2022年2月19日土曜日

漢字で思考する!

思考・観念言語における文字言語の位置を考えています。

文字言語とは、【思考・観念言語は地縁共同体から理”縁共同体へ!】で述べたように、日常・交信言語を抽象化して創り出された思考語を、特定の“理”縁言語共同体向けに文字の形で表現した学術文字専門文字です。

事例として、前回の「数字」に続き、今回は「漢字」について考えてみましょう。

漢字は表意文字(意味を表す文字)の一つで、古代中国において中国語を表記するために作られましたが、時代が下るとともに、東アジアの諸国に伝わり、楷書、行書、草書などさまざまな文字を派生させました。4世紀~5世紀頃、日本にも伝わって、カタカナ、ひらがなの元となったうえ、1946年(昭和21)に当用漢字として公布されています。

私たち日本人はこの漢字を使って、さまざまな思考行動をしています。

例えば、筆者のブログで展開している識知という漢字もまた、日常・交信言語では通常は使われてはおらず、その意味では典型的な思考・観念文字です。

」という文字は、日本語の常用漢字として「知る」「わかる」などを意味し、観念用語としては、仏教の基本的概念の一つ、「vijñāna」の訳語として「対象を識別・認識するもの」を意味しています。

それゆえ、「識」という漢字は、他の漢字と結びついて、「意識」「無意識」「認識」「常識」「知識」「良識」などの熟語に広がっています。

もし英語で表現すれば、consciousnessという言葉は、他の意味と結びついて、conscienceunconsciousrecognitioncommon senseknowledgegood senseなどの熟語に広がっている、といえるでしょう。

フランス語で表現すれば、savoirという言葉は、他の意味と結びついて、conscienceinconscienceidentificationbon sensconnaissanceBonne foiなどの言葉に広がっているのです。

もう一方の「知」はどうでしょうか。

」という文字は、知識や知能といった知的活動の総称を意味し、道教の始祖、荘子の「不知の知」思想を連想させますが、これまた他の漢字と結びついて、理知認知」「無知などとして使われています。

英語でいえば、knowledgwisdomという言葉は、他と意味と結びついて、intellectcognitionignoranceなどの熟語に広がっている、といえるでしょう。

フランス語で表現すれば、connaissanceという言葉は、他の意味と結びついて、conscienceperceptionignoranceなどの言葉に広がっているのです。

両方を合わせた熟語「識知」もまた、英語では「wisdom」に相当するようですが、意味するところではフランス語の「savoir」や「sagesse」に近いとも思われます。

このように「識知」と関連する熟語を、英語やフランス語と比べてみると、日本人にとってのニュアンスと外国語の表現とは、必ずしも一致しているとはいえません

ところが、私たち日本人が「識知」という漢字でものを考える時には、欧米語の語彙を連想する前に、まずは以上にあげたような字の連関を思い浮かべるはずです。

とすれば、私たちは、日本の当用漢字という、地縁共同体の共有する、一つの漢字(シニフィアン)が示す意味(シニフィエ)、それをベースにしつつ、関連する漢字をさまざまに連想し、その文字の意味をいっそう深く理解しているのだ、ともいえるでしょう。

このように考えると、思考・観念言語における漢字とは、専門分野という“理”縁共同体での使用を前提にする以前に、ひとまずは地縁共同体の中で養われた文字連関を前提に、改めて構築された言語、ということになるでしょう。

0 件のコメント:

コメントを投稿