言語3階層説を、具体的な「言葉」を素材にして考察しています。
前回の「赤色」という色彩言葉に続いて、今回は「匂い」という嗅覚言葉をとりあげます。
嗅覚言葉は音声言葉や色彩言葉に比較して、極めて語彙数が少ないようです。
「匂い」を基本にしつつ、「香り」「香気」「芳香」「薫香」などの好感度と、「臭い」「腐臭」「異臭」「悪臭」などの悪感度の言葉が使われています。
匂いの発生源は、ソト界で漂っている、さまざまな「匂い分子」です。空気中を漂える低分子で、かつ揮発性のある化学物質である、といわれています。
この分子を、人間の「身分け」力の一つである嗅覚(鼻腔内部の嗅粘膜中の嗅細胞)が捉え、嗅神経を通じて大脳まで届けると、幾つかの反応を引き起こします。これがモノ界で無意識がとらえた「認知」です。
それらの反応を人間の「識分け」力が把握し、日本人では「プーン」や「ツーン」など、英国人では「whiff」「stink」などのオノマトペ、つまりモノコト界の「深層・象徴言語」として「識知」します。
続いて人間は、これらの嗅覚象徴を自らの「言分け」力でコト化し、日本人では「匂(にお)い」「臭(くさ)い」など、英国人では「smell」「stinks」など、コト界の「日常・交信言語」に置き換えて「理知」し、会話や文通などの交信活動で使用します。
さらに人間は、これらの交信言語を、「言分け」能力をより高度化した思考・観念能力で、コト界の「思考・観念言語」に置き換え、文学活動や科学研究などを行っています。
文学活動では、「香」「芳香」などの比喩的表現に置き換えることで、気分や情緒などを表しています。
和歌 紅の薔薇のかさねの唇に 霊の香のなき歌のせますな 与謝野晶子 君かへす朝の敷石さくさくと 雪を林檎の香のごとくふれ 北原白秋 小説のタイトル 『牝の芳香』多岐川恭 『伽羅の香』宮尾登美子 |
科学活動では、比較的悪感度の高い言葉が多いようです。
化学用語・・・酸臭、硫黄臭、メントール(ハッカ)臭など 水質管理用語・・・芳香性臭気、植物性臭気、土臭、カビ臭、魚貝臭、薬品性臭気、金属性臭気、腐敗性臭気、不快臭など |
以上のように、「匂い」という嗅覚言葉を、言語3階層説の視点から眺めて見ると、好感・悪感の対比による生成という、言語発生の仕組みが浮かび上がってきます。
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