「Sustainable」という言葉は、生物界では必ずしも通用しない、と述べてきました。
時系列的な現象の変化を最も的確に表す個体数の推移でみると、一定の持続状態を続けるのは極めて稀だ、ということです。
具体的な事例として、原生動物の一種、ゾウリムシの個体数変化を見てみましょう。
ゾウリムシは単細胞の水生微生物で、一日に1~3回ほどの自己分裂によって個体数を増加させます。
これを4mℓの培養液に1mℓあたり10匹入れておくと、下図のように変化します。
①2日ほどで100匹にまで増えるが、そこで増殖は止まって、以後はAのように減り始める。
②4日目に老化したゾウリムシを取り出して、新しい培養液に移すと、Anのように再び急速な増殖がおこる。
③新しいゾウリムシを新しい培養液にいれると、BnのようにAnより増殖が早い。
④新しいゾウリムシを古い培養液にいれると、ゾウリムシは若いにもかかわらず、Boのように増殖はおこらない。
②4日目に老化したゾウリムシを取り出して、新しい培養液に移すと、Anのように再び急速な増殖がおこる。
③新しいゾウリムシを新しい培養液にいれると、BnのようにAnより増殖が早い。
④新しいゾウリムシを古い培養液にいれると、ゾウリムシは若いにもかかわらず、Boのように増殖はおこらない。
(以上は日高敏隆『動物にとって社会とは何か』から引用・加筆していますが、以下の文章は筆者独自の推論です。)
このグラフに現れているのは、ゾウリムシの個体数が、4mℓの培養液というキャリング・キャパシティー:Carrying Capacity:環境容量)の規模や中身によって変化している、という事実です。
培養液というキャリング・キャパシティーは、一方では餌を提供する食糧媒体として、他方では排泄物を処理する環境媒体として、それぞれがその時間的な変化によって、個体数を次のように増減させているのです。
Ⓐキャリング・キャパシティー❶の上限までは、指数関数的に増加させる。
Ⓑ上限に達すると、ロジスティック曲線的にしばらくは定常状態を続行させる。
Ⓒキャリング・キャパシティー❶のレベルが低下し始めると、定常状態から減少へと移行させる。
Ⓓ新たなキャリング・キャパシティー❷が与えられると、定常状態を破って、再び指数関数的な増加を始めさせる。
Ⓔ新たなキャリング・キャパシティー❷が小さい場合は、そのまま減少に向かわせる。
Ⓑ上限に達すると、ロジスティック曲線的にしばらくは定常状態を続行させる。
Ⓒキャリング・キャパシティー❶のレベルが低下し始めると、定常状態から減少へと移行させる。
Ⓓ新たなキャリング・キャパシティー❷が与えられると、定常状態を破って、再び指数関数的な増加を始めさせる。
Ⓔ新たなキャリング・キャパシティー❷が小さい場合は、そのまま減少に向かわせる。
視点を変えると、ゾウリムシの方でも、この動物特有の「個体数抑制装置」の作動が指摘できます。
個体数が増えるにつれて、一方では培養液中の食糧が減少し、他方では排泄物が溜まってくると、それに比例して分裂を抑えるような仕組みが働きだす、ということです。
この仕組みは、それぞれの生物に生得的(遺伝的)に組み込まれているものです。
いいかえれば、さまざまな生物は、生存環境が悪くなれば、それ特有の個体数抑制装置を作動させ、個体数を抑え込んでいるのです。
こうした論理があらゆる生物に通用するとすれば、人間もまた、食糧容量と環境容量の限界が近づくにつれて、自ら人口を落とし始めるといえるでしょう。
微生物から人間に至るまで、個体数が「Sustainable」という状態は、極めて稀なことではないのでしょうか。
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