2018年12月27日木曜日

「差延」を「差延化」に拡大する!

「前回の理論構成について、文章だけではわかりにくいのでは・・・」というご指摘をいただきましたので、もう少し単純化して、図解することにします。



この図では、言語行動が作り出す「ランガ―ジュ:langage:コト界」と、道具使用行動が作動する「ヰセージュ:usage:モノ界」が、上下の対応を示しています。

①ランガ―ジュ(langage)界の「ラング(langue):社会的言語体系」と「パロール(parole):個人的言語活動」の関係は、ヰセージュ(usage)界の「ヰティリテ(utilite):社会的使用体系」と「ヰティリゼ(utiliser):個人的使用活動」の関係に対応します。

②「パロール(parole):個人的言語活動」における「パロール1(parole=発話1)」と「パロール2(parole=発話2」の関係は、「ヰティリゼ(utiliser):個人的使用活動」における「ヰティリゼ(utiliser)1=使用1と「ヰティリゼ(utiliser)2=使用2の関係に対応します。


③ランガ―ジュ(langage)界の「語義(signification=シグニカシオン)」と「意味(sens=サンス)1,2」の関係は、ヰセージュ(usage)界の「使用価値(仏valeur d'usage=バルール・デュセージ:英value in use)と「効用(utilité=ヰティリテ:英utility)1,2」の関係に対応します。

以上の対応の結果、ヰセージュ界においては、当ブログで述べてきた「使用価値」「効用」「ねうち」の関係もまた、下図のようになります。














上下の関係は、次のように対応します。

①「使用価値(valeur d'usage:value in use)」は「共効(social utility)」、つまり「ねうち」に対応します。

②「効用1(utilité1=ヰティリテ1)」は「個効(Individual Utility)」、つまり「ききめ1」に対応します。

③「効用2(utilité2=ヰティリテ2)」は「私効(Private Utility)」、つまり「ききめ2」に対応します。

いかがでしょうか? かえってわかりにくくなったかもしれません。

ともあれ、こうした対応によって、言語行動における「差延」は、道具使用行動における「差延化」に拡大していきます。

ご批判を恐れずにいえば、J.デリダの提唱した「差延」が、筆者の提唱する「差延化」に広がった、ということです。

2018年12月20日木曜日

「差延化」行動の理論的背景を考える!

「差延化」行動の基盤となるのは、私たち人類に特有の言語活動です。

このことについては、当ブログでは何度も触れてきましたので、要点を整理しておきましょう。
 


言葉には「ラング(langue)の次元と「パロール(parole)次元がある。

言葉の機能には、民族や国家が共有している「ラング(langue)」の次元と、それを使って個人が会話を交わしたり、一人で思考するという「パロール(parole)」の次元がある。

ラングは、日本語、英語、フランス語など、それぞれの言語圏に属する人々が歴史的に共有している社会制度、共同主観であり、この制度の中では、文法と辞書で示されているように、一つの言葉の語義と用法が、共同体の伝統と慣習によって、一定の範囲に定められている。他方、パロールというのは、個々人がラングを使って実際に行なっている、私的な言語活動や思考行動である。


②「パロール」次元は「パロール1」次元と「パロール2」次元に分かれる。

パロールには、既成のラングに忠実に基づいて会話する「経験的使用」=パロール1と、ラングを使って全く新たな関係を作りだす「創造的使用」=パロール2の、2つのケースがある。他人との交流のためにラングを使用する行為は「パロールⅠ」であり、個人が私的にラングを使用して自らと会話する行為は「パロール2」である。

③「ラング」「パロール1」「パロール2」という言葉の3次元によって、単語の意味も「語義」「意味1」「意味2」に変わる。

言葉の示すイメージは、ラングでは「語義(signification)となり、パロールでは「意味(sensとなる。「語義」とは、一つの言葉が辞書や文法といったラング(langue)の中で使われる場合であり、「意味」とは、それが個人的なパロール(parole)の中で使われる場合である。

他人とコミュニケートするには、互いに意味や用法を共有している語義を使うのが便利であるが、私的なメモや日記、あるいは独創的な詩歌や創作を書くには、自分だけに通じる意味や用法も許される。

それゆえ、パロール1とパロール2では、個々の「言葉」の意味もまた変わる。パロール1では「語義」の比重が多い「意味1」となり、パロール2では独創的な内容の比重が濃い「意味2」となる。


―――以上は【横軸の構造・・・ラングとパロール】(2015年3月6日)や【言語学で「ねうち」と「ききめ」の違いを探る!】(2018年8月19日)による。


④言葉の「意味1」は道具の「効用1」に、「意味2」は「効用2」に相当する。

ラングとパロールの関係は、言葉の使用法の延長線上に生まれる、道具や食べ物などの使用法と連動する。

コト界で社会的な「語義」に従って話す「パロール(parole:会話)1」は、モノ界では社会的な「使用価値」に従ってモノを使う「ヰティリゼ(utiliser=使用)1」の「効用1」に対応する。他方、コト界で新たな「意味」を創造しながら話す「パロール2」は、モノ界で純個人的に独創的によってモノを使う「ヰティリゼ2」の「効用2」に相当する。


効用2=ききめ2を独創することで、「効用1=ききめ1」や、さらには「使用価値=ねうち」もまた変革できる

私たちは一つのモノを、一方では社会的な習慣や先例に基づく「効用1」つまり「ねうち」として使っているが、もう一方では自らの工夫やアイデアを加えた「効用2」としても使用することができ、その使用法が広がることによって、社会的な「効用1」を変革していくこともできる。

「効用=ききめ」とみなせば、「効用2=ききめ2」を独創することによって、「効用1=ききめ1」=「使用価値=ねうち」もまた変革できる。

―――以上は【社会的な「ねうち」と純私的な「ききめ」を峻別する! 】(2018年8月29日)による。

これまでに述べてきたように、「パロール2」と「意味2」、および「効用2」と「ききめ2」の関係こそ、「差延化」行動の理論的な基盤となっています。

2018年12月9日日曜日

「私効」を実現する生活行動とは・・・

3番めは「差延化という行動」が私的行為の基本になっていることです。

「差延化」という言葉は、24年前、
日本経済新聞・経済教室(1994年4月29日において、生活民自身の「私効」を実現する、最も具体的な方法として、筆者が初めて提唱したものです。

いうまでもなく、フランスの哲学者、J.デリダのキーワード「差延」を応用したものです(『
声と現象』)。

デリダは、フランス語の「différence(差異」の動詞形(différer)に含まれる「延期する」という意味を踏まえて、「différance(差延)という同音異議語を作りました。

「差延」とは、言葉の意味を生み出す「差異」に対して、結果として差異を生み出す〝動き〟のことだ、と述べています。

具体的にいえば、パロール(parole:話し言葉)では、言葉の意味が話し手と聞き手の間で同一性を保っているケースが多いのですが、エクリチュール(écriture:書き言葉)になると、書き手の文章が読み手によって多様に解釈できる場合が増えてきます。


なぜなら、会話で使う話し言葉では、話し手が抑揚や表情やジェスチュアなどを加えますから、単語の意味が一義的に受け手に伝わります。

けれども、手紙や文書で使う書き言葉では、文字でしか表現できませんから、ともすれば曖昧になりがちです。だが、その分だけ、受け手はその意味を多義的に解釈できますから、一つの言葉は新たな意味を持つようになります。

こうした言葉の開かれた機能が「差延」です。つまり、「予め作られた差異」ではなく、「送り手と受け手の間で時間とともに作られていく差異」ということです。

この視点を生活行動一般に拡大すると、モノの用途における「差延」とは、予め作られたモノの共効や個効ではなく、提供者と私用者の間で時間とともに作られていく私効ということになるでしょう。

先に述べたように、「共効」や「個効」は社会的・集団的な有用性ですが、「私効」は純私的な有用性であるからです。

当ブログですでにとりあげた
食酢や冷蔵庫の事例のように、生活民の「私効」行動は、かなり多岐にわたっています。

どのような行動があるのか、さまざまな具体例から考えていきましょう。