2020年8月30日日曜日

SDGsで人口が減少する!

Sustainable(持続可能な)」は、私たち人類の目標というには、あまりにも曖昧な言葉だ、と述べてきました。 

何が曖昧なのか、実際の人口トレンドで考えてみましょう。

世界の人口は、今や大きな曲がり角にさしかかろうとしています。

国連の予測によると、【Sustainable・・・何のために“持続”するのか?】で述べたように、基本となる中位値では、2020年の109億人まで今後もなお増え続ける、とされています。

しかし、より厳しい条件で予測した低位値では、2050年前後の89億人がピークで、その後は徐々に減り始め、2100年に73億人となる、とされています。あと30年でピークが来るということです。

このためか、「2050年 世界人口大減少」とか「人類史上はじめて人口が減少し、いったん減少に転じると、二度と増えることはない」などいう、まことに近視眼的な曲説が堂々と出版されているほどです。

いうまでもなく人類は、3~4世紀には捕獲採集文明の限界化で約50万人(20%)の減少、14世紀後半には「黒死病」の影響などで約70万人(15%)の減少など、何度も減少を経験してきましたが、その後は再び増加傾向を取り戻しています。

それゆえ、昨今のコロナ禍もまた、世界人口にかなりの影響を及ぼすと思われます。

コロナ禍による死亡数の増加については、1,500万人から7,000万人までさまざまな予想が試みられていますが、間接的な影響を考えると、さらに増加して、数倍になることも考えられます。そうなると、人口ピークをかなり早める可能性もあります。

本格的な予測はまだ出されていませんが、アメリカのワシントン大学保健指標・評価研究所(Institute of Health Metrics and Evaluation: IHME)の予測チームが、2020年7月に国連予測とは異なる、新たな予測値を下図のように発表しています(a forecasting analysis for the Global Burden of Disease Study)。 



それによると、基本値では、世界の人口は2064年に97億人でピークに達し、2100年には88億人に減少する、と展望しています。国連の中位値より21億人ほど低い見通しです。

より厳しい代替シナリオ(SD
Gs値)では、2050年ころの88億人がピークで、2100年には63億人にまで減少する、ということです。国連の低位値より10億人少なく、これまでで最も低い予測値で、2000年の人口に戻るようです。

SD
Gs値では、その前提として、国連の「SDGs:Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標」のうち、教育と避妊のための目標を満たすことが設定されています。

「我々の知見は、女性の教育向上と避妊実践の継続的なトレンドが、出生率の低下と人口増加の抑制をもたらすことを示唆している。・・・女性の生殖の健康を維持し、強化しながら、継続的な低出生率に適応するための政策オプションが、今後数年間で重要になってくる。」

つまり、Sustainableな対応は、出生率を低下させ、人口増加を抑制する、ということです。

否定的にいえば、SDGsとは、世界人口を「Sustainable(持続)」するものではなく、「Downsizing(低下)」させるのが目標である。あるいは、人類の暮らしを維持するために、人口を減少させるものである、ということでしょうか。 

肯定的にいえば、SDGsとは環境負荷を強める人口を減少させることで、環境を「Sustainable(維持)」することである。あるいは、環境を「Sustainable(維持)」することで、減少していく人類のために、環境の「Condensing(濃密化)」をめざしている、ともいえるでしょう。

いずれにしろ、「Sustainable(持続)」とは、あまりにも多義的、もしく茫漠たる言葉といえるでしょう。

2020年8月25日火曜日

Sustainable・・・人口抑制装置は“維持”を捨てる!

さまざまな生物の個体数は、キャリング・キャパシティー:Carrying Capacity:環境容量)の上限に近づくと、下降、増減、回復などさまざまな推移を辿ることが多く、安定的な定常状態(Sustainable)を辿るのはごく稀だ、と述べてきました。 

なぜかといえば、さまざまな生物は、生存環境が悪くなるにつれて、それぞれ特有の「個体数抑制装置」を作動させ、個体数を抑え込んでいるからです。

個体数抑制装置の実例については、筆者の別のブログ「JINGEN〈人減〉ブログ」で詳しく説明しています。




人間の場合もほぼ同様であり、その「個体数抑制装置」、つまり「人口抑制装置」については、以下のように説明しています。



① 人間もまた個体数抑制をしている!:2015年2月25日

② 人間の人口抑制装置は二重のしくみを持っている!:2015年2月26日

③ マルサスの指摘した人口抑制装置:2015年3月1日

④ 文化としての人口抑制装置・・・石器時代:2015年3月3日

 文化としての人口抑制装置・・・古代ギリシア:2015年3月4日

⑥ 古代ローマの人口抑制装置:2015年3月5日

⑦ 近代イギリスも人口を抑制していた!:2015年3月7日

⑧ 近代ヨーロッパで行われていた人口抑制:2015年3月9日

⑨ 日本人も人口を抑制してきた!:2015年3月11日

⑩ 大都市は「蟻地獄」だった!:2015年3月13日

⑪ 人為的抑制装置には3つの次元がある!:2015年3月17日


⑫ 人口抑制装置が作動する時:2015年3月21日 

人間の人口抑制装置については、上枠の②で述べているように、生物的(=生理的)次元と人為的(=文化的)次元の二重構造になっています。

要するに人間もまた、キャリング・キャパシティーが逼迫してくると、自ら人口を抑え始める、ということです。

とすれば、Sustainable(持続可能な)という言葉が何を意味するかによって、下図に示したように、私たちの対応方法は大きく変わってきます。



人口そのものの“持続”的増加を意味しているとすれば、破局(Catastrophe)へ向かうことになります。 

人口そのものの“持続”的停滞を意味しているとすれば、人口抑制装置が的確に作動する以上、そうした状況はほとんどあり得ません

キャリング・キャパシティーの“持続”を意味しているとすれば、人口が減っていく以上、ゆとり(Allowance)が生まれ、浪費(Waste)さえ増えることになります。 

いずれにしろ、Sustainable(持続可能な)という言葉は、私たち人類の目標というには、あまりにも曖昧な次元に留まっています。

2020年8月18日火曜日

Sustainable・・・ロジスティック曲線は“持続可能”を続けられるのか?

個体数が「Sustainable」になるという誤解は、統計学でも発生しています。 

生物の個体数の動きは「ロジスティック曲線(logistic curve)」で捉えられるという論理です。

ロジスティック曲線とは、1838年にベルギーのピエール=フランソワ・フェルフルスト(Pierre-François Verhulst)が、人口増加を説明するモデルとして考案したものです。

ロジスティック(logistic)とは、軍事用語の「兵站」、つまり「食糧などの必需品を確保する」ことですが、この意味を広げて、生物の個体数は、彼らが生きていくうえで必要な生活物資(carrying capacity:キャリング・キャパシティー)に依存していることを示しています。

この数式をグラフ化すると、下図に示したように、個体数がキャリング・キャパシティーに達した後は、横ばいの直線になります。まさに「Sustainable」そのものです。




しかし、これはあくまでも統計的な数式の上でのことであって、実際の生物には必ずしも当てはまるものではありません。 

幾つかの事例については、筆者の別のブログ(JINGENブログ)で、以下のように詳しく説明しています。

動物の個体数はロジスティック曲線をたどる?:2015年2月2日

ロジスティック曲線を外れるケース:2015年2月4日

ロジスティック曲線から外れる3つの事例:2015年2月7日

つまり、ロジスティック曲線では生物の個体数推移を正確に捉えることはできない、という主張です。

では、どうすればいいのでしょうか。筆者が新たに提案しているのは、ロジスティック曲線に代わる「修正ロジスティック曲線(
modified logistic curve」という数式です。

上の図に描いた「修正ロジスティック曲線」は一例であり、実際には下記のように多様性を持っています。 

「修正ロジスティック曲線」を提唱する:2015年2月9日

「ロジスティック曲線」から「修正ロジスティック曲線」へ!:2018年9月8日

定常にはならないロジスティック曲線へ!:2018年9月28日

「修正ロジスティック曲線」という視点:2018年10月5日

これらのコラムで述べているのは、キャリング・キャパシティーの上限に近づいた個体数が、安定的な定常状態を辿るのはごく稀なことで、下降、増減、回復などさまざまな推移を辿ることの方が多い、ということです。

要するにあらゆる生物の個体数変化は、サスティナブル(Sustainable:持続可能)な推移を大きく超えて、むしろカオティック(Chaotic:混沌)な動きを見せるのが常態というべきでしょう。

2020年8月5日水曜日

Sustainable・・・個体数は持続できるものなのか?

Sustainable」という言葉は、生物界では必ずしも通用しない、と述べてきました。

時系列的な現象の変化を最も的確に表す個体数の推移でみると、一定の持続状態を続けるのは極めて稀だ、ということです。

具体的な事例として、原生動物の一種、ゾウリムシの個体数変化を見てみましょう。

ゾウリムシは単細胞の水生微生物で、一日に1~3回ほどの自己分裂によって個体数を増加させます。

これを4mℓの培養液に1mℓあたり10匹入れておくと、下図のように変化します。




①2日ほどで100匹にまで増えるが、そこで増殖は止まって、以後はAのように減り始める

②4日目に老化したゾウリムシを取り出して、新しい培養液に移すと、Anのように再び急速な増殖がおこる。

③新しいゾウリムシを新しい培養液にいれると、BnのようにAnより増殖が早い

④新しいゾウリムシを古い培養液にいれると、ゾウリムシは若いにもかかわらず、Boのように増殖はおこらない

(以上は日高敏隆『動物にとって社会とは何か』から引用・加筆していますが、以下の文章は筆者独自の推論です。)

このグラフに現れているのは、ゾウリムシの個体数が、4mℓの培養液というキャリング・キャパシティー:Carrying Capacity:環境容量)の規模や中身によって変化している、という事実です。

培養液というキャリング・キャパシティーは、一方では餌を提供する食糧媒体として、他方では排泄物を処理する環境媒体として、それぞれがその時間的な変化によって、個体数を次のように増減させているのです。



Ⓐキャリング・キャパシティー❶の上限までは、指数関数的に増加させる。

Ⓑ上限に達すると、ロジスティック曲線的にしばらくは定常状態を続行させる。

Ⓒキャリング・キャパシティー❶のレベルが低下し始めると、定常状態から減少へと移行させる。

Ⓓ新たなキャリング・キャパシティー❷が与えられると、定常状態を破って、再び指数関数的な増加を始めさせる。

Ⓔ新たなキャリング・キャパシティー❷が小さい場合は、そのまま減少に向かわせる


視点を変えると、ゾウリムシの方でも、この動物特有の「個体数抑制装置」の作動が指摘できます。

個体数が増えるにつれて、一方では培養液中の食糧が減少し、他方では排泄物が溜まってくると、それに比例して分裂を抑えるような仕組みが働きだす、ということです。

この仕組みは、それぞれの生物に生得的(遺伝的)に組み込まれているものです。

いいかえれば、さまざまな生物は、生存環境が悪くなれば、それ特有の個体数抑制装置を作動させ、個体数を抑え込んでいるのです。

こうした論理があらゆる生物に通用するとすれば、人間もまた、食糧容量と環境容量の限界が近づくにつれて、自ら人口を落とし始めるといえるでしょう。

微生物から人間に至るまで、個体数が「Sustainable」という状態は、極めて稀なことではないのでしょうか。