3番めは「差延化という行動」が私的行為の基本になっていることです。
「差延化」という言葉は、24年前、日本経済新聞・経済教室(1994年4月29日)において、生活民自身の「私効」を実現する、最も具体的な方法として、筆者が初めて提唱したものです。
いうまでもなく、フランスの哲学者、J.デリダのキーワード「差延」を応用したものです(『声と現象』)。
デリダは、フランス語の「différence(差異)」の動詞形(différer)に含まれる「延期する」という意味を踏まえて、「différance(差延)」という同音異議語を作りました。
「差延」とは、言葉の意味を生み出す「差異」に対して、結果として差異を生み出す〝動き〟のことだ、と述べています。
具体的にいえば、パロール(parole:話し言葉)では、言葉の意味が話し手と聞き手の間で同一性を保っているケースが多いのですが、エクリチュール(écriture:書き言葉)になると、書き手の文章が読み手によって多様に解釈できる場合が増えてきます。
なぜなら、会話で使う話し言葉では、話し手が抑揚や表情やジェスチュアなどを加えますから、単語の意味が一義的に受け手に伝わります。
けれども、手紙や文書で使う書き言葉では、文字でしか表現できませんから、ともすれば曖昧になりがちです。だが、その分だけ、受け手はその意味を多義的に解釈できますから、一つの言葉は新たな意味を持つようになります。
こうした言葉の開かれた機能が「差延」です。つまり、「予め作られた差異」ではなく、「送り手と受け手の間で時間とともに作られていく差異」ということです。
この視点を生活行動一般に拡大すると、モノの用途における「差延」とは、予め作られたモノの共効や個効ではなく、提供者と私用者の間で時間とともに作られていく私効ということになるでしょう。
先に述べたように、「共効」や「個効」は社会的・集団的な有用性ですが、「私効」は純私的な有用性であるからです。
当ブログですでにとりあげた食酢や冷蔵庫の事例のように、生活民の「私効」行動は、かなり多岐にわたっています。
どのような行動があるのか、さまざまな具体例から考えていきましょう。
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