2022年4月30日土曜日

「匂い」で言語3階層説を考える!

言語3階層説を、具体的な「言葉」を素材にして考察しています。

前回の「赤色」という色彩言葉に続いて、今回は「匂い」という嗅覚言葉をとりあげます。

嗅覚言葉は音声言葉や色彩言葉に比較して、極めて語彙数が少ないようです。

匂い」を基本にしつつ、「香り」「香気」「芳香」「薫香」などの好感度と、「臭い」「腐臭」「異臭」「悪臭」などの悪感度の言葉が使われています。



匂いの発生源は、ソト界で漂っている、さまざまな「匂い分子」です。空気中を漂える低分子で、かつ揮発性のある化学物質である、といわれています。

この分子を、人間の「身分け」力の一つである嗅覚(鼻腔内部の嗅粘膜中の嗅細胞)が捉え、嗅神経を通じて大脳まで届けると、幾つかの反応を引き起こします。これがモノ界で無意識がとらえた「知」です。

それらの反応を人間の「識分け」力が把握し、日本人では「プーン」や「ツーン」など、英国人では「whiff」「stink」などのオノマトペ、つまりモノコト界の「深層・象徴言語」として「知」します。

続いて人間は、これらの嗅覚象徴を自らの「言分け」力でコト化し、日本人では「匂(にお)い」「臭(くさ)い」など、英国人では「smell」「stinks」など、コト界の「日常・交信言語」に置き換えて「知」し、会話や文通などの交信活動で使用します。

さらに人間は、これらの交信言語を、「言分け」能力をより高度化した思考・観念能力で、コト界の「思考・観念言語」に置き換え、文学活動科学研究などを行っています。

文学活動では、「」「芳香」などの比喩的表現に置き換えることで、気分や情緒などを表しています。

和歌

紅の薔薇のかさねの唇に 霊ののなき歌のせますな  与謝野晶子

君かへす朝の敷石さくさくと 雪を林檎ののごとくふれ 北原白秋

小説のタイトル

 『牝の芳香』多岐川恭

『伽羅の』宮尾登美子

科学活動では、比較的悪感度の高い言葉が多いようです。

化学用語・・・酸臭硫黄臭メントール(ハッカ)臭など

水質管理用語・・・芳香性臭気、植物性臭気、土、カビ、魚貝、薬品性臭気、金属性臭気、腐敗性臭気、不快など

以上のように、「匂い」という嗅覚言葉を、言語3階層説の視点から眺めて見ると、好感・悪感の対比による生成という、言語発生の仕組みが浮かび上がってきます。

2022年4月19日火曜日

「赤色」で言語3段階説を考える!

言語3階層説を、具体的な「言葉」を素材にして考察しています。

前回の「波音(なみおと)」という音声言葉に続いて、今回は「赤色(あかいろ)」という色彩言葉をとりあげます。「あかつき」や「あかるみ」などで目にする、「あか:明」るい色ですが、もう一方では「赤血球」の「あか」もまた示しています。



ソト界では人間が見ていると否に関わらず、日の出や日の入りなど太陽が動く度に、周りの大空は鮮やかな色彩を放ち、それを見ている人々の体内でも、熱い血潮が駆け巡っています。

それらの色を人間は、自らの視覚を使って「身分け」し、「日光」や「血色」など、モノ界の色彩イメージとして「認知」しています。

こうした色彩イメージを、人間はその意識機能を使って「識分け」し、日本人では「明るい」や「血の気」など、英国人では「light」「blood」などの視覚象徴、つまりモノコト界の「深層・象徴言語」として「識知」しています。

続いて人間は、これらの視覚象徴を、自らの言語能力によって「言分け」し、日本人では「赤色」「血まみれ」など、英国人では「red」「bloody」など、コト界の「日常・交信言語」に置き換えて「理知」し、会話や文通などの交信活動で使用しています。

この機能は広く社会へ拡大され、交通信号火災報知機の表示灯などでは、赤色が停止危険を示す交信記号として使われています。

さらに人間は、これらの交信言語を、「言分け」能力をより高度化した思考・観念能力によって、コト界の「思考・観念言語」に置き換え、文学活動、政治活動、科学研究などを行っています。

文学活動では、「朱色」「緋色」などの比喩的表現に置き換えることで、情熱、興奮、恋、危険などを表しています。

朱色の唇細き壁の画をかすかに見上げ吐息すわれは」(井伏鱒二)

「奥庭やもみぢ蹴あぐるの袴」(正岡子規)

また小説のタイトルとして、『朱色の研究』(有栖川有栖)や『緋色の囁き』(綾辻行人)などでも使われています。

政治活動では、赤旗をシンボルとすることから、赤色は共産主義を表しています。

科学研究では、日本工業規格(JIS)が一般色名として、色相50R、明度3.55.5、彩度913の範囲の色に、「」という色名をつけており、さまざまな研究活動や生産活動で使われています。

以上のように、「赤色」という視覚言葉を、言語3階層説から眺めて見ると、私たちの識知行動の成り立ちが朧気ながらも浮び上がってきます。

2022年4月11日月曜日

「波音」で言語3段階説を考える!

言語3階層説をさまざまな角度から考えてきました。

いささか抽象的な話に偏りすぎましたので、今回は具体的な「言葉」を素材にして考えてみます。

一例として「波音(なみおと)」という言葉を取り上げてみます。海原や谷川の水面から生まれる、爽やかな音です。


ソト界では人間が聞いていると否に関わらず、海水や河水などが揺れ動く度に、周りの空気と触れ合って、さまざまな音を立てています。

その音を人間は、自らの感覚器官を使って「身分け」し、「dzaɰadzaɰaザワザワ」「dza\ːdzaːザーザー」「sa\ɾasaɾaサラサラ」など、モノ界の音波イメージとして「認知」しています。

これらの音波イメージを、人間はその意識機能を使って「識分け」し、日本人では「ザワザワ」「ザーザー」「サラサラ」など、英国人では「murmur」「swash」「splash」などの音声言語、つまりモノコト界の「深層・象徴言語」として「識知」しています。

続いて人間は、これらの音声言語を、自らの言語能力によって「言分け」し、日本人では「波音」「潮音」「せせらぎ」など、英国人では「creek」「brook」「babble」など、コト界の「日常・交信言語」に置き換えて「理知」し、会話や文通などの交信活動で使用しています。

さらに人間は、これらの交信言語を、「言分け」能力をより高度化した思考・観念能力によって、コト界の「思考・観念言語」に置き換え、文学活動研究行動などを成り立たせています。

例えば「濤声(とうせい)」「潮騒」などの比喩的表現に置き換えることで文学活動を進めてきました。

「怒りたける相模灘の濤声、万馬の跳るがごとく、海村戸を鎖して燈火一つ漏る家もあらず」(徳富蘆花『不如帰』)や、「半夜、眠れぬままに、遥かの濤声に耳をすましていると、真蒼な潮流と爽やかな貿易風との間で・・・」(中島敦『光と風と夢』)などの表現です。

あるいは短編小説『
濤声』(宮本百合子)や長編小説『潮騒』(三島由紀夫)などのタイトルとしても使われています。

研究活動でいえば、「音波」「周波数」など、専門的な“理”縁言語に命名することで、観測・研究活動などを推進しています。

音波」とは、空気や水などの中を伝わる振動波であり、この波が耳に達することで、人間は音を感じます。

厳密な定義によれば、人間や動物の可聴周波数として空中を伝播する「弾性波」であり、人間などの生物が聴覚器官で捉えられると、音として認識されるもの、と言われています。

以上のように、「波音」という、一つの言葉を、言語3階層説の視点から眺めて見ると、私たちの言語行動の生成・使用構造が如実に浮かび上がってきます。