2015年7月29日水曜日

差異化戦略はなぜ登場したのか?

差異化戦略が注目されるようになったのは、1980年代の半ばからです。その背景には、次の3つの事情が重なっていました。

第1は工業社会の高度化。これに伴って、各企業の商品やサービスの水準が均一化し、どれをとってもさほど差が見られないという状況が生まれたことです。新しい機能・効率・利便性は、アッという間に他社の商品にも広がり、自社商品の優位性を失わせました

第2はテレビや週刊誌といったマスメディアの拡大。多様なメディアは、ユーザー層の情報感度を刺激して、流行やムードに乗りやすい社会風潮を創りました。ユーザーは商品の機能・効率・利便性よりも、ファッション性や流行性に強い関心を向けるようになりました。

第3はバブル経済の進行。これに伴って、株や不動産で資産を増やした消費者の多くは、機能・効率・利便型の商品では一通り所有欲を満たしたうえ、次の消費目標として、ステータスやファッションなど、文化的・記号的なネウチを求めるようになりました。

以上のように、①差別化競争の飽和化、②情報化の進展、③バブル経済の進行という、3つの要因が重なった結果、生活者の願望はもはや単なる機能・効率・利便といった〝差別〟次元を超えて、自己表現や自己誇示といった、表層的な記号の〝差異〟へ重心を移していったのです

そこで、マーケティングにおいても、機能・効率・利便性といった基本的なネウチの競争ではすまなくなり、その上に表現性、流行性、誇示性など、表層的なネウチを載せて、新たな需要を作り出すという手法が広がりました。

これがカラー、デザイン、ネーミング、ブランド、ストーリーといった記号を駆使する、いわゆる「差異化」手法でした。

また、これらの差異を強く刺激、誘導、喚起するため、広報・広告手法においても、急拡大したマスメディアを最大限に利用する、新たな戦略が展開されました。


商品イメージ戦略としては、流行、センス、ライフスタイルなどの〝記号〟を幾重に張り巡らすために、イメージ広告や販促イベントが積極的に実施されました。

また企業イメージ戦略としては、センスや感性に強い〝情報発信型企業〟をユーザーに印象づけるため、
感性広告CI(コーポレイト・アイデンティティー)、メセナ(mécénat:企業が資金を提供して支援する文化・芸術活動)など、いわゆる〝感性マーケティング〟が頻繁に行われました。

以上の傾向を的確に象徴しているのが、80年代後半に「便利な生活」から「おいしい生活」へと移行したCMの変化です。


デパートはもはや「便利な生活用品」を売る場所ではなく、「おいしいライフスタイル」を売る場所に変わったのです。

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