2022年1月18日火曜日

思考・観念言語は地縁共同体から”理”縁共同体へ!

言語3階層説の視点から、深層・象徴言語と日常・交信言語を取り上げてきましたので、今回からは思考・観念言語について考えていきます。

思考・観念言語とは、【生活世界と言語3階層の関係を探る!】で述べたように、「言分け」で生まれたコト界において、「おもう(思う)」行動やその結果をはなす(話す)」行動に対応する手段として使われている言葉です。

「おもう」という行動には「思う」「想う」「憶う」「念う」などの漢字が与えられ、幾つかの行動に分かれていますが、思考・観念言語が使われているのは、「思う(ある物事について理知を働かす)」と「想う(眼前にない物事について理知を働かす)」の2つではないか、と思います。

そこで、「思う」と「想う」という行動、いわゆる「思考」については、スイスの心理学者J.ピアジェの主張を継いで、心理学者の多くが「動作を通した思考や具体的な対象についての思考」と「抽象的で論理的な思考」の2つがある、と主張されています

しかし、筆者は、その間にもう一つ、「日常・交信言語を使う思考」が存在すると思います。日常生活で使っている言葉で行う思考と、思想用の抽象的な言語で行う思考は、いささか次元の異なる行動だ、と思うからです。

とすれば、思考には、次の3次元が考えられます。

非言語次元

識分けでとらえたモノコト、つまりさまざまなイメージを組み合わせて、コト界の中で目標や方向などを理知する行動。

日常・交信言語次元

日常・交信言語を使用して、コト界の中で目標や方向などを理知する行動。この言語による思考は、特定の地域で育まれた言語体系(地縁言語共同体)によって行なわれる理知行為となります。

思考・観念言語次元

思考・観念言語を使用して、コト界の中で目標や方向などを理知する行動。この言語による思考は、地縁を離れ、特定のモノコトに関わる理知分野で、新たに育まれた言語体系(“理”縁言語共同体)によって行なわれる理知行為です。

以上のような3次元を前提にすると、思考・観念言語が使われるのは、②③の次元ということになります。

その実例を、音声言語、文字言語、表象記号の順に確かめておきましょう。





音声言語

日常・交信言語を加工したり、抽象化して創り出した思考用語を基礎にして、地縁共同体内で使われる音声言語、あるいは専門分野や特異分野など、特定の“理”縁言語共同体向けに創造された、音声で表現できる学術語や専門語

事例・・・思考語では予測、想定、前提、仮説、論理などの一般思考用語。学術語では自我、理性、全体主義、弁証法、昇華などの思想・哲学用語。専門語では市場メカニズム、価格、消費、私有制、刑罰、制度など社会科学用語。

文字言語

日常・交信言語を抽象化して創り出された思考語を、専門分野や特異分野など特定の“理”縁言語共同体向けに、数字や文字の形で表現した学術文字や専門文字

事例・・・数字では1,2,3IIIIIIなど数学用文字。学術文字では+、-、=、≠、√、∽ など計算文字。専門文字では(四分音符)、♪(八分音符)、(連桁付き八分音符)、(連桁付き一六分音符)、♯(シャープ)などの楽譜文字

表象記号

専門分野や特異分野など特定の“理”縁言語共同体において、新たに創造された、さまざまな概念を、視覚的なイメージとして表現した記号など。

事例・・・物理記号ではΔ(デルタ関数)、Θ(角度)、Σ(置換)、Ω(角速度)、Ψ(波動関数)などの論理記号。化学記号ではH(水素)He(ヘリウム)、Li(リチウム)、Be(ベリリウム)、B(ホウ素)などの物質記号。学術記号では♂(雄)、♀(雌)Δ(デルタ関数)、Θ(角度)、Σ(置換)、Ω(角速度)、Ψ(波動関数)などの生物学記号や、∟(直角)、⊥(垂直)、(近似的に等しい)などの幾何学記号



以上のように、思考・観念言語は、自然発生的な地縁言語共同体に基盤を置く日常・交信言語の応用から始まり、次第に専門分野や特異分野など特定の“理”縁言語共同体を前提に創造された言語へと進展していきます。

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