情報交換や意思疎通などを実現していますので、日常・交信言語を多用しつつ、時には思考・観念言語や深層・象徴言語もまた使われています。

文通・交信・・・日常会話と同様、共同体による言分けによる文字記号とシンタックス(文法)を使用することで、通信や交信による情報交換や意思疎通などを実現していますから、日常・交信言語を中心に思考・観念言語や深層・象徴言語もまた使われています。

報道・広告・・・文通・交信が一層深化したもので、多数の対象者に向けて、日常・交信言語を基礎にしつつ、意図的に思考・観念言語や深層・象徴言語を使用しています。

社会科学的思考・・・共同体による言分けに基づいて、文字記号とシンタックス(文法)を使用し、日常界に向けて知識や情報などを提供していますから、日常・交信言語が中心としつつ、思考・観念言語や深層・象徴言語も使っています。

心の中の情念を味わうための言語

小説・・・発信者の情念や構想を、共同体の持っている言葉とシンタックス(文法)によって表現し、発信者と受信者の間に共有感情を喚起するものであり、日常・交信言語と深層・象徴言語を多用しつつ、時には思考・観念言語も使われています。

詩歌・・・発信者の情念や感情を、共同体の共有する文字記号とシンタックス(文法)を使用して表現し、時にはそれらを超える表現さえ目ざしています。その意味では、深層・象徴言語を多用しつつ、その変型として日常・交信言語や思考・観念言語も使われています。

神話・童話・・・共同体が作り出した文字記号とシンタックス(文法)を使用しつつ、表現の対象としては言分け以前の身分け状況へ向かうことが多く、その意味では深層・象徴言語を基礎にしつつ、日常・交信言語で補っている、とも言えるでしょう。

宗教・・・読経や讃美歌などで使われる言葉は、伝達記号という次元を超えて、モノコト界(認知界:gegonósの感情や欲動を表すものであり、その意味では深層・象徴言語を中心に、日常・交信言語から思考・観念言語にまで及んでいると言えるでしょう。

以上で見てきたように、私たちの使っている言語もまた、使用するシーンによって、3つの階層に分かれてくると思われます。

2021年9月20日月曜日

言語3階層説を整理する!:その2

言語3階層説の視点から、古今東西の思想家の言説を生年順に整理しています。

前回の7人に続いて、今回は残りの7です。

K.W.フンボルトKarl Wilhelm von Humboldt1767~1835年)

言語は造り出された死者ではなく、むしろ、造り出す働きとしてみなすべきであるとし、事物の関連や意志疎通の手段として作用している事柄はむしろ度外視し、内的な精神活動との密接な関係、ある言語の起源とその相互の影響とに立ち帰って考えるべきである、と述べています。

日常・交信言語よりも、思考・観念言語深層・象徴言語を重視すべきだ、というのです。

G.W.F.ヘーゲルGeorg Wilhelm Friedrich Hegel, 17701831年)

人間の言葉とは、「自然の叫び声」に基盤を置きつつも、独自の構想力によって自然性や身体性を乗り越え、周りに広がる世界から自己を区分けし対象化することで、「精神」の根源となるものだ、と主張しています。

言語3階層論に当てはめれば、深層・象徴言語はもとより、日常・交信言語思考・観念言語にまで広く及んでいる、といえるでしょう。

.ソシュールFerdinand de Saussure18591913年)

人間の言語行動には、ランガージュ、ラング、パロールの、3つの側面があると言っています。ランガージュ、ラング、パロールの関係によって、思考・観念言語日常・交信言語については認めていますが、言語の生まれる前の未言語次元、つまり深層・象徴言語については、その存在をほとんど否定しています。

E.G.A.フッサールEdmund Gustav Albrecht Husserl18591938年)

言語の持つ機能性や社会性についてはさまざまな論点を展開していますが、言語の本質や起源については、ほとんど触れていません。

言語3階層論に当てはめれば、思考・観念言語日常・交信言語に限られており、深層・象徴言語の次元にはほとんど触れていません。

S.フロイトSigmund Freud18561939年)

「言葉の起源は性愛のための呼びかけであり、そこから労働などへ広がっていった」との説は正鵠を得ているから、精神分析上の夢の解読にもそのまま応用できるとし、その所論である無意識と夢の関係の中に、言葉の起源や発展過程を求めています。

言語3階層説に当てはめれば、象徴・深層言語に基底に置きつつ、日常・交信言語や思考・観念言語を思考している、といえるでしょう。

C.G.ユングCarl Gustav Jung1875~1961年)

フロイトの所論をさらに徹底し、「言語による環境把握」の前に、「心理的イメージによる環境把握」、つまり「言語以前のイメージ」をより重視しています。

言語3階層説に敢えて当てはめれば、象徴・深層言語の胎芽ともいうべき次元の重視といえるでしょう。

井筒俊彦19141993年)

コトバの音声・文字(シニフィアン)と意味対象(シニフィエ)の関係は、ソシュールのいうような「恣意的」なものではなく、私たちの意識の深層(阿頼耶識)にある、なんらかの種(種子)の影響(言語アラヤ識)によって、両者が結びつくのだ、と主張します。

言語3階層説でいえば、言語アラヤ識とは象徴・深層言語ということになるでしょう。

以上のように、19世紀以降にも、言語について、さまざまな見解が示されていますが、3階層のいずれかに重点を置いた思考が多くなっているように思います。

このため、下記の表でも、中心論点がおかれた階層については大きな〇で、副次論点の場合は小さな〇で表示しています。

筆者の取り上げた思想家が偏っているせいかもしれませんが、時代が下るほど、深層・象徴言語への関心が高まっているように思います。