生活民も暮らしにおいて、差延化行動はどのように展開されているのでしょうか。
生活民の、モノの使用に関する差延化行動を考えてみる時、【差延化戦略には5つの方法があった!】(2016年12月31日)で取り上げた通り、私仕様、参加、手作り、編集、変換といった、5つの方法が浮かんできます。
これらの方法を生活民という立場から改めて見直してみると、最初に取り上げなければならないのはやはり「手作り」という行動でしょう。
「手作り」とは、本格的な「私効」実現をめざす生活民が、「自分の手で作る」自給自足行動であるからです。
もともと生活民に先行する「生活者」という概念には、提唱者の大熊信行が指摘した通り、生活の基本が「自己生産であることを自覚して」いる人々、という性格が色濃く含まれています(大熊信行の提起した「生活者」とは(2015年2月19日)。
とすれば、「生活者」を継承する「生活民」の生活行動においても、最も基本になるのはやはり「手作り」ということになるでしょう。
生活民とは、自らの生活に必要なモノやサービスを、まずは自給自足によって獲得する、能動的な主体なのです。
その意味では、交換制度が未発達であった旧石器社会や制度や、未熟であった新石器社会の人々こそ、生活民の原型ともいえます。石矢を自作して獲物を捕る行為や、土器を自作して食糧を保管する行為などは、自給自足の典型ではないでしょうか。
生活財の交換制度が極度に発達した現代社会においても、農山村などの住民の中には、自らの食糧の大半を自給自足で獲得しているケースも、稀有とはいえ存在している可能性があります。
自給自足によって自らの暮らしを実現している主体こそ、生活民の典型なのです。
このように書くと、「手作り」という行動は「ヰティリテ(utilite):社会的使用体系」から独立した、独自の生活行動とも思われます。
しかし、彼らの行っている自給自足行動もまた、その手順や知識などの、その全てが独創ということは極めて少なく、基礎的作法や手順などは、彼の属する社会的集団の中に育まれてきた、一定の作法を取り入れている場合が多いでしょう。
そうした意味では、「手作り」行動もまた、「ヰティリゼ1(utiliser 1):個人的使用活動」を基礎にしつつ、その上には独自の応用行動によって、新たな用途を紡ぎだす「ヰティリゼ2(utiliser 2):個人的創造活動」を行っている、ともいえるでしょう。
つまり、「手作り」とは、社会的な「手作り作法(Self-Making)」に従いつつ、そのまま行っている「手作り1(Self-Make-1)」と、それに独創を加えた「手作り2(Self-Make-2)」ということになります。
大和言葉で表現すれば、「手作り」とは、社会的な「ねうち(共効)」をそのまま味わう「ききめ1(個効)」から、それに独創を加えて「ききめ2(私効)」へと進む、ということです。
自給自供自足という生活行動もまた、「差延化」行動の、最も基本的な一つといえるでしょう。
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