2019年3月30日土曜日

差延化行動の3つの特性

これまで述べてきたように、差延化という行動は、供給者の差し出す「ききめ」、つまり「共効」を素材として、需要者一人ひとりが独自の「ねうち」、つまり「私効」を積極的に創りだそうとする生活行動です。

用語の定義は【
「価値」と「効用」・・・大和言葉で考える!2018年7月20日】参照

その特性は、従来の「価値」受容や「効用」是認といった消費行動を大きく超えた、新たな生活行動として、次のように整理することができるでしょう。

第1は時系列的な「使用価値=ねうち」の変化


一般的にいえば、商品の「価値」や「効用」は買った時が最高で、使っているうちに次第に減少していくものですが、モノの「私効」は、編集、参加、変換、手作りといった創造的な生活行動が重なるにつれて、ますます膨らんでいきます

つまり、差別化や差異化における「価値」や「効用」は、購入時に最高ですが、差延化における「私効」は、需要者の関与が付加される毎に増加していきます。


「有用性」の源泉である「差」は、時間とともに「延長」し「拡大」し続けるのです。

第2は人間とモノの関係の変化


私効が時間とともに増加する可能性を持っている以上、需要者は商品を“消耗”するのではなく、使っている間により深い関係に入っていきます。

つまり、購入した商品を「消費」するのではなく、それと「同化」するのです。

このため、商品を“使用”するという行為は、需要者が商品と「同化」していく、時間的な「関係」に入ことを意味しています。


第3はモノの性格の変化

差延化が拡大していく社会では、商品は万人に共通の「価値」や「効用」から、一人の需要者にとっての「私効“素”に変わっていきます。

つまり、消費市場から提供される商品とは、万人にとっての「効用」を示すものではなく、一人の需要者が「私効」を作り出すための“素材”になるのです。

3つの特性によって、差延化という生活行動は、市場社会から押し付けられる「価値」や「効用」を抑制し、需要者自身の生活力を拡大していきます。


 
これにより、生活民の個体性を大きく復活させ、それぞれのアイデンティティーを再生させていく可能性もまた生まれてきます。

さらにいえば、生活民の差延化行動の拡大によって、既成の社会的装置としての消費市場の諸機能は“生活素材”市場へと脱構築されていくことになるでしょう。

参考・・・【
〝差延化〟で消費市場を脱構築する!:2017年2月25日】

2019年3月19日火曜日

差延化5行動の関係を考える!

生活民の5つの差延化行動を、【「生活体」を提唱する! 2015年2月23日】で提唱した生活構造の縦・横軸で考えてみましょう。

縦軸については【
縦軸が生み出す3つの生活願望・・・欲動・欲求・欲望:2015年3月4日】前後で、また横軸については【横軸が作る3つの生活願望・・・世欲・実欲・私欲:2015年3月9日】前後で、それぞれの意味を述べています。

つまり、縦軸はコト―モノ軸、横軸はラング―パロール軸ともいえますが、両者をクロスさせた生活空間の上に、5つの差延化行動を位置づけてみると、下図に示したように、第2~3象限において上下左右に広がっています。









この図において、それぞれの行動の意味を考えてみると、おおむね次のような特性が指摘できます。
 

 私仕様、参加、手作り上下に並んでおり、「手作り」は主にモノそのものへの関与、「参加」はモノを素材にしてコトへ近づける行為、そして「私仕様」はモノには手を出さないものの、コトには関与するという行為を意味しています。

3つの行動は、コトとモノの関係である「有用性=ねうち」を見直ことで「共効」を「私効」化しようとする程度を示しています。

編集変換は、参加を間に挟んで、ラング―パロール軸上を水平に並んでおり、「編集」はコトーモノ軸のさまざまな既存「共効」を自ら組み合わせる行為、「参加」は「共効」に手を加えて「私効」化する行為、そして「変換」は既存の「共効」を一気に「私効」へと変えてしまう行為です。


3つの行動は、モノとモノの間にある「相当性=あたひ」を見直すとで「共効」を「私効」化しようとする流れを示しています。

③5つの中で、「私仕様」については、「カスタマイゼーション」とよばれるマーケティング手法で企業側から対応されていますが、批判的な言説もあるとおり、画一性の細分化にすぎない、とも言えます。

④コト―モノ軸の上に位置する「編集」という行動も、「共効」に近いところで「私効」を求める行為ですから、「共効」の変形と言えるのかもしれません。

⑤残りの3つ、つまり「参加」「手作り」「変換」という行動は、やはり画一的な「価値」や「効用」を脱して、需要者の自立を促すものですから、単なる「共効」受容を脱して、少しでも「私効」実現を果たそうとする行動と言えるでしょう。
 
以上のように、5つの差延化行動は、それぞれが「私効」の拡大をめざすものであり、さまざまな批判があったとしても、それは単に各行動における有効性の強弱にすぎない、と考えるべきでしょう。

2019年3月10日日曜日

私仕様・・・供給体制に転換を迫る!

生活民の差延化行動の5つめは「私(わたくし)仕様」です。

現代の消費市場において、供給者が提供する商品やサービスの〝最大共通素〟的な「共効」だけでは満足できなくなった生活民は、オーダーやセミオーダーなどで「私仕様(カスタマイズ)を発注し、自分自身の「私効」を実現しようとしています。

現に私たち生活民の多くは、さまざまな生活分野において、究極的には自分の身体や気分にぴったりのモノやサービスを求めていますが、既存の消費市場では必ずしもそれらが得られるとは限りません。そこで、彼らは、できるだけそれらに近いものを得るため、例え費用はかかったとしても、特注として購入しています。

こうした行動は、眼鏡や紳士服・婦人服などを中心に水着、下着、紳士靴・婦人靴、スポーツシューズから家具、パソコン、カスタムカー、食品、化粧品にまで広がっています。

これまで生活財の分野において「個効」や「共効」を「私効」に変えるのが「差延化」だと述べてきましたので、その論理でいえば、「私仕様」とは「個効」や「共効」をそのままにしたまま、一気に「私効」をつかみ取る行為ということになるでしょう。

あるいは、「私仕様」とは「個効」や「共効」を通過せず、「私効」そのものを直接的に供給者から購入しようとする行為、さらには、「個効」や「共効」をスルーして、直接「私効」へ到達する行為ともいえます。



以上のような「私仕様」に生活民がいかに対応していけばいいのか。このことについては、すでに【
私仕様」・・・生活民はいかに付き合うか?:2017年1月9日】で述べていますが、近頃ではインターネットやAIなどの進展によって、もう一歩進んだ対応が求められるようになってきました。

第1はインターネットやAIを活用した「私仕様」の拡大

インターネット通販の拡大は、売買の簡便性や利便性を上げるだけでなく、ユーザー一人ひとりの要求に個別に対応できる、新たなオーダー方式の可能性を増しています。

例えば携帯端末とAI応用体型計測技術の組み合わせによって、より高度な「オーダーファッション」や、個別ユーザーの要望にきめ細かく対応できる「オンデマンドオーダー」などが可能となり、衣食住から始まって、移動や情報に至る諸分野へ急速に広がり始めています。これからの生活民には、こうしたオーダー様式を巧みに使いこなす能力が求められます。

第2はインターネットを経由した供給者の多様化


SNSや個人サイトなどインターネットによる供給網の多様化で、「私仕様」を求める生活民は自分の感性や目的に見合った供給者を幅広く見つけることが可能になります。そこで、従来の大手や中堅企業だけでなく、AIを使いこなす小企業や個人営業者などにも発注し、純個性的な「私仕様」を共創的に仕上げていく能力が問われることになります。

第3はインターネットやのAIからの離脱


インターネットやAIが急速に拡大するにつれて、それだけでは飽き足らない人々も次第に増加し、ネット以外のナマ情報や口コミ情報への需要も拡大していきます。

とりわけ、生活民の「私仕様」願望には、もともと反・市場的、あるいは反・量産的な感性が下敷きになっていますから、ネットやAIに頼らないで、友人や知人などの口コミだけによるオーダー方式や委託方式への期待もまた高まってきます。

これに対応するには、生活民と供給者の両側において、"顔の見える"オーダーシステムや委託システムを準備する必要が高まってくるでしょう。

以上のように、「私仕様」行動の拡大は、市場社会や情報化社会の需要―供給構造そのものを差延化していく、絶好の機会となるでしょう。