2022年5月9日月曜日

「からい」で言語3階層説を考える!

言語3階層説を、具体的な「言葉」を素材にして考察しています。

前回の「匂い」という嗅覚言葉に続いて、今回は「からい」という味覚言葉をとりあげます。

味覚言葉も嗅覚言葉と同様、音声言葉や色彩言葉に比べて、かなり語彙数が少ないようです。

それでも、「からい」と「甘い」を2極に、「酸っぱい」と「苦い」が加わり、さらに「うまい」が重なっています。

からい」の発生源は、口の中で漂う、さまざまな化学物質です。

ソト界で漂っている、さまざまな「辛い分子」を、人間の「身分け」力の一つ、味覚舌の中の味蕾や舌の上面や喉頭蓋などの味覚受容体)が捉え、顔面神経、舌咽神経、迷走神経 、三叉神経などを通じて大脳まで届けると、幾つかの反応を引き起こします。これがモノ界で無意識がとらえた「」です。

それらの反応を人間の「識分け」力が把握し、日本人では「ヒリヒリ」「ツーン」「カッ」など、英国人では「pipping」「tingle」などのオノマトペ、つまりモノコト界の「深層・象徴言語」として「」します。

続いて人間は、これらの味覚象徴を自らの「言分け」力でコト化し、日本人では「からい」と「甘い」に、英国人では「spicy」や「sweet」などに区別して、コト界の「日常・交信言語」として「」し、会話や文通などの交信活動で使用します。

さらに人間は、これらの交信言語を、「言分け」能力をより高度化した思考・観念能力で、コト界の「思考・観念言語」に置き換え、文学活動科学研究などを行っています。

文学活動では、「からい」をメタファー(隠喩)によって「つらい」や「辛酸」「辛苦」などに置き換え、気分や情緒などを表しています。

和歌

なかれ木と たつ白浪とやくしほと いつれかからき わたつみのそこ・・・菅原道真:新古今集・巻十八

しほといへは なくてもからき世中に いかてあへたる たたみなるらん・・・壬生忠見:後撰和歌集・巻十五

小説・随筆

・・・道具の象徴する、世智辛い東京の実生活は、何度今日までにお君さんへ・・・ 芥川竜之介「葱」

・・・この種の映画と同じように甘いと辛いとの中間を行っている・・・ 寺田寅彦 「映画雑感6」

・・・連中は過ぐる十年間の辛酸を土産話にして、再び東京に落合う・・・ 島崎藤村「並木」

・・・何となく、今までの長い間の辛苦艱難が皮のむけたように自分を離れた心地がした。・・・ 国木田独歩 「河霧」

科学活動では「辛味」や「辛味成分」が使われています。

ワサビ、カラシ、ネギ、ニンニク、ダイコンなどの辛味は、アリル化合物の作用であり、舌や鼻へのツーンとした刺激として知覚されるため、日本語では「ツーンとくる辛さ」などと表現される。

トウガラシの辛味カプサイシンと呼ばれる成分によるもので、舌には熱さや痛さに似た刺激をもたらすので、「ヒリヒリする辛さ」と表現される。

以上のように、「からい」という味覚言葉を、言語3階層説の視点から眺めて見ると、「身分け」の反応に始まり、「識分け」によるオノマトペを経て、「言分け」による日常語や観念語への進展という、言語発生の仕組みが明確に浮かび上がってきます。

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