2021年3月29日月曜日

音分けとは・・・言分けの限界を考える!

ンデンシング・ライフ論でひとまず結論が出ましたので、先に【コンデンシング・ライフ・・・コト欲望よりモノ欲動へ移行!】で予告していました「音分け」論へ進んでいきます。

「音分け」とは、私たちの感覚が捉えた世界を「音声」で仕分けする能力です。

上記の投稿で指摘したように、私たちが日頃どっぷり浸かっている生活世界は、「モノ界(感覚界)」「モノコト界(認知界)」「コト界(識知界)」の3つから成り立っています。 


モノ界(感覚界:physis・・・私たち人間が自らの「身分け」能力によって、周りの環境世界の中から把握した世界。

モノコト界(認知界:gegonós・・・私たち人間が自らの「音分け(おとわけ)」能力によって、モノ界の中から把握できた対象と把握できなかった対象の、2つが行き交う世界。

コト界(識知界:cosmos・・・私たち人間が自らの「言分け」能力によって、モノ界の中から把握した世界。 

3つの世界が生まれるのは、人間の基本的な能力である「身分け」「音分け」「言分け」の成果と思われます。

このうち、「身分け」と「言分け」については、【縦軸の構造・・・「身分け」と「言分け」】で紹介した視点に従って、議論を展開してきました。

しかし、最近に至って、両者の間にもう一つ、「音分け」を入れるべきではないか、と思うようになりました。

「言分け」という能力は、「感覚」の捉えた世界を「言葉」によって捉え直す能力を意味していますが、その能力には、社会で通用している「固定言語」を使いこなす能力と、未だ定まっていない「生成言語」を操る能力も含まれているのではないか、と考え始めたからです。

 

もともと「言分け」という能力は、..ソシュールの言語論をベースに、「シンボル化能力とその活動」(丸山圭三郎『ソシュールの思想』1981年)と定義されたものです。つまり、広い意味でのコトバを操る能力を意味しています。

ソシュールによると、一つの言葉(シーニュ=signeとは、音声や表音文字などの「聴覚映像」であるシニフィアン(signifiantSa=意味するもの)と、「イメージ」や「概念」であるシニフィエ(signifie=意味されるもの)が、一体的に結びついたもの(signeSé /Sa)とされています。

「イヌ」という音声や「犬」という文字がシニフィアンであり、🐕というイメージや🐩という概念がシニフィエというわけです。

そのうえで、ソシュールは「言語記号は恣意的である」と述べ、言葉における「シニフィアンと シニフィエの関係は恣意的であり、現実においてなんの自然的契合をも持たない」と説明しています(『一般言語学講義』小林英夫訳、1984年)。

「イヌ」という音声と🐕というイメージには、なんの結びつきはなく、人間が勝手に結びつけているにすぎない、ということです。

確かにイヌ(日本語)dog(英語)Chien(フランス語)Hund(ドイツ語)など、全く異なる音声や表記は、いずれも🐕というイメージや🐩という概念を表していますから、固定言語という視点から見れば、まさしく正論かもしれません

しかし、言語には固定される以前に、人間同士が意志や感情を交し合う生成段階もあるのではないかと考えると、単純には頷けないような気がしてきます。

実際の言語活動をみると、固定言語で表わせないことを、あれこれと模索しながら、情報交換をしているケースも多々あるのではないでしょうか。

そこで、もう一度、ソシュールの次元に戻って、「言分け」とは何か、を考えてみたいと思います。

2021年3月21日日曜日

コンデンシング・ライフ・・・差別化の本質が変わる!

コンデンシング・ライフにおける「差別化」行動は、モノ界や個人界の比重増加に影響を受けつつ、真実界と虚構界の濃縮化にも対応して、その重心を生活構造の左下へ移していく、と述べてきました。

生活民の生活構造では、基本的な3軸の交差する中心部分、つまりモノコト界、間人界、日常界が重なる中心空間こそ、私たち個々人が毎日、リアルな生活を営んでいる生活空間です。

この空間を下図に示したように、「実存界」と名づけると、差別化とはこの世界における選択行動ということになります。

つまり、実存界における選択行動とは、モノコト界、間人界、日常界の3つの特性を維持しつつ、さらにそれらを統合化したものになるはずです。

具体的に考えてみましょう。

縦軸上での差別化行動

生活行動全般の下降志向差異化→差別化→差元化)に影響されて、差別化行動もまた、有名ブランド衣料から作業服系衣料へ、ブランド食品から調理簡単食品へ、超高層ブランドマンションから高利便低層マンションへ、と向かっていきます。

横軸上での差別化行動

生活行動全般の左傾志向差汎化→差別化→差延化)に影響されて、差別化行動もまた、既製スーツから組み替え可能スーツへ、味覚完璧ビールから混ぜ合わせ可能ビールへ、戸建て完成住宅から自由設計プレハブ住宅へ、と向かっていきます。

前後軸上での差別化行動

生活行動全般の中心志向差真化→差別化←差戯化)に影響されて、差別化行動もまた、大仰な有名大学望から身の丈タイプ大学志望へ、生涯一度の豪華絢爛型旅行から日常的毎月旅行へ、と向かっていきます。

統合化された差別化行動

縦軸上の差元化志向、横軸上の差延化志向、前後軸上の集中志向に影響されて、実存界での差別化行動は、独立自尊、自給自足的な傾向を強めていくことが予想されます。

要するに、人口減少時代における生活民の差別化行動とは、平常生活の基盤となって、膨張・拡大型の生活からいち早く抜け出し、新たに飽和・濃密型のライフスタイルを構築しようとしているものだ、ともいえるでしょう。

その意味では、実存界での差別化行動こそ、コンデンシング・ライフの典型なのかもしれません。

2021年3月13日土曜日

コンデンシング・ライフ・・・生活民の差別化行動とは?

コンデンシング・ライフを個人志向、感覚志向、真実・虚構志向の3面から考えてきました。4つめは3志向が交差する「日常・平常生活の濃縮化」という側面です。

日常・平常生活は、私たちの生活構造の中心部分であり、モノコト界、間人界、日常界の3つが重なる生活空間です。

それぞれの世界が意味するものを、空間の特性、発生する生活願望、起動する生活行動の3面から、もう一度確かめておきましょう。

モノコト界

❶特性・・・私たち人間が自らの「音分け(おとわけ)」能力によって、モノ界の中から把握できた対象と把握できなかった対象の、2つが行き交う世界。認知界(gegonós)ともよべる。

欲求・・・身分けによって把握した生理状態が、音分け上に浮かび上がってきた時、その適否に対応しようとして発生する願望(want)。生物としての身体が求めるものを意識に組み入れたうえ、要・不要を判断し、改めて有用性を追い求めるもの。

差別化・・・生活願望の「欲求」に対応して、モノやサービスに付随する性能や品質など、さまざまな「機能」によって、物質的な満足を得ようとする生活行動。

間人界

❶特性・・・言語能力のラングを前提に、私たち人間がお互いに会話、実践、交換などの〈交流〉を行っている日常的な空間。

実欲・・・家事、就業、勉強など日常的な生活の中で、実効的な効果や成果を得たいと思う生活願望。

差別化・・・「実欲」を満たすため、生活民が共効に基づいて認める有用性「個効」を個人的に実現しようとする生活行動。

日常界

❶特性・・・真実と虚構の2つの空間の狭間にあって、虚実の入り混じった、日常の空間。

日欲・・・真実と虚構、儀礼と遊戯、緊張と弛緩の間で、絶え間なく揺らめいている日常界の中から生まれてくる生活願望。毎日の暮らしを実現していく、最も基本的な動機として、現実的、具体的な性格を帯びている。

差別化・・・「日欲」を満たすため、虚実を遠ざけて、ひたすら現実を沿い合おうとする差別化行動。

以上のように、3世界と3願望が交わる日常界では、生活民の「日常・平常」な生活が営まれており、そこでの生活行動は「差別化」が基本になります。

「差別化」というと、従来のマーケティングでは「他の商品とは異なる機能・性能・品質で消費者に訴求する戦略」を意味していますが、ここでいう「差別化」とは「生活民各人が分自身の生活を組み立てるために行う選択」を意味しています。 

欲求による差別化・・・生活民各人が自分の体感が求める欲求の強弱を意識的に判断して、個人的に選択する生活行動。

実欲による差別化・・・多くの生活民が認めている「共効」の中から、自分にとってふさわしい有用性を選択し、個人的に実現しようとする生活行動。

日欲向け差別化・・・虚実の入り混じった日常空間の中で、一つ一つできるだけリアルな事象を選択しようとする生活行動。

要約すれば、生活民の差別化行動とは、欲求・実欲・日欲に基づきつつ、さまざまな有用性の中から物質的な「ききめ」を個人的に選択し、それら実現しようとする生活行動といえるでしょう。

このような差別化行動が、コンデンシング・ライフでは肥大化よりも濃密化へ向かっていきます。

図に示したモノコト界において、差別化行動とは、モノ界や個人界の比重増加に影響を受けつつ、真実界と虚構界の濃縮化にも対応して、その重心を左下の方向へ移していくということです。

新たな差別化行動とは、どのような形になるのでしょうか。

2021年3月8日月曜日

コンデンシング・ライフ・・・虚実濃密行動とは何か?

コンデンシング・ライフでは、真欲、日欲、虚欲という生活願望の、それぞれの外部拡大よりも内部充実を求める方向へと、生活民の軸足が向っていきます。

具体的にどのような生活行動なのでしょうか。真欲からは差真化行動が、日欲からは差別化行動が、虚欲からは差戯化行動が、それぞれ生まれてきます。 


差真化行動とは、真実界から生まれてくる、儀礼や儀式、学習や訓練、自制や自律などを求める真欲に応えて、儀式や儀礼、勉学やトレーニング、自省法や内観法などを実行するものです。

作法・儀式行動・・・望ましい集団生活を作りだそうという目標(言語規範)をめざして、わがままやエゴを抑制しようとする「自戒」行動をベースに、マナーや家庭慣習などを守りたいという「作法」行動、季節儀礼や通過儀礼などを守ろうとする「儀式」行動が生まれてきます。

学習・教育行動・・・将来の知的能力を築こうという目標(言語規範)をめざして、自ら学ぼうとする「自習」行動をベースに、家庭や職場などでも勉学の機会を増やそうとする「学習」行動、さらには学校教育や専門教育などを利用して、知力を向上しようとする「教育」行動が広がってきます。

修行・訓練行動・・・自らの身体的・精神的能力を高めようとする目標(言語規範)をめざして、トレーニングや修練を行おうとする「自強」行動をベースに、より強く訓練や鍛錬、節度や摂生を自らに課そうとする「修行」行動、さらには学校やトレーニング機関で体力を向上しようとする「訓練」行動が生まれてきます。

自制・自律行動・・・望ましい自己を実現しようという目標(言語規範)をめざして、自省や内省を深める「内観」行動を基礎に、行動や生活を制御しようとする「自律」行動、自らの将来を描こうとする「向上」行動などが生まれてきます。

以上の4つの行動において、コンデンシング・ライフでは①よりも②③の方が、②③よりも④の方が、次第に比重を高めてくるでしょう。

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差別化行動とは、日常界から生まれてくる日欲が引き起こす行動ですが、日欲には先に述べたように欲求・実欲・日欲の3つが複合化されていますので、機能・性能・品質などを求める行動を中核として、実体験を重視する行動が強まってきます。

もっとも、日欲には横軸構造の実欲縦軸構造の欲求が絡んできますので、差別化のコンデンシングの方向も、いっそう複雑化していきます。そこで、この行動については、次回以降のブログで解説することにします。

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差戯化行動とは、虚構界から生まれてくる弛緩、解放、遊興などを求める虚欲に応えて、虚脱・混乱、浪費・蕩尽、戯化・模擬、ゲーム・競争などを実行するものです。

虚脱・混乱行動・・・陶酔、酩酊、トランポリンなど虚構空間の中で私的な錯乱状態を求める「めまい」行動を基盤に、温泉や気晴らし旅行など体感次元の発散を求める「虚脱」行動や、遊園地やカーニバルなどの設備で集団的に虚脱空間を作りだす「混乱」行動が生まれてきます。

浪費・蕩尽行動・・・目標や目的を意図的に放棄して、気の向くままに行動することを意味します。私的な生活次元での無為や惰性などの「怠惰」行動を基盤にして、経済的な生活次元では無駄づかいや蕩尽などの「浪費」行動が、社会的な生活次元では冗費や乱費やなどの「蕩尽」行動が生まれてきます。

戯化・模擬行動・・・仮面遊びや着せ替え遊びなどの虚構ルールへ私的に戯れようとする「私戯」行動を基盤として、娯楽やレジャーなど日常的な虚構を実行しようとする「戯化」行動や、映画、演劇、音楽、美術など虚構空間を集団的に作りだそうとする「模擬」行動が生まれてきます。

ゲーム・競争行動・・・ギャンブルやくじなどの虚構ルールへ私的に挑戦しようという「賭け」行動を基盤として、囲碁や麻雀などの虚構ルールへ日常的に戯れる「ゲーム」行動や、競技や競演など虚構ルールへ集団的に戯れようとする「競争」行動が生まれてきます。

コンデンシング・ライフでは、以上の4つの差戯化行動のそれぞれの内部において、対外的な戯化行動よりも対内的な戯化行動の比重が高まってくる、と考えるべきでしょう。 

以上のように、「真実・虚構志向の見直し」においても、私的充足をめざす傾向が強まり始めています。昨今の生活動向を見れば、そうしたトレンドがあちこちで散見できます。