2025年10月25日土曜日

生活学・新原論を応用する・・・生活世界構造

生活学・新原論に関連する、このブログの論考を整理し、応用分野を展開しています。

今回は「意識構造」や「生活行動」の前提となる「生活世界構造」を整理していきます。

生活世界は、下図のように、縦軸、横軸、前後軸の3つの軸で構成されています。


それぞれの軸の意味するものは、次の通りです。

縦軸・・・生活心理を考える・・・意識としての生活世界構造202437日)

縦軸は心の階層であり、「身分け」「識分け」「言分け」「網分け」で、感覚的世界から観念的世界へ移行していきます。

これにより、生活民の意識行動は【おぼえず­~おぼえる~しる~はなす~かんがえる】に分かれ、心の中には、ソト界(未知界)~モノ界(認知界)~モノコト界(識知界)~コト界(言知界)~アミ界(理知界)の、5つの心理的世界が生まれてきます。5つの世界では、無感覚~無意識~意識~知識~学識という、 5つの認識行動が動き出します。

横軸・・・生活心理を横軸で考える2024329日)

横軸は言葉によって作られる個人・社会の階層であり、外側の世界と交流する「社会界」、日常的な暮らしで交流を行なう「間人界」、自己の内側と交流する「個人界」に分かれます。社会界は集団的な価値観や制度を受け入れつつ、同時に社会そのものへ働きかける集団的な世界、間人界は社会界を前提に、会話、実践、交換などを〈交流〉している日常的な世界、そして個人界は社会のしくみに従いながらも、純個人として自らの内部に語りかけたり、社会規範を自分なりに変換して、新たな表現を作りだす純私的な世界です。

前後軸・・・生活心理・前後軸から考える!2024418日)

前後軸は、日常を超える超越的な「メタ・メッセージ」によって、言葉の示すことをすべて真実とみなす「真実界」、逆に言葉の示すことはすべて虚構とみなす「虚構界」、2つの狭間にあって真偽が曖昧なままの「日常界」、の3つに分かれます。

真実界(儀礼界)では儀礼、儀式、緊張、勤勉、学習、訓練、節約、貯蓄など、日常界では普段、平常、平生、常日頃、日々など、そして虚構界(遊戯界)では遊戯、弛緩、怠惰、遊興、放蕩、浪費、蕩尽など、それぞれの生活行動が生まれてきます。

3軸の構造・・・生活世界構造を言語機能で考える!2024430日)

生活民の生きている空間は「言葉」によって作られていますから、縦軸(感覚⇔観念)では象徴言語・交信言語・観念言語が、横軸(個人⇔社会)では独考言語・日常言語・交流言語が、そして前後軸(真実⇔虚構)では真言・常言・虚言という言語機能が生まれてきます。

私たちの生きている生活世界を、以上のような言語構造として理解すると、さまざまな生活意識はもとより、生活願望生活行動の生まれてくる根源が、じわじわと浮かび上がってきます。

2025年10月19日日曜日

生活学・新原論を応用する・・・意識構造と生活構造

生活学・新原論に関連する、このブログの論考を整理し、応用分野を展開しています。

前回に続き、「新原論Ⅰ・生活主体」で提唱した「生活民(Life Creator」について、今回は「意識構造」と「生活行動」を整理していきます。




➀「生活民」の意識構造

生活民は「価値」よりも「私効」を重視!20161122日)

生活民はそれぞれの生活の中で、自分で創り出した「私効」を中心としつつも、外部から調達してきた「共効」を「個効」として受け入れ、新たな「私効」へと変換することにで、有用性の範囲を広げているのです。

生活民の求めるネウチとは何か・・・2018131日)

大和言葉では、モノの有用性について「ねうち(有用性)」と「あたひ(相当性)」を分け、この区分を歴史的に続けてきました。

生活民はアタヒよりネウチを重視!201828日)

「ねうち」とは「私効」であり、「あたひ」とは「価値」に相当しますから、生活民とは「あたひ」よりも「ねうち」を求める主体ということになります。 

➁「生活民」の生活行動

「価値創造」より「私効復活」へ!20181021日)

生活民には、マスメディアや消費市場から押し付けられる流行やライフスタイルを一旦棚上げにしたうえで、自分自身の中身や暮らしを見つめ直し、そこから改めて「何が欲しいのか」、生活願望を再構築していくことが求められます。

生活行動の判断基準は「私効」から・・・20181129日)

生活民の判断基準については、社会-個人軸上の「私効」をべ-スとしつつも、さらに言語-感覚軸上の「感覚」や「象徴」、真実-虚構軸上の「虚構」を含めた次元から説明していくことが求められるでしょう。

「私効」を実現する生活行動とは・・・2018129日)

モノの用途における「差延」とは、予め作られたモノの共効や個効ではなく、提供者と私用者の間で時間とともに作られていく私効ということになるでしょう。

以上、生活新原論の応用分野として、前回の「生活民」の定義と生活構造に続き、今回は意識構造生活行動を取りまとめてみました。

2025年10月11日土曜日

生活学・新原論を応用する・・・生活民と生活構造

生活学・新原論を提案してきましたが、この視点を応用して、このブログではすでにさまざまな論考を展開してきましたので、今一度振り返り、ポイントを整理しておきましょう。

最初は「新原論Ⅰ・生活主体」で提唱した「生活民Life Creator」です。

「生活民」とは、経済学での「消費者(Consumer」、経営学や家政学での「生活者(User」などを大きく越えて、市場社会の枠組みを超えた、自律的な人間像を意味しています。


生活民」という主体が創り上げられてきたプロセスは、以下のとおりです。

➀「生活民」の定義

「生活民」とはどんな人?20161013日)

「生活民」とは、生活の主体である人間像を、生活学の「生活人」や社会経済学の「生活者」を継承しつつ、より統合化したコンセプトです。

「生活民マーケティング」はLC-Marketing」だ!2017730日)

生活民の英語名称も、Consumer(消費者)やPro-sumer(生産・消費者)はもとより、User(需要者)やSelf-helper(生活者)もまた超えて、Life Creatorというべきです。

アトモノミクスの基盤を考える!20181120日)

新しい生活学=アトモノミクスátomo:私人・原子  nomos:法)では、市場の成立以前から存在した、自立的な人間像の上に、Life Creatorという、新たな要件を満たす人格を改めて「生活民」と定義し、彼の行う生活諸行動について、様式や原理などを構築していきます。

➁「生活民」の生活構造

これが生活体だ!2015319日)

私たちの生きている生活世界は、感覚⇔言語軸、個人⇔社会軸、真実⇔虚構軸の、3つの軸によって構成されています。

生活体マンダラ・立方界を提案する!2015322日)

3つの軸によって【感覚・認知・言語】【個人・間人・社会】【遊戯・日常・儀礼】の各要素をクロスさせると、3×3×3の、27の小立方体に分割できます。

「生活体」から「生活球」へ201541日)

「生活体」という立法体を「生活球」という球体でとらえ直すと、真ん中の平常球を中心に、言語球、感覚界、社会球、個人球、儀礼球、遊戯球の、7つの小球で構成されています。

今回はとりあえず、生活民の定義と生活構造を振り返りました。次回は意識構造生活行動です。

2025年9月27日土曜日

生活学・新原論・ひとまずまとめ!

ほぼ1年半にわたり「生活学・新原論」を展開してきましたので、ここでひとまず、基本的な方向を整理しておきましょう。

新原論Ⅰ・生活主体・・・「生活民」を提案しました。

生活民とは、市場社会のユーザーを超えて、市場の成立以前から存在した、自立的な人間像を意味しています。「自給自立人」という発想ですから、英訳すれば「Self-helper」になるでしょう。

新原論Ⅱ・生活意識・・縦軸、横軸、前後軸の3視点で意識構造を捉えます。

縦軸では未知界~認知界~識知界~言知界~理知界の5つの認識行動、横軸では社会界~間人界~個人界の3つの対応行動、前後軸では真実界~日常界~虚構界の3つの世界が浮上し、3軸をクロスさせた立方体を生活民の意識構造と考えます。

新原論Ⅲ・生活世界構造・・・3軸をクロスした立方体を、生活民の意識構造から拡大し、最も基本的な生活世界へと展開していきます。

言葉が創り出す、3つの軸で構成される生活世界構造。これこそが、生活民の心理、願望、行動などが生まれてくる基盤となります。

新原論Ⅳ・生活願望論・・・生活世界構造から7つの願望が浮上してきます。

私たちの生活願望は、欲望~欲求~欲動、世欲~実欲~私欲、真欲~常欲~虚欲の9つに分けられ、欲求・実欲・常欲を「日欲」とまとめると、7つに整理できます。

新原論Ⅴ・生活行動論・・・生活願望を基盤にすると、生活民の生活行動は7つの行動として展開されることになります。

生活願望の構造からは、差識化、差異化、差元化、差延化、差汎化、差真化、差戯化の、7つの生活行動が生まれてきます。

新原論Ⅵ・生活空間論・・・生活民の居住空間もまた、7つの生活願望に基づいて、7つの要素に分かれてきます。

差識化では最も基本的な居住「住み家」、差異化では家屋のデザインや屋内の家具意匠、差元化では家屋への直感や雰囲気、差延化では自室や寝室への自作行動、差汎化では改造可能性の高い居室やDIY先導型の家具、差真化では学びや信仰のための住居や家具、差戯化では遊びや休養のための別荘や家具などが、それぞれ求められます。

新原論Ⅶ・生活時間論・・・生活民の生活時間についても、7つの生活願望に基づいて、7つの要素に分かれてきます。

生活世界構造で生活時間統計を読み解くと、【感覚⇔観念】の比重、つまり上下活動(感覚的・無意識的行動⇔記号的・意識的行動)が中心であり、この軸に生活時間消費の核心が潜んでいることがわかります。

新原論Ⅷ・生活コスト論・・・生活世界構造で家計調査を分析すると、私たちの暮らしの重層的な構造が浮かび上がってきます。

コスト構成の基本的傾向としては、差元化(食料、寝具、下着、医療など)、差識化(家賃、光熱費、消耗品、雑費など)、差汎化(交通、通信、交際など)の3つが高い順に並び、続いて差戯化(菓子、酒類、外食など)、差真化(教育、教養など)、差異化(装飾品、ファッション、通信など)、差延化(理美容、身のまわりなど)の順となっています。

以上のように、新原論の原点では、新たな生活主体としての「生活民」の立場から、衣食住などへの生活願望、生活時間、生活コストなどの基本要素を見直すことができました。

この延長線上では、どのような展開が可能なのでしょうか。

2025年9月17日水曜日

生活学・新原論Ⅷ-6:生活コスト論を振り返る!

生活学・新原論では、8番目の検討項目として「生活コスト論」を考えてきました。

総務省統計局の「家計調査年報・家計収支編」をベースに、当ブログの「生活世界構造」の視点に基づき、➀10年間の変化、➁複合世帯と単身者、➂単身者の男性と女性、➃単身者の年齢別消費について、7差化の動向を分析しました。

10年間の変化では、差元化と差戯化で自宅内・家庭内での生活コストが増える一方、差異化、差延化、差汎化では、外部や外見などへの支出を減らす傾向が見られました。

複合世帯と単身者を比較すると、前者では差元化と差真化が、後者では差識化、差延化、差戯化がそれぞれ高く、背景には世帯人数、育児・教育費、嗜好消費などの違いが読み取れました。

単身者の性別を比べると、男性では差戯化や差汎化など、外向きの消費傾向が強く、女性では理美容消費の差延化や、差識化や差元化など、内向き消費が多いようです。

単身者の年齢別では、「~34歳」の若い世代は居住や遊びなどに、「35~59歳」の中年世代は交通費や交際費などに、「60歳~」の高齢世代は医療費や交際費などに、それぞれが生活行動の重点を置いている、などがわかりました。

以上のような傾向を「生活世界構造」として判読すると、次のような生活態様が浮かんできます。

❶コスト構成の基本的傾向としては、差元化、差識化、差汎化の3が高い順に並び、続いて差戯化、差真化、差異化、差延化の順となっています。

上位の3つ、差元化(食料、寝具、下着、医療など)、差識化(家賃、光熱費、消耗品、雑費など)、差汎化(交通、通信、交際など)は、活の基本的な消費を示しており、身体維持を基本としつつ、外部的な交流が求められているようです。

下位の4つ、差戯化(菓子、酒類、外食など)、差真化(教育、教養など)、差異化(装飾品、ファッション、通信など)、差延化(理美容、身のまわりなど)は、個人的な嗜好性に基づく生活志向を示しています。

下位前半の差戯化と差真化は、心理的、あるいは精神的な消費の比重を示しており、遊びなどの方が勉学よりも多少多く求められるようです。しかし、差戯化と差真化に相当する消費データは、「家計調査年報」では「教養娯楽用品・サービス等」として一括集計されていますので、両者の強弱を正確に把握することはできません

下位後半の差異化と差延化は、純個人的な趣味や独創性の比重を示しており、生活世界の主体である生活基盤の強弱を表わしているようです。

このように整理してみると、「生活世界構造」による「生活コスト」分析によって、私たちの暮らしの深層的な構造が、朧げながらも浮かび上がってきます。

2025年9月5日金曜日

生活学・新原論Ⅷ-5:単身者・年齢別消費を比較する!

新原論の生活コスト分析では、前回の「単身者・男性×女性」に続いて、今回は「単身世帯の年齢階層」を検討してみます。

●基本データ

日本の単身世帯は2,296万世帯(総世帯数の40%)で、「~34歳」が627万世帯(27%)、「35~59歳」が702万世帯(31%)、「60歳~」が967万世帯(42%)です(国立社会保障・人口問題研究所・日本の世帯数の将来推計:2025)。

➁生活コストのデータは、総務省統計局の「家計調査年報・家計収支編:2024年」の「男女・年齢階級別1世帯当たり1か月間の収入と支出(単身世帯)」です。

➂集計対象となったサンプル数649人で、「~34歳」が68世帯(平均年齢:27.7)、「35~59歳」が121世帯(同:50.6)、「60歳~」が460世帯(同:75.1)です。

有業者比率は、「~34歳」が99、「35~59歳」が90、「60歳~」が23です。

➄1ヵ月当たりの消費支出額は、「~34歳」が176,160、「35~59歳」が184,750、「60歳~」が159,249、平均が169,547です。

以上のようなデータを基に、年齢階層別の消費傾向を当ブログの「7差化」で比較してみましょう(前回と同じく、教養娯楽データは「差真化」と「差戯化」に等分しています)。

●消費傾向比較

➀生活行動で見ると、差識化では「~34歳」(主に居住関係費が高い)、差元化では「60歳~」(主に医療費が高い)、差異化では年齢差なし、差汎化では「35~59歳」(主に自動車等関係費が高い)、差延化では「~34歳」(主に理美容関係費が高い)、差真化差戯化では「~34歳」(主に教育費と娯楽費が高い)と、それぞれの階層の比重が高いようです。

➁年齢階層で見ると、「差元化」「差汎化」「差戯化」でバラつきが大きく、それ以外ではほぼ同様の比率を示しています。

➂「~34歳」では「差識化」「差延化」「差真化」「差戯化」が平均値より高く、「差元化」と「差汎化」が下回っています。

➃「35~59歳」では「差汎化」と「差戯化」が平均値より高く、それ以外はほとんど低い状況です。

➄「60歳~」では「差元化」が平均値より高いのですが、それ以外はすべて低い状態で、とりわけ「差戯化」は最低です。

こうして生活コストのデータを見てくると、「~34歳」の若い世代は居住や遊びなどに、「35~59歳」の中年世代は交通費や交際費などに、「60歳~」の高齢世代は医療費や交際費などに、それぞれの世代の生活行動の重点が浮かび上がってきます。

2025年8月22日金曜日

生活学・新原論Ⅷ-4:単身者・男性×女性を比較する!

今回の生活コスト分析では、前回の「複合世帯当×単身世帯」に続き、単身世帯の「男性×女性」を検討してみます。

●基本データ

➀日本の単身世帯は2,296万世帯(総世帯数の40%)で、男性が1,176万世帯(21%)女性が1,121万世帯(19%)です(国立社会保障・人口問題研究所・日本の世帯数の将来推計:2025)。

➁生活コストのデータは、総務省統計局の「家計調査年報・家計収支編:2024年」の「男女・年齢階級別1世帯当たり1か月間の収入と支出(単身世帯)」です。

➂集計対象となったサンプル数は649平均年齢は58.7(男性53.5歳、女性63.4歳)、有業者比率は57(男性67%、女性47%)、持家率は60.1(男性52.4%、女性66.8%)です。

➃1ヵ月当たりの消費支出額は、男性世帯が164,372女性世帯が174,112であり、女性の方が10,000ほど多くなっています。理美容商品・サービスや交際費などが多少多いから、と思われます。


●消費傾向比較

以上のようなデータを基に、男女別の消費傾向を当ブログの「7差化」で比較してみましょう(前回と同じく、教養娯楽データは「差真化」と「差戯化」に等分しています)。


❶7差化別の消費構成は、男性、女性ともほぼ同じ傾向を示しています。

❷7差化で比較すると、男性が高いのは差戯化と差汎化女性が高いのは差延化、差元化、差識化、差異化で、差真化はほぼ同じです。

男性差戯化6%ほど高いのは、外食、酒、たばこなどが、差汎化が1%高いのは自動車関係費などが、それぞれ比重が重いからです。

女性差延化4%ほど高いのは理美容用品・サービスなどが、差元化2%ほど高いのは野菜・海藻類が、差識化0.7%ほど高いのは光熱水道費や生活雑費などが、差異化で0.6%ほど高いのは洋服代や通信費などが、それぞれ重いからです。

以上のように見てくると、男性では差戯化や差汎化など、どちらかといえば外向きの消費傾向が強いのに対し、女性では差延化で理美容消費とともに、差識化や差元化など、生活の基本に関わる内向き消費が多いことが浮かんできます。 

2025年8月12日火曜日

生活学・新原論Ⅷ-3:家族世帯と単身者を比較する!

当ブログの提案する「生活世界構造」によって、生活コストの実態を分析しています。

総務省統計局の「家計調査年報・家計収支編:2024年」のデータに基づき、今回は複合世帯(2人以上世帯)単身世帯月間消費動向を比較してみましょう。

日本の家族構成2024年で推計すると、複合世帯は3,431世帯(60)単身世帯は2,296世帯(40%)となっています(国立社会保障・人口問題研究所・日本の世帯数の将来推計:2025)。

両方の世帯において1ヵ月当たりの消費支出額を比較すると、複合世帯(2024年人員:2.99人)300,243、単身世帯では169,547となっています。

それぞれの中味を当ブログの7差化で比較してみましょう。


消費金額比較

●上の図の上方金額別に見ると、両世帯の消費金額はほぼ同じ傾向を示しています。

前回と同じく、教養娯楽データは差真化と差戯化に等分しています。)

●出費傾向では、複合世帯のトップが差元化(食料、寝具など)であるのに対し、単身世帯のトップは差識化(住居、光熱費など)となっています。

●なぜ単身世帯で差識化が高いのでしょうか。食料や寝具などへの基本的な出費(差元化)は、世帯人数に比例していますが、ベーシックな差識化への負担は、単身世帯でも複合世帯とほぼ同様にかかり、人数配分の少ない分だけ多くなるからだ、と思います。

消費構成比較

●図の下方構成比(%)に比較すると、複合世帯は差元化と差真化で、単身世帯は差識化、差延化、差戯化でそれぞれ高く、差異化と差汎化ではほぼ同じです。

●複合世帯で差元化が高いのは、上記のように世帯人数に比例しているからであり、差真化が高いのは、授業料や教科書代など子どもたちへの費用がかかるからです。

●単身世帯で差識化が高いのは、家賃や設備など住宅関連の費用が高いためであり、差延化が高いのは理美容品やサービスへの消費が多いからです。差戯化が高いのは、外食の消費機会が多いからだ、と思われます。


以上のように、複合世帯と単身世帯の消費傾向を比較してみると、基本的な消費構成はほぼ同じではありますが、世帯人数、育児・教育費、嗜好消費などの点では当然のように差異が浮上してきます。

2025年7月26日土曜日

生活学・新原論Ⅷ-2:10年で生活コストが変わった!

当ブログの提案する「生活世界構造」によって、生活コストの実態を分析しています。

総務省統計局の「家計調査」のデータ(2人以上の世帯・1世帯当たり1か月間の用途別支出金額)を素材に、今回は10年間の変化を考えてみます。

20142024を、前回述べた生活行動7項目【生活世界構造】によって仕分けし、デフレーターを考慮して、で表してみると、下図のようになります。

(教養娯楽データは、前回指摘したように差真化と差戯化に等分しています。)

2014年と2024年を比べてみると、全体では次のような変化が浮上してきます。

➀7項目別では、差識化(約25%)、差元化(約23%)、差汎化(約12%)の比重が高く、この3つで60に達しています。

2014年より2024年が高かったのは差元化(+3.42%)と差戯化(+1.26%であり、ほとんど変わらなかったのは差真化(+0.02%、低かったのは差識化(−0.25%)、差異化(−0.86%)、差延化(−1.32%)、差汎化(−2.27%です。

生活行動別に眺めると、次のような変化が見られます。

❶差元化では、調理食品、肉類、穀類などの食品保険医療費が増えています。

❷差戯化では、菓子類外食などが増えています。

❸差真化では、教育、教養費がともに伸びています。

❹差識化では、家事用消耗品家庭用耐久財などへの支出が増えましたが、光熱・水道費が減っています。

❺差異化では、洋服通信費が減っています。

❻差延化では、理美容品やサービスが増えましたが、小遣い使途不明金が減っています。

❼差汎化では、交際費が大幅に減っています。

全体的に見れば、差元化、差戯化などで自宅内・家庭内での生活コストが増えていますが、差異化、差延化、差汎化などでは、外部や外見などへの支出を減らす傾向が現れています。

この背景には、コロナ禍の残滓による在宅中心生活の継続や、濃密社会の浸透に伴う欲望志向の低下などが推定されるでしょう。

2025年7月19日土曜日

生活学・新原論Ⅷ-1:生活コスト論が始まる!

「生活時間論」がひとまず終わりましたので、生活学・新原論は「時間から費用へ」と視点を移し、今回から「生活コスト論」を考えていきます。

生活コストの代表的な指標としては、総務省統計局の「家計調査」があります。1946年に始まった「社会生活基本調査」を継承し、1953年からは「家計調査」として5年ごとに実施されています。

家計調査の用途別支出項目を、当ブログの【生活世界構造】に対応させるため、まずは世界構造の7つの生活行動を確認しておきましょう。

差識化・・・さまざまな有用性の中から、日常的に必要な「ききめ」を求める生活行動。

差元化・・・身体性や直感性、原始性や動物性など「身分け」力を求める生活行動。

差異化・・・言語やイメージなど、さまざまな「記号」を求める生活行動。

差汎化・・・社会的なネウチや共同体的な「ねうち」つまり「共効」を求める生活行動。

差延化・・・生活民が個人的な「ねうち」、つまり「私効」を求める生活行動。

差真化・・・儀式、勉学、トレーニングなど「真面目」を求める生活行動。

差戯化・・・虚脱、浪費、戯び、ゲームなど「遊び」を求める生活行動。

以上のような7つの生活行動へ、家計調査の用途別支出項目を当てはめると、下表のようになります。


用途別支出項目を生活世界要素に振り分けてみましょう。

食料費では、穀類、魚介類、肉類、乳卵類、野菜・海藻、果物、油脂・調味料、調理食品、飲料が「差元化」に、また菓子類、酒類、外食が「差戯化」に該当します。

住居費では、家賃地代、設備修繕・維持  が「差識化」に当たります。

光熱・水道費では、電気代、ガス代、上下水道料が「差識化」に当たります。

家具・家事用品費では、家庭用耐久財が「差識化」、室内装備・装飾品が「差異化」、寝具類が「差元化」、家事雑貨・消耗品・家事サービスが「差識化」に、それぞれ該当します。

被服及び履物費では、和服や洋服が「差異化」、シャツ・セーター類  ・下着類が「差元化」、履物類や被服類が「差識化」に当たります。

保健医療費では、医薬品や器具類、保健医療サービスが「差元化」に当たります。

交通・通信費では、交通や自動車等関係費  が「差汎化」に、通信が「差異化」に該当します。

教育費では、授業料等や教科書・学習参考教材が「差真化」に相当します。

教養娯楽費では、教養娯楽用品や  教養娯楽サービスなどで真面目と遊びが混在しているため、「差真化」と「差戯化」の2つに分けることになります。

諸雑費では、理美容サービスや理美容用品、身の回り用品が「差延化」、たばこが「差戯化」、他の諸雑費が「差識化」に相当します。

こづかいや使途不明金は、「差延化」に当たります。         

交際費は「差汎化」に相当します。

仕送り金は「差汎化」に相当します。

以上のような対応を前提にすると、私たちの生活構造が「貨幣価値」として浮かび上がってきます、これにより、生活経済学家政学本質的な分析が期待できるでしょう。             

2025年7月6日日曜日

生活学・新原論Ⅶ-6:生活時間の地域差・差元化×差異化

総務省統計局の「社会生活基本調査」(2022年版)をベースに、生活時間の地域差を考えています。前回の【差真化×差戯化】に続いて、今回は【差元化×差異化】を取り上げてみましょう。

差元化(睡眠、休養・くつろぎ、受診・療養)差異化(テレビ・ラジオ・新聞・雑誌)とは、「体感性」と「情報性」、あるいは「やすらぎ」と「ときめき」とでもいうべき対比でしょう。両者の地域差はどうなっているのでしょうか。

下表は差元化と差異化の高い地域低い地域を、それぞれ都道府県別にあげたものです。

差元化では、上位が東北と北海道、下位が東京や大阪およびその近隣地方です。眠りや休養など体感性を求める行為は、北国で強く、大都市圏で弱いということでしょうか。

差異化では、上位が北海道や外辺地方、下位が東京都や宮城県、およびその周辺地域です。マスコミやソーシャルメディアなどに接する行為は、外辺地域で多く、大都市近郷では少ないという、意外な結果が現れました。どうしてなのか、差元化と差異化をクロスしてみましょう。

この図を見ると、両方の位置が高いほど、ここでも生活時間の「ゆとり」の大きさが現れているようです。

点線で囲った、6つのグループを順番に眺めていきます。

➀差元高・差異高地域・・・北海道、青森、秋田、山形の北日本の地域。体感享受時間が大きいうえ、ゆとりも大きく、その分情報摂取へ積極的なようです。気温の低さや他の行動に割かれる時間が少ないからではないでしょうか。

➁差元中・差異低地域・・・宮城、山梨、滋賀という、大都市やその近郊地域。体感時間も情報時間も比較的低いのは、仙台市を始め、東京都に近い山梨、大阪府に滋賀の3つです。⑥で述べるように、移動時間内の情報摂取時間が配慮されていないからではないでしょうか。

➂差元低・差異高地域・・・愛媛、山口、香川、静岡と概ね外辺地域。体感時間が低いのに、情報時間が高いのは、大都市圏から離れた地域に多いようです。差汎化(身の回り・食事・家事など)や差識化(通勤・通学・仕事・社会活動など)が少ない分、情報への接近が多いのかもしれません。

➃差元低・差異中地域・・・大阪、愛知、神奈川、埼玉、岡山など大都市圏とその周辺。体感時間が低く情報時間も中程度なのは、大阪市、名古屋市、横浜市などの大都市やその周辺地域です。これもまた、⑥で述べるように、移動時間内の情報摂取時間が配慮されていないからだと思います。

➄差元中・差異中地域・・・全国に散在する、上記4地域を除いた26地域。中心部には、体感時間も情報時間も、ともに中程度の、数多くの地方が分散しています。

⑥差元低・差異低地域・・・東京のみです。体感時間が低いのは理解できますが、情報時間も低いのは不思議です。この背景には、➁➃で触れたように、通勤・通学時間やその他の移動時間が多いにもかかわらず、その内部での情報行動が加えられていないことが潜んでいます。これらの時間の多くは、電車内携帯電話などに使われていますから、もし移動時間の6割が情報時間だとすれば、東京都は差元中・差異低地域に入ることになります。

以上で見てきたように、差元化×差異化でも、都道府県は6つ、ないし5つのグループに分かれてきます。

もっとも、基礎となる統計データが単一行動に基づいているため、移動+情報のような多重行動は把握できず、不可思議な構図となっています。

生活時間分析としては、新たな計測方法の開発が求められるでしょう。