2022年6月29日水曜日

「考える」で言語3階層説を考える!

言語3階層説を、具体的な「言葉」を素材に考察しています。

前回までの五感言葉、識知言葉、理知言葉に続いて、今回は「考える」という観念言葉をとりあげます。

「考える」という行為は、言分け次元の理知的行為のように思われますが、そこに至るまでには他の行為と同様、身分け次元からの積み上げがあるようです。

まず身分け次元では、言葉にならない感情として、何事かを言葉にしたい欲動が無意識として浮上してきます。

これが識分け次元に捉えられると、言分け次元との接点において、日本語では「つらつら」「よくよく」「あれこれ」「つくづく」など、英語では「deeply」「carefully」「closely」「attentively」などの「深層・象徴言語」に音声化されます。

さらに言分け次元そのものになると、日本語では「思う」「想う」などから始まり、「考える」「勘える」「案じる」「慮る」などの音声言葉へと広がっていきます。英語では「think」「consider」「conceive」「cogitate」「guess」などでしょう。いずれも平易な「日常・交信言語」として使用されるようになります。

(この件については、【思考・観念言語は地縁共同体から”理”縁共同体へ!】で、別の視点から考察しています。)

これらが言分けの高次元になるにつれて、日本語では「思考」「思索」「思惟」「思案」「考慮」「考察」など、英語では「thinking」「thought」「consideration」「cerebration」「idea」「intellection」など、理念的・専門的な「思考・観念言語」に変わっていきます。

以上の変化を日本語の歴史として振り返ってみると、次のような用例が挙げられます。

●和歌

春来ぬと 人は言へとも 鶯の 鳴かぬ限りは 嵐とそ思ふ・・・壬生忠岑:古今集・巻一 

世の中は いかに苦し と思ふらむ ここらの人に 恨みらるれは・・・在原元方:古今集・巻・巻十九

唐衣 かけてたのまぬ 時そなき 人のつまとは 思ふものから・・・右近:後撰集・巻十一

●小説・随筆

私は母の愛というものに就いて考える。カーライルの、母の愛ほど尊いものはないと云っているが、私も母の愛ほど尊いものはないと思う。・・・ 小川未明 「愛に就ての問題」

衆人の攻撃も慮るところにあらず、美は簡単なりという古来の標準も・・・ 正岡子規「俳人蕪村」

「嚊の事なんぞを案じるよりゃ、お前こそ体に気をつけるが好い。何だかこの頃はいつ来て見ても、ふさいでばかりいるじゃないか?」・・・ 芥川竜之介「奇怪な再会」

親父が帰って来て案じるといけませんから、あまり遠くへは出られませぬ。・・・ 川上眉山 「書記官」

●哲学・思想書

数学の公理や論理はきわめて簡単明瞭であり、使用される概念も明確に制定されているに反して、言語による思考の場合では、これらのすべてのものが複雑に多義的であるから、一見同様な前提から多種多様な結論が生まれ出るように見える。・・・ 寺田寅彦「数学と語学」

科学というものの本来の目的が知識の系統化あるいは思考の節約にあるとすれば、まずこれらのスケッチを集めこれを基として大きな製作をまとめ渾然たる系統を立てるのが理想であろう。・・・ 寺田寅彦「科学者と芸術家」

利己主義には深い根拠があり合理的に、正直に思索するときには誰しも一応は利己主義に帰著するくらいのものである。・・・ 倉田百三 「学生と教養」

利己主義には深い根拠があり合理的に、正直に思索するときには誰しも一応は利己主義に帰著するくらいのものである。・・・ 倉田百三 「学生と教養」

元来芸術的と考えられるフランス人は感覚的なものによって思索するということができる。・・・ 西田幾多郎 「フランス哲学についての感想」

美しい手で確乎と椅子の腕を握り、じっとして思索に耽っている時のまじめな眠りを催すような静寂。・・・ 和辻哲郎 「エレオノラ・デュウゼ」

非論理的論理というのは、今の人間のまだ発見し意識し分析し記述し命名しないところの、人間の思惟の方則を意味する。・・・寺田寅彦(「科学と文学」

言葉をなくすれば思惟がなくなると同時にあらゆる文学は消滅する。・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」

歴史に対する彼の不信も、歴史が伝来物によらねばならぬ限り、彼の眼に向っ語らず、彼の思惟に訴へねばならぬためであつた。・・・三木清「ゲーテに於ける自然と歴史」

論理的に出立するということを、主観的と考えるのも、自己というものを主語的に考えて、思惟をその作用と考える故である。・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」 

このように見てくると、「考える」という行為は、身分け次元の意識化衝動に始まり、言分け次元の「つらつら」「よくよく」などの深層・象徴言語から、「思う」「考える」などの会話・交信言語に定着したうえで、「思考」「考察」などの思考・観念言語へ進展してきた、と推測されます。

2022年6月15日水曜日

「話す」で言語3階層説を考える!

言語3階層説を、具体的な「言葉」を素材として考察しています。

前回までの五感言葉や識知言葉に続いて、今回は「話す」という理知言葉をとりあげます。

五感言葉や識知言葉については、一つの言葉(単語)の成り立ちを考えてきましたが、「話す」という理知言葉は、自他との交信を前提にして使われています。

ソシュール言語学風にいえば、言葉という体系=ランガージュのうち、これまでは単語=ラングの次元についてでしたが、これからは対話=パロールの次元を考察するということになるでしょう。

パロールには、言葉を使って他人と会話するパロールⅠと、自分自身と会話するパロールⅡがあります。

他人と会話するパロールⅠの場合、「話す」という言葉はどのように使われているのでしょうか。


言分け次元の初期においては、日本語では「ぺらぺら」「すらすら」「ぶつぶつ」「ぼそぼそ」など、英語では「glibly」「volubly」「nag」「mutter」などの「深層・象徴言語」が使われています。

これが言分けの一般次元になると、日本語では「話す」「語る」「述べる」「言う」「話し合う」など、英語では「speak」「talk」「tell」「whisper」「say」「discuss」など、平易な「日常・交信言語」が使用されています。

さらに言分けの高次元になると、日本語では「会話」「対話」「談話」「議論」「討論」など、英語では「conversation」「interview」「discourse」「argument」「debate」「controversy」など、理念的・専門的な「思考・観念言語」に変わっていきます。

日本語の歴史を振り返ると、次のような用例が挙がってきます。

和歌・・・日常的な「語る」が多用されています。

名にめてて をれるはかりそ をみなへし 我おちにきと 人にかたるな・・・古今集・巻四:僧正遍昭

涙のみ しる身のうさも かたるへく なけく心を まくらにもかな・・・後撰集・巻十八:詠み人知らず

小説・随筆・・・やや観念的な「会話」「談話」などが多いようです。

彼の後ろから来る小作人たちのささやきのような会話に耳を傾けた。・・・有島武郎「親子」

これは二人の人の会話のようであるが、おげんは一人でそれをやった。・・・島崎藤村「ある女の生涯」

元来私は談話中に駄洒落を混ぜるのが大嫌いである。・・・内田魯庵「温情の裕かな夏目さん」

わたくしの学生時代の談話をしろと仰ゃっても別にこれと云って申上げるようなことは何もございません。・・・幸田露伴「学生時代」

哲学・・・観念的な「対話」「談論」「議論」「討論」などが使用されています。

魂の内において魂が自分を相手に声を出さずに行なう対話(ディアロゴス) --まさにこれがわれわれによって思考(ディアノイア)と呼ばれるようになったのだ。・・・プラトン『ソピステス』

この人民の政を捨てて政府の政にのみ心を労し、再三の失望にも懲りずして無益の談論に日を送る者は、余輩これを政談家といわずして、新奇に役談家の名を下すもまた不可なきが如く思うなり。・・・ 福沢諭吉「学者安心論」

私は今これらの議論に入らない。とにかく、カント哲学においては、先験感覚論の始にいっている如き、我々の自己が外から動かされるという如き主客の対立、相互限定ということが根柢にあり、そこに主語的論理の考え方を脱していない。・・・ 西田幾多郎「デカルト哲学について」

いつまでもなんらかこの種の方法をとらなければ、独断と独断との間の討論の終結する見込みは立たないように思われるのである。・・・寺田寅彦「比較言語学における統計的研究法の可能性について」

以上のように見てくると、「話す」という行為は、言分け次元の深層・象徴言語に始まり、「話す」「語る」などの会話・交信言語として日常的に普遍化されたうえで、「会話」「議論」などの思考・観念言語へと移行してきた、と推測されます。

2022年5月31日火曜日

「気づく」で言語3階層説を考える!

言語3階層説を、具体的な「言葉」を素材にして考察しています。

前回までの五感言葉に続いて、今回は「気づく」という識知言葉をとりあげます。

人間は周りの環境世界を、五感による「身分け」で「知」し、意識による「識分け」で「知」し、言語力による「言分け」で「知」しています。

この過程において、「気づく」という言葉は、「身分け」が把握したものを「識分け」で意識することを意味しています。つまり、「気づく」とは「意識する」という言葉の一形態だ、といえるでしょう。



上図で言えば、私たち日本人はまず「身分け」が捕まえた、さまざまな感覚を「ピン」や「ハッ」などのオノマトペ、つまり深層・象徴言語で表現します。

次に「言分け」によって、それらを「気づく」「覚(さと)る」などの日常・交信言語で表わします。

さらに「言分け」をより高度化した思考・観念能力によって、「認識」「察知」など、コト界の「思考・観念言語」に置き換え、文学、哲学、科学研究などを行っています。

和歌・・・「気づく」よりも「さとる」が多用されています。

こころとて けにはこころも なきものを さとるはなにの さとるなるらむ・・・続古今集 巻八:よみびとしらず

さとるへき みちとてさらに みちもなし まよふこころも まよひならねは・・・新後撰集 巻九:よみびとしらず

小説・随筆・・・「気づく」とともに「意識」「察知」「覚醒」も使われています。

月が手を伸ばして太鼓を拾ったのを、誰も気付きませんでした。・・・小川未明『月と海豹』

そして、以前とは多少、物の見方や考え方なども自分ながら変って来ていることにも気付きますが・・・宮本百合子『アメリカ文士気質』

饑死などと云う事は、ほとんど、考える事さえ出来ないほど、意識の外に追い出されていた。・・・芥川龍之介『羅生門』

これまでの新聞の発展は、社主が意識して遂げさせた発展ではなかった。・・・森鴎外『青年』

すぐ事態を察知した。薬品が効かなかったのだ。・・・太宰治『畜犬談』

眼をつぶったまま覚醒し、まず波の音が耳にはいり、ああここは、港町の小川君の家だ・・・太宰治『母』

哲学・・・「意識」「認識」「覚醒」が使われています。

けれども私は、同じく自分の凡庸を意識していても、それをごまかそうとかかっている人に同情する事はできません。・・・和辻哲郎『ある思想家の手紙』

我々が自然を認識するのはこの両様の意味を含んでいる。すなわち外形はそれと全然似よりのない、性質の違ったものを我々に認識させるのである。・・・ 和辻哲郎『「自然」を深めよ』

冬眠の状態にある蛙が半年の間に増大させるエントロピーの量は、覚醒期間のそれに比べて著しく少ないに相違ない。・・・寺田寅彦 「時の観念とエントロピーならびにプロバビリティ」

仏教唯識論・・・意識は「」という言葉で語られています。

仏教語としてはmanovijñānaの訳語であり、仏教で説く六根のうちの意根を拠り所とするのこと。物質以外に対する認識で、過去の出来事を想起することや、未来を推測することも意識の働きである。六識のうち、眼・耳・鼻・舌・身の五識を前五識という場合、意識は第六意識と呼ばれる。この第六意識はあくまでも認識の一つであり、心を意味するものではない。・・・新纂浄土宗大辞典

認知心理学・・・「アウェアネス」と定義しています。

Awareness(気づき)とは、ある情報を包括的なコントロールに直接的に利用できる状態(direct availability for global control)を言い、例えば赤いものが見えていることに気づいているとは、「赤いもの見えている」と言葉で報告できること、また赤い信号の表示に気づいている場合であれば「信号が赤いのが見えたので、横断歩道ではなく陸橋を使って道を渡ることにした」といった計画的で全体的な運動に情報を利用できることなどを言う。・・・DJ・チャーマーズ:林一訳『意識する心』

脳科学・・・「クオリア」と定義しています。

クオリアとは、ラテン語 qualiaで、単数形は a quale であり、我々が意識的に主観的に感じたり経験したりする「質」のことを指す。日本語では感覚質とも呼ばれる 。一般に、夕焼けの赤い感じ、虫歯の痛み、などの比喩を使って説明されることが多い。・・・脳科学辞典

クオリアは自然界の基本的な要素の一つであり、クオリアを現在の物理学の中に還元することは不可能である。意識の問題を解決するにはクオリアに関する新しい自然法則の探求が必要である。・・・DJ・チャーマーズ:同上

以上のように、「気づく」という行為は、「覚る」「感づく」などの日常言葉から始まり、「意識」「認識」「察知」「覚醒」、さらには「アウェアネス」「クオリア」などの観念言葉に進展していきます。

2022年5月15日日曜日

「かたい」で言語3階層説を考える!

言語3階層説を、具体的な「言葉」を素材にして考察しています。

前回の「からい」という味覚言葉に続いて、今回は「かたい」という触覚言葉をとりあげます。

触覚は、私たちの皮膚の表面に物が触れたときに生ずる「身分け」です。

古代ギリシアにおいて、アリストテレスが定義した五感(視、聴、味、嗅、触)の一つですが、彼のいう触覚には温、冷、痛などの皮膚感覚や深部感覚、さらには他の4感に属さない全ての感覚が含まれていました。

このため、19世紀にドイツの生理学者、E.ウェーバーが、これらの中から痛み、疲れ、飢え、渇き、幸福感、性感などを「一般感覚」と名づけてとり除き、残りをより厳密な意味での触覚と定義しました。

さらに現代医学では、皮膚を通じて得られる圧覚、痛覚、温度覚の3つだけを「皮膚感覚」と定め、このうちの圧覚だけを五感に含まれる触覚としているようです。

とすれば、最狭義の触覚は、皮膚と物との間に生まれる「手ざわり」「肌ざわり」を意味することになりますので、触覚言葉としても「かたい」「でこぼこ」など、その対語として「やわい(やわらかい)」「なめらか」などが相当します。

そこで、「かたい」の発生源を考えると、皮膚に触れる、さまざまな物体となります。この物体を人間は「身分け」能力によって「」しているのです。

認知の生理的な仕組みは、外から圧力の変化に対して応答する細胞が主たるものですが、変化や振動にいち早く反応するものや、持続的な圧力にゆっくりと反応するものなど、数種類があるようです。

これらの反応が脊髄から脳幹への神経を通じて大脳まで届けられと、幾つかの反応が引き起きます。これこそモノ界において、無意識がとらえた「」です。

続いて、人間の「識分け」力がこれらの反応を把握し、日本人では「ゴツゴツ」「コツコツ」「ザラザラ」「ツルツル」など、英国人ではscraggy」「srugged」「mooth」などのオノマトペ、つまりモノコト界の「深層・象徴言語」として「」します。

さらに人間の「言分け」能力は、これらの触覚象徴をコト化し、日本人では「かたい」と「やわい」などに、英国人では「hard 」や「soft」などに区別して、コト界の「日常・交信言語」として「」し、会話や文通などの交信活動で使用します。

さらに人間は、これらの交信言語を、「言分け」能力をより高度化した思考・観念能力で、コト界の「思考・観念言語」に置き換え、文学活動科学研究などを行っています。

文学では、「硬い」が「難い」や「固い」の意味にメタファー(隠喩)されることが多いようです。

和歌

白妙の 衣かたしき 女郎花 さけるのへに そこよひねにける・・・紀貫之:後撰集 

うつつには 会ふことかたし 玉の緒の 夜はたえせす 夢にみえなむ・・・柿本人麿:拾遺集

小説

王子の剣は鉄を切る代りに、鉄よりももっと堅い、わたしの心を刺したのです。・・・芥川竜之介 「三つの宝」

親の許さぬ男と固い約束のあることも判った。・・・ 伊藤左千夫 「春の潮」

然し皆の胸の中には固い、固い決意が結ばれて行った。・・・ 小林多喜二 「父帰る」

科学研究では「硬度」という表現が一般的です。

物体の硬軟の程度を表わす語。主に、金属のかたさ試験に用いられる押込法と、鉱物のかたさ試験に用いる引掻法によって測る。

押込法は、鋼鉄の球を一定の荷重によって料の表面に押し付け、そのへこみぐあいによって表わす。

引掻法は、頂角が九〇度のダイヤモンドの円錐体で試料の表面を引っ掻いて、その傷によってかたさを表わす。

(Wikipedia)

こうしてみると、「かたい」という蝕覚言葉を、言語3階層説から眺めて見ると、「身分け」「識分け」「言分け」へと認識次元が進むにつれて、「手触り」という具象的な感覚から、「困難」という抽象的な心理への進展が如実に理解できます。

2022年5月9日月曜日

「からい」で言語3階層説を考える!

言語3階層説を、具体的な「言葉」を素材にして考察しています。

前回の「匂い」という嗅覚言葉に続いて、今回は「からい」という味覚言葉をとりあげます。

味覚言葉も嗅覚言葉と同様、音声言葉や色彩言葉に比べて、かなり語彙数が少ないようです。

それでも、「からい」と「甘い」を2極に、「酸っぱい」と「苦い」が加わり、さらに「うまい」が重なっています。

からい」の発生源は、口の中で漂う、さまざまな化学物質です。

ソト界で漂っている、さまざまな「辛い分子」を、人間の「身分け」力の一つ、味覚舌の中の味蕾や舌の上面や喉頭蓋などの味覚受容体)が捉え、顔面神経、舌咽神経、迷走神経 、三叉神経などを通じて大脳まで届けると、幾つかの反応を引き起こします。これがモノ界で無意識がとらえた「」です。

それらの反応を人間の「識分け」力が把握し、日本人では「ヒリヒリ」「ツーン」「カッ」など、英国人では「pipping」「tingle」などのオノマトペ、つまりモノコト界の「深層・象徴言語」として「」します。

続いて人間は、これらの味覚象徴を自らの「言分け」力でコト化し、日本人では「からい」と「甘い」に、英国人では「spicy」や「sweet」などに区別して、コト界の「日常・交信言語」として「」し、会話や文通などの交信活動で使用します。

さらに人間は、これらの交信言語を、「言分け」能力をより高度化した思考・観念能力で、コト界の「思考・観念言語」に置き換え、文学活動科学研究などを行っています。

文学活動では、「からい」をメタファー(隠喩)によって「つらい」や「辛酸」「辛苦」などに置き換え、気分や情緒などを表しています。

和歌

なかれ木と たつ白浪とやくしほと いつれかからき わたつみのそこ・・・菅原道真:新古今集・巻十八

しほといへは なくてもからき世中に いかてあへたる たたみなるらん・・・壬生忠見:後撰和歌集・巻十五

小説・随筆

・・・道具の象徴する、世智辛い東京の実生活は、何度今日までにお君さんへ・・・ 芥川竜之介「葱」

・・・この種の映画と同じように甘いと辛いとの中間を行っている・・・ 寺田寅彦 「映画雑感6」

・・・連中は過ぐる十年間の辛酸を土産話にして、再び東京に落合う・・・ 島崎藤村「並木」

・・・何となく、今までの長い間の辛苦艱難が皮のむけたように自分を離れた心地がした。・・・ 国木田独歩 「河霧」

科学活動では「辛味」や「辛味成分」が使われています。

ワサビ、カラシ、ネギ、ニンニク、ダイコンなどの辛味は、アリル化合物の作用であり、舌や鼻へのツーンとした刺激として知覚されるため、日本語では「ツーンとくる辛さ」などと表現される。

トウガラシの辛味カプサイシンと呼ばれる成分によるもので、舌には熱さや痛さに似た刺激をもたらすので、「ヒリヒリする辛さ」と表現される。

以上のように、「からい」という味覚言葉を、言語3階層説の視点から眺めて見ると、「身分け」の反応に始まり、「識分け」によるオノマトペを経て、「言分け」による日常語や観念語への進展という、言語発生の仕組みが明確に浮かび上がってきます。

2022年4月30日土曜日

「匂い」で言語3階層説を考える!

言語3階層説を、具体的な「言葉」を素材にして考察しています。

前回の「赤色」という色彩言葉に続いて、今回は「匂い」という嗅覚言葉をとりあげます。

嗅覚言葉は音声言葉や色彩言葉に比較して、極めて語彙数が少ないようです。

匂い」を基本にしつつ、「香り」「香気」「芳香」「薫香」などの好感度と、「臭い」「腐臭」「異臭」「悪臭」などの悪感度の言葉が使われています。



匂いの発生源は、ソト界で漂っている、さまざまな「匂い分子」です。空気中を漂える低分子で、かつ揮発性のある化学物質である、といわれています。

この分子を、人間の「身分け」力の一つである嗅覚(鼻腔内部の嗅粘膜中の嗅細胞)が捉え、嗅神経を通じて大脳まで届けると、幾つかの反応を引き起こします。これがモノ界で無意識がとらえた「知」です。

それらの反応を人間の「識分け」力が把握し、日本人では「プーン」や「ツーン」など、英国人では「whiff」「stink」などのオノマトペ、つまりモノコト界の「深層・象徴言語」として「知」します。

続いて人間は、これらの嗅覚象徴を自らの「言分け」力でコト化し、日本人では「匂(にお)い」「臭(くさ)い」など、英国人では「smell」「stinks」など、コト界の「日常・交信言語」に置き換えて「知」し、会話や文通などの交信活動で使用します。

さらに人間は、これらの交信言語を、「言分け」能力をより高度化した思考・観念能力で、コト界の「思考・観念言語」に置き換え、文学活動科学研究などを行っています。

文学活動では、「」「芳香」などの比喩的表現に置き換えることで、気分や情緒などを表しています。

和歌

紅の薔薇のかさねの唇に 霊ののなき歌のせますな  与謝野晶子

君かへす朝の敷石さくさくと 雪を林檎ののごとくふれ 北原白秋

小説のタイトル

 『牝の芳香』多岐川恭

『伽羅の』宮尾登美子

科学活動では、比較的悪感度の高い言葉が多いようです。

化学用語・・・酸臭硫黄臭メントール(ハッカ)臭など

水質管理用語・・・芳香性臭気、植物性臭気、土、カビ、魚貝、薬品性臭気、金属性臭気、腐敗性臭気、不快など

以上のように、「匂い」という嗅覚言葉を、言語3階層説の視点から眺めて見ると、好感・悪感の対比による生成という、言語発生の仕組みが浮かび上がってきます。

2022年4月19日火曜日

「赤色」で言語3段階説を考える!

言語3階層説を、具体的な「言葉」を素材にして考察しています。

前回の「波音(なみおと)」という音声言葉に続いて、今回は「赤色(あかいろ)」という色彩言葉をとりあげます。「あかつき」や「あかるみ」などで目にする、「あか:明」るい色ですが、もう一方では「赤血球」の「あか」もまた示しています。



ソト界では人間が見ていると否に関わらず、日の出や日の入りなど太陽が動く度に、周りの大空は鮮やかな色彩を放ち、それを見ている人々の体内でも、熱い血潮が駆け巡っています。

それらの色を人間は、自らの視覚を使って「身分け」し、「日光」や「血色」など、モノ界の色彩イメージとして「認知」しています。

こうした色彩イメージを、人間はその意識機能を使って「識分け」し、日本人では「明るい」や「血の気」など、英国人では「light」「blood」などの視覚象徴、つまりモノコト界の「深層・象徴言語」として「識知」しています。

続いて人間は、これらの視覚象徴を、自らの言語能力によって「言分け」し、日本人では「赤色」「血まみれ」など、英国人では「red」「bloody」など、コト界の「日常・交信言語」に置き換えて「理知」し、会話や文通などの交信活動で使用しています。

この機能は広く社会へ拡大され、交通信号火災報知機の表示灯などでは、赤色が停止危険を示す交信記号として使われています。

さらに人間は、これらの交信言語を、「言分け」能力をより高度化した思考・観念能力によって、コト界の「思考・観念言語」に置き換え、文学活動、政治活動、科学研究などを行っています。

文学活動では、「朱色」「緋色」などの比喩的表現に置き換えることで、情熱、興奮、恋、危険などを表しています。

朱色の唇細き壁の画をかすかに見上げ吐息すわれは」(井伏鱒二)

「奥庭やもみぢ蹴あぐるの袴」(正岡子規)

また小説のタイトルとして、『朱色の研究』(有栖川有栖)や『緋色の囁き』(綾辻行人)などでも使われています。

政治活動では、赤旗をシンボルとすることから、赤色は共産主義を表しています。

科学研究では、日本工業規格(JIS)が一般色名として、色相50R、明度3.55.5、彩度913の範囲の色に、「」という色名をつけており、さまざまな研究活動や生産活動で使われています。

以上のように、「赤色」という視覚言葉を、言語3階層説から眺めて見ると、私たちの識知行動の成り立ちが朧気ながらも浮び上がってきます。