言語3階層説の視点から、古今東西の思想家の言説を生年順に整理しています。
前回の7人に続いて、今回は残りの7人です。
●K.W.フンボルト(Karl Wilhelm von Humboldt:1767~1835年)
言語は造り出された死者ではなく、むしろ、造り出す働きとしてみなすべきであるとし、事物の関連や意志疎通の手段として作用している事柄はむしろ度外視し、内的な精神活動との密接な関係、ある言語の起源とその相互の影響とに立ち帰って考えるべきである、と述べています。 日常・交信言語よりも、思考・観念言語や深層・象徴言語を重視すべきだ、というのです。 |
●G.W.F.ヘーゲル(Georg Wilhelm
Friedrich Hegel, 1770~1831年)
人間の言葉とは、「自然の叫び声」に基盤を置きつつも、独自の構想力によって自然性や身体性を乗り越え、周りに広がる世界から自己を区分けし対象化することで、「精神」の根源となるものだ、と主張しています。 言語3階層論に当てはめれば、深層・象徴言語はもとより、日常・交信言語や思考・観念言語にまで広く及んでいる、といえるでしょう。 |
●F.ソシュール(Ferdinand de Saussure:1859-1913年)
人間の言語行動には、ランガージュ、ラング、パロールの、3つの側面があると言っています。ランガージュ、ラング、パロールの関係によって、思考・観念言語と日常・交信言語については認めていますが、言語の生まれる前の未言語次元、つまり深層・象徴言語については、その存在をほとんど否定しています。 |
●E.G.A.フッサール(Edmund Gustav
Albrecht Husserl:1859~1938年)
言語の持つ機能性や社会性についてはさまざまな論点を展開していますが、言語の本質や起源については、ほとんど触れていません。 言語3階層論に当てはめれば、思考・観念言語や日常・交信言語に限られており、深層・象徴言語の次元にはほとんど触れていません。 |
●S.フロイト(Sigmund Freud:1856~1939年)
「言葉の起源は性愛のための呼びかけであり、そこから労働などへ広がっていった」との説は正鵠を得ているから、精神分析上の夢の解読にもそのまま応用できるとし、その所論である無意識と夢の関係の中に、言葉の起源や発展過程を求めています。 言語3階層説に当てはめれば、象徴・深層言語に基底に置きつつ、日常・交信言語や思考・観念言語を思考している、といえるでしょう。 |
●C.G.ユング(Carl Gustav Jung:1875~1961年)
フロイトの所論をさらに徹底し、「言語による環境把握」の前に、「心理的イメージによる環境把握」、つまり「言語以前のイメージ」をより重視しています。 言語3階層説に敢えて当てはめれば、象徴・深層言語の胎芽ともいうべき次元の重視といえるでしょう。 |
●井筒俊彦(1914~1993年)
コトバの音声・文字(シニフィアン)と意味対象(シニフィエ)の関係は、ソシュールのいうような「恣意的」なものではなく、私たちの意識の深層(阿頼耶識)にある、なんらかの種(種子)の影響(言語アラヤ識)によって、両者が結びつくのだ、と主張します。 言語3階層説でいえば、言語アラヤ識とは象徴・深層言語ということになるでしょう。 |
以上のように、19世紀以降にも、言語について、さまざまな見解が示されていますが、3階層のいずれかに重点を置いた思考が多くなっているように思います。
このため、下記の表でも、中心論点がおかれた階層については大きな〇で、副次論点の場合は小さな〇で表示しています。
筆者の取り上げた思想家が偏っているせいかもしれませんが、時代が下るほど、深層・象徴言語への関心が高まっているように思います。
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