2024年3月29日金曜日

生活心理を横軸で考える!

生活意識の構造を掴むため、前回の縦軸に続いて、今回は横軸を考えます。

横軸は、言葉という人工物が持っている、本質的な構造によって、新たに生み出されてくる、個人・社会の軸です。

このテーマについても、当ブログでは「個人・社会」構造として、さまざまな角度から思考してきましたので、主な論点を整理しておきましょう。

横軸の基本的な構造については、【横軸の構造・・・ラングとパロール】で述べています。

●言葉の機能には、民族や国家が共有している「ラング」の次元と、それを使って個人が会話を交わしたり、思考するという「パロール」の次元がある。

ラングとは、文法や単語、音声や意味など、社会集団が共有している言語体系であり、パロールとは、それらを前提にして話したり考えたりする、個人的な言語行動である。

●パロールという行為には、他人との交流のために行う「パロールⅠ」と、自らと会話する「パロール2」がある。

●言葉によって作られる生活世界は、ラング界、パロール1界、パロール2界の、3つに分かれる。

●ラング界は外側の世界と交流する「社会界」、パロール1界は日常的な暮らしにおいて交流を行なう「間人界」、パロール2界は自己の内側と交流する「個人界」と言い換えることができる。

社会界、間人界、個人界の、それぞれの特徴は横軸が作る3つの世界・・・社会界・間人界・個人界で述べています。

社会界・・・ 私たちがラング(言語、文化、伝統、歴史、慣習、規範、法律など集団的な価値観や制度)を受け入れつつ、同時にラングそのものへ働きかけている集団的な世界

間人界・・・ ラングを前提に、私たちが会話、実践、交換などを〈交流〉している日常的な世界

個人界・・・ 私たちがラングに従いながらも、純個人として自らの内部に語りかけたり、ラングを自分なりに変換して新たな表現を作りだしている私的な世界

●これら3つの言語的世界は、私たちの日常生活はもとより、一般的な社会活動から経済活動にまで、大きく広がっている。

●横軸は、社会学的な「社会⇔個人」、経済学的な「集団的な価値⇔純個人的なネウチ」、心理学的な「集団への同調⇔純個人的な愛着」など、空間的な対応を示唆している。

3つの世界から生まれてくる生活願望については【横軸が作る3つの生活願望・・・世欲・実欲・私欲】で述べています。

世欲・・・社会的な地位や経済的な成功など、世間的な評価を手に入れたいと思う生活願望

実欲・・・家事、就業、勉強など日常的な生活の中で、実効的な効果や成果を得たいと思う生活願望

私欲・・・自省や内省など自分自身との交信の中で、他人に何といわれようとも、純私的に満足したいと思う生活願望

 

以上のように、生活構造の横軸には、社会界、間人界、個人界が潜み、それぞれの内部から、世欲、実欲、私欲の3つの生活願望が生まれてきます。

2024年3月7日木曜日

生活心理を考える・・・意識としての生活世界構造

生活学・新原論の2番めは、生活民の意識構造、つまり生活主体の意識がどのような世界から生まれてくるのか、という課題です。

意識構造を捉えるには、縦軸、横軸、前後軸の3つの視点があります。

今回は縦軸から入りますが、このテーマについては、当ブログにおいて幾度か修正を加えながら、「生活世界構造」と題して詳しく展開してきました。主な論点を整理しておきましょう。

①【生活構造の縦と横】では、私たちのさまざまな生活意識が生まれてくる〝場〟、現象学的社会学が「生活世界」と名づけた生活空間を提案しています。この空間を、縦軸としての心の階層と、横軸としての行動の空間の、相互にクロスする次元として把握しています。2つの軸のうち、縦軸が生活意識の生まれてくる次元です。

②【身分け・言分けが6つの世界を作る!】では、縦軸を構成する、最も基本的な要素として「身分け」と「言分け」の2つを挙げています。「身分け(みわけ)」とは、哲学者の市川浩が「身によって世界が分節化されると同時に、世界によって身自身が分節化されるという両義的・共起的な事態」と定義したもの、また「言分け(ことわけ)」とは、言語学者の丸山圭三郎が「シンボル化能力とその活動」、つまり広い意味でのコトバを操る能力とそれによって生まれる世界を意味しています。

言語3階層説の基盤を考えるでは、「身分け」「言分け」に加えて、「識分け(しわけ)」の導入を、筆者が提案しています。「識分け」とは、仏教の唯識論や言語学者・井筒俊彦の言語アラヤ識論にも因んで、「身分け=感覚把握」と「言分け=言語把握」の間に、もう一つ「識分け=意識把握」の次元がある、ということです。

④【「ことしり」から「ことわり」へ!】では、「身分け」「識分け」「言分け」に加え、さらにもう一つ「網分け(あみわけ)」を、筆者が提案しました。「網分け」とは日常的な言語の上に、もう一つ思考・観念的な言葉の次元を配慮したものです。「言分け」の分節化で生み出された言葉や記号の上に、さらに特定の意図による「網」をかけて、抽象化された言葉や記号を創り出すことを意味しています。「網分け」によって、日常的かつ広義的な言語が推理・整頓され、極めて狭義的かつ正確的な思考・観念言語が生み出されるのです。

以上のような4つのプロセスを設定すると、生活民の生活心理、つまり生活意識は下図のような「生活世界構造」として把握できます。



身分け・識分け・言分け・網分けの4分けによって、生活意識は次のように作動することになります。

❶生活民の意識行動は【おぼえず­~おぼえる~しる~はなす~かんがえる】に分かれてきます。

❷意識行動の変化によって、生活民の心の中には、ソト界(未知界)モノ界(認知界)モノコト界(識知界)コト界(言知界)アミ界(理知界)の、5つの心理的世界が生まれてきます。

❸5つの世界では、無感覚~無意識~意識~知識~学識という、 5つの認識行動が動き出します。 

生活学の新たな原論では、生活民が営む、さまざまな生活行動の背景に、以上のような意識構造と手順が潜んでいる、と考えています。