「身分け」とは身体という感覚器がつかんだ世界、「言分け」とはそれらを言葉によって改めて捉え直した世界ですから、「もの」は身体という感覚器がつかんだ対象、「こと」はそれらを言葉によって捉え直した対象、という意味になります。
しかし、「もの」も「こと」もともに言葉として発声されていますから、次のように言い直すべきでしょう。
もの=身体という感覚器がつかんだ対象を示す言葉
こと=「もの」を言葉によって捉え直し、改めて区別する言葉
こと=「もの」を言葉によって捉え直し、改めて区別する言葉
このように定義すると、前回【哲学者の語る「もの」と「こと」の違いは・・・:2020年4月5日】で比較した、3つの区分は次のように整理できます。
●古語辞典
もの=【人間が感知・認識しうる対象】+【時間的推移・変動しない】
こと=【人間が感知・認識しうる対象】+【時間的推移・変動する】
こと=【人間が感知・認識しうる対象】+【時間的推移・変動する】
「もの」も「こと」も【人間が感知・認識しうる対象】であるとは、両方とも「身分け」で捉えられる対象という意味です。
そのうえで、【時間的推移・変動しない】のが「もの」であり、【時間的に推移・変動する】のが「こと」であるとは、【時間】という「言分け」によって区別されている、といえるでしょう。古語の時代においては、時間的変化に両者の差をおいていたのです。
●現代語辞典
もの=【人間が感知・認識しうる対象】+【具象的・空間的な対象】
こと=【人間が感知・認識しうる対象】+【抽象的に考えられる対象】
こと=【人間が感知・認識しうる対象】+【抽象的に考えられる対象】
「もの」も「こと」も、古語辞典と同じく【人間が感知・認識しうる対象】であり、両方とも「身分け」で捉えられる対象です。
そのうえで、【具象的・空間的な対象】が「もの」であり、【抽象的に考えられる対象】 が「こと」である、というのは「言分け」によって、具象と抽象が区別されることを意味しているのでしょう。
●哲学事典
もの=【人間が感覚的・非感覚的に認識する対象】+【一般的・不定的・漠然的表現】
こと=【ものの動きや諸関係】+【ものの在り方の一般的表現】
こと=【ものの動きや諸関係】+【ものの在り方の一般的表現】
この区分では、「身分け」で捉えられる対象と捉えられない対象の両方を一般的・不定的・漠然的に表現した言葉が「もの」であり、そうした「もの」の動きや諸関係を、「言分け」によって一般化した言葉が「こと」である、と理解できます。
「もの」と「こと」の関係に踏み込んだ定義である点は評価できますが、【人間が非感覚的に認識する対象】までを「もの」に含めるというのは、検討の余地があるでしょう。
こうなると、「身分け」された世界の外側、つまり「物界」の事物にまで広がっていきますから、これをいかに捉えるのか、改めて議論する予定です。