「価値」という漢字も「効用」という漢字も、ともに大陸の漢字文化の中から、欧州語のValueやUtilityの意味に似た文字を探し出して、当てはめられたものです。
「価値」は、古墳時代に「價直(げじき=呉音、かちょく=漢音)」という漢字で導入され、江戸時代になって、欧州語の翻訳語として「價値(かち)」という言葉に置き換えられ、昭和後期に「価値(新字体)」になりました。
「効用」の方も、前回まで見てきたように、明治前期に「利用」「実利」という漢字で導入されましたが、明治末期から大正期にかけて「效用(旧字体)」へ、そして昭和後期に「効用(新字体)」に至っています。
かくして、経済的な意味での「価値」や「効用」という言葉は、現代経済学の基本用語となり、日常用語としても定着しているようです。
しかし、2つの言葉を、私たち日本人の基本的な言語感覚である「大和言葉」の立場から見直す時、いささか狭いようにも感じられます。
すでに述べたように、「価値」に相当する大和言葉は「ねうち」であり、「音(ね)を打(う)つ」ことです。ポンポンと西瓜を叩いて、食べごろを推し量るように、モノの音(ね)を聞いて、モノの有用性である美味しさを推測することを意味しています。
一方、「効用」に相当する大和言葉は「ききめ」と、筆者は推定しています。「きき」と「め」が繋がったもので、「きき」は「きく(聞く)」の変形、「め」は「めやす(目安)」の略語です。つまり、「音(ね)を打っ」た音(ね)を「聞」いて、「目(で計る)」ことだと思います。
大和言葉は私たち日本人の言語感覚のベースとなるものです。それは、日本人が感覚で把握した現象世界を、最も元始的な言語である「オノマトペ(擬声語)」を基礎にして作りあげた言葉です。
それゆえ、「言語阿頼耶識」と井筒俊彦先生が定義された通り、無意識次元から意識次元の言葉を作り上げていく力を持っています。
この立場から見る時、移入用語である「価値」や「効用」という言葉は、どのような位置づけになるのでしょうか。
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