2025年7月26日土曜日

生活学・新原論Ⅷ-2:10年で生活コストが変わった!

当ブログの提案する「生活世界構造」によって、生活コストの実態を分析しています。

総務省統計局の「家計調査」のデータ(2人以上の世帯・1世帯当たり1か月間の用途別支出金額)を素材に、今回は10年間の変化を考えてみます。

20142024を、前回述べた生活行動7項目【生活世界構造】によって仕分けし、デフレーターを考慮して、で表してみると、下図のようになります。

(教養娯楽データは、前回指摘したように差真化と差戯化に等分しています。)

2014年と2024年を比べてみると、全体では次のような変化が浮上してきます。

➀7項目別では、差識化(約25%)、差元化(約23%)、差汎化(約12%)の比重が高く、この3つで60に達しています。

2014年より2024年が高かったのは差元化(+3.42%)と差戯化(+1.26%であり、ほとんど変わらなかったのは差真化(+0.02%、低かったのは差識化(−0.25%)、差異化(−0.86%)、差延化(−1.32%)、差汎化(−2.27%です。

生活行動別に眺めると、次のような変化が見られます。

❶差元化では、調理食品、肉類、穀類などの食品保険医療費が増えています。

❷差戯化では、菓子類外食などが増えています。

❸差真化では、教育、教養費がともに伸びています。

❹差識化では、家事用消耗品家庭用耐久財などへの支出が増えましたが、光熱・水道費が減っています。

❺差異化では、洋服通信費が減っています。

❻差延化では、理美容品やサービスが増えましたが、小遣い使途不明金が減っています。

❼差汎化では、交際費が大幅に減っています。

全体的に見れば、差元化、差戯化などで自宅内・家庭内での生活コストが増えていますが、差異化、差延化、差汎化などでは、外部や外見などへの支出を減らす傾向が現れています。

この背景には、コロナ禍の残滓による在宅中心生活の継続や、濃密社会の浸透に伴う欲望志向の低下などが推定されるでしょう。

2025年7月19日土曜日

生活学・新原論Ⅷ-1:生活コスト論が始まる!

「生活時間論」がひとまず終わりましたので、生活学・新原論は「時間から費用へ」と視点を移し、今回から「生活コスト論」を考えていきます。

生活コストの代表的な指標としては、総務省統計局の「家計調査」があります。1946年に始まった「社会生活基本調査」を継承し、1953年からは「家計調査」として5年ごとに実施されています。

家計調査の用途別支出項目を、当ブログの【生活世界構造】に対応させるため、まずは世界構造の7つの生活行動を確認しておきましょう。

差識化・・・さまざまな有用性の中から、日常的に必要な「ききめ」を求める生活行動。

差元化・・・身体性や直感性、原始性や動物性など「身分け」力を求める生活行動。

差異化・・・言語やイメージなど、さまざまな「記号」を求める生活行動。

差汎化・・・社会的なネウチや共同体的な「ねうち」つまり「共効」を求める生活行動。

差延化・・・生活民が個人的な「ねうち」、つまり「私効」を求める生活行動。

差真化・・・儀式、勉学、トレーニングなど「真面目」を求める生活行動。

差戯化・・・虚脱、浪費、戯び、ゲームなど「遊び」を求める生活行動。

以上のような7つの生活行動へ、家計調査の用途別支出項目を当てはめると、下表のようになります。


用途別支出項目を生活世界要素に振り分けてみましょう。

食料費では、穀類、魚介類、肉類、乳卵類、野菜・海藻、果物、油脂・調味料、調理食品、飲料が「差元化」に、また菓子類、酒類、外食が「差戯化」に該当します。

住居費では、家賃地代、設備修繕・維持  が「差識化」に当たります。

光熱・水道費では、電気代、ガス代、上下水道料が「差識化」に当たります。

家具・家事用品費では、家庭用耐久財が「差識化」、室内装備・装飾品が「差異化」、寝具類が「差元化」、家事雑貨・消耗品・家事サービスが「差識化」に、それぞれ該当します。

被服及び履物費では、和服や洋服が「差異化」、シャツ・セーター類  ・下着類が「差元化」、履物類や被服類が「差識化」に当たります。

保健医療費では、医薬品や器具類、保健医療サービスが「差元化」に当たります。

交通・通信費では、交通や自動車等関係費  が「差汎化」に、通信が「差異化」に該当します。

教育費では、授業料等や教科書・学習参考教材が「差真化」に相当します。

教養娯楽費では、教養娯楽用品や  教養娯楽サービスなどで真面目と遊びが混在しているため、「差真化」と「差戯化」の2つに分けることになります。

諸雑費では、理美容サービスや理美容用品、身の回り用品が「差延化」、たばこが「差戯化」、他の諸雑費が「差識化」に相当します。

こづかいや使途不明金は、「差延化」に当たります。         

交際費は「差汎化」に相当します。

仕送り金は「差汎化」に相当します。

以上のような対応を前提にすると、私たちの生活構造が「貨幣価値」として浮かび上がってきます、これにより、生活経済学家政学本質的な分析が期待できるでしょう。             

2025年7月6日日曜日

生活学・新原論Ⅶ-6:生活時間の地域差・差元化×差異化

総務省統計局の「社会生活基本調査」(2022年版)をベースに、生活時間の地域差を考えています。前回の【差真化×差戯化】に続いて、今回は【差元化×差異化】を取り上げてみましょう。

差元化(睡眠、休養・くつろぎ、受診・療養)差異化(テレビ・ラジオ・新聞・雑誌)とは、「体感性」と「情報性」、あるいは「やすらぎ」と「ときめき」とでもいうべき対比でしょう。両者の地域差はどうなっているのでしょうか。

下表は差元化と差異化の高い地域低い地域を、それぞれ都道府県別にあげたものです。

差元化では、上位が東北と北海道、下位が東京や大阪およびその近隣地方です。眠りや休養など体感性を求める行為は、北国で強く、大都市圏で弱いということでしょうか。

差異化では、上位が北海道や外辺地方、下位が東京都や宮城県、およびその周辺地域です。マスコミやソーシャルメディアなどに接する行為は、外辺地域で多く、大都市近郷では少ないという、意外な結果が現れました。どうしてなのか、差元化と差異化をクロスしてみましょう。

この図を見ると、両方の位置が高いほど、ここでも生活時間の「ゆとり」の大きさが現れているようです。

点線で囲った、6つのグループを順番に眺めていきます。

➀差元高・差異高地域・・・北海道、青森、秋田、山形の北日本の地域。体感享受時間が大きいうえ、ゆとりも大きく、その分情報摂取へ積極的なようです。気温の低さや他の行動に割かれる時間が少ないからではないでしょうか。

➁差元中・差異低地域・・・宮城、山梨、滋賀という、大都市やその近郊地域。体感時間も情報時間も比較的低いのは、仙台市を始め、東京都に近い山梨、大阪府に滋賀の3つです。⑥で述べるように、移動時間内の情報摂取時間が配慮されていないからではないでしょうか。

➂差元低・差異高地域・・・愛媛、山口、香川、静岡と概ね外辺地域。体感時間が低いのに、情報時間が高いのは、大都市圏から離れた地域に多いようです。差汎化(身の回り・食事・家事など)や差識化(通勤・通学・仕事・社会活動など)が少ない分、情報への接近が多いのかもしれません。

➃差元低・差異中地域・・・大阪、愛知、神奈川、埼玉、岡山など大都市圏とその周辺。体感時間が低く情報時間も中程度なのは、大阪市、名古屋市、横浜市などの大都市やその周辺地域です。これもまた、⑥で述べるように、移動時間内の情報摂取時間が配慮されていないからだと思います。

➄差元中・差異中地域・・・全国に散在する、上記4地域を除いた26地域。中心部には、体感時間も情報時間も、ともに中程度の、数多くの地方が分散しています。

⑥差元低・差異低地域・・・東京のみです。体感時間が低いのは理解できますが、情報時間も低いのは不思議です。この背景には、➁➃で触れたように、通勤・通学時間やその他の移動時間が多いにもかかわらず、その内部での情報行動が加えられていないことが潜んでいます。これらの時間の多くは、電車内携帯電話などに使われていますから、もし移動時間の6割が情報時間だとすれば、東京都は差元中・差異低地域に入ることになります。

以上で見てきたように、差元化×差異化でも、都道府県は6つ、ないし5つのグループに分かれてきます。

もっとも、基礎となる統計データが単一行動に基づいているため、移動+情報のような多重行動は把握できず、不可思議な構図となっています。

生活時間分析としては、新たな計測方法の開発が求められるでしょう。