人減先進国としての日本の将来。・・・それを考える前提として、過去120年間、人口増加時代の生活様式がいかに変わってきたのか、を確認しています。
前回の食料自給率に続き、今回は進学率と出生率の関係を振り返ってみましょう。
高等教育機関への進学率の推移は、生活民一人一人にとって、一方では教育費用負担の増加を、他方では高学歴化による上昇志向の拡大を、それぞれ意味しています。
その意味では、一国の人口を構成する生活民の欲望水準を象徴している、とも言えます。
そこで、高等教育機関への進学率の推移を、次のような手順で調べてみました。
戦後の進学率は、文部科学省の諸統計で、次のように算定されています。
高等教育機関進学率(過年度入学=浪人を含む)=大学・短期大学・高等専門学校進学者数/18歳人口(3年前の中学校卒業者数) |
戦前の進学率は発表されていませんので、文部科学省の「明治6年以降教育累年統計」をベースとしつつ、戦後に近づけるため、次のように算定しました。
高等教育機関進学率=旧制高等学校・専門学校・実業専門学校・旧制大学・師範学校・高等師範学校などの生徒数/18歳人口 |
このような手順で進学率の推移を振り返ってみました。
➀戦前の明治~大正期(1900~25)は1~3%、昭和前期(1926~40)は4%前後であった。 ②戦後は、1950年代の10%から、60年代19~20%、70年代25~38%と登り始め、80年代39%、90年代49%、2000年代57%と急上昇した後、2010年には58.6%に達している。 ③現在では、子作りを判断する50歳以下の4割以上が、すでに高学歴者になっている。 |
他方、出生率の推移を、合計特殊出生率の動きで比較してみましょう。
合計特殊出生率とは、15~49歳の既婚・未婚の全女性の年齢別出生率を合計したもので、一人の女性が一生の間に産む子どもの数を表しています。
その推移は次のようなものです。
➀戦前は1900年の6.25人から10年の5.63人まで低下した後、20年前後に6.45人まで回復したものの、以後は急落し、39年に3.74人まで落ちている。 ②戦後は1947年の4.54人から55年の2.37人、60年の2.00人、70年の2.13人、80年の1.75、90年の1.54人、2000年の1.36人と低下した後、2010年代に1.45人とやや回復し、2020年に1.34人に至っている。 ③1900年代はほぼ一貫して低下傾向にあったが、2000年代に入って横ばい状態にある。 |
2つのデータを比較してみると、次のようなトレンドが読み取れます。
❶進学率は18歳時点のデータではあるが、その後の経歴となるため、生活民全体の欲望水準が想定できる。 ❷進学率と出生率の推移は見事に逆対称を示しており、相関係数が-0.737と、強い負の相関が見られる。 ❸1960年以前は進学率の漸増と出生率の急減、以降は進学率の急増と出生率の漸減が、明確に読み取れる。 |
学歴の上昇で出生率はなぜ低下していくのでしょうか。主な理由として、次の3つをあげることができます。
①高学歴者になるためには、教育費が増加し、父母の費用負担が増加する。 ②高学歴者ほど自己実現欲望を拡大させ、子作りを敬遠する。 ③高学歴者ほど判断能力を拡大させ、将来不安や人生不安を感じる。 |
こうしてみると、進学率と出生率の関係には、人口容量が限界に近づくにつれて、生活民の上昇欲望や生涯意識が敏感になり、子作りを躊躇う、という関係が如実に表れている、と思われます。
これこそが、人口抑制装置が作動する仕組みの一つ、ともいえるでしょう。
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