差別化とは、生活球の中心に位置する生活願望、「日欲」(欲求・実欲・常欲)に対して訴求するマーケティング戦略です。
基本的には、新たな機能・性能・品質を提示するもので、具体的には新機能化、高性能化、高品質化などの手法が含まれます。
これまでのマーケティング戦略では、「差別化」という手法が主流でした。商品開発戦略といえば差別化に尽きる、といわれるほど、現在でもこの手法が広く用いられています。
その理由は、それこそがユーザーの生活願望の最も中心にある日常的な願望=日欲に向けて、これまた商品のネウチの中の最も中心にある機能や品質を訴求する手法であったからです。それによって、自社製品が他社製品より優れていることを強調したのです。
ユーザーの生活願望の中核は、すでに述べたように、生活世界の中心にある平常球から生まれてきます。この小世界は記号⇔感覚、社会⇔個人、真実⇔虚構の交点に位置しているため、微妙なバランスのうえになりたっています。いいかえれば、私たちの日常生活とは、記号と五感の、外向と内向の、儀礼と遊戯の、絶え間ないせめぎあいの中で営まれているものです。
それゆえ、平常球の中での生活は、身体の奥底から無意識的な「欲動」でも、世の中の情報に煽られた記号的な「欲望」でもなく、身体が求めるものを自ら意識化した「欲求」に基づいて展開されています。
この欲求に基づいて、テレビや新聞を見たり、学校や会社などで講義を聴いたり、会議に参加したり、あるいは家族や友人と会話をしています。
同時に、虚実の入り混じった言語行動の中から、一つひとつ真偽を確かめながら、自分なりの選択をしています。毎日の生活を実際に形成していくには、最も基本的な生活要素を確保しなければなりませんから、幾つかの願望のせめぎあいの中で適切にバランスをとっていくことが求められるのです。
平常球の生活がこのようなものである以上、そこから生まれてくる願望もまた、具体的、実体的なコトへ向かいます。商品やサービスに対しても、主に機能性、品質性、能率性、効率性、利便性、実効性といったネウチ、つまり「便利さ」「使い易さ」「確かさ」などを求めます。
こうした平常球からの願望=日欲に積極的に対応するのが「差別化」であり、〝機能や品質の差〟をユーザーに強く訴えかけていきます。具体的にいえば、テーブルの高さ、椅子の座り易さ、洋服の着心地などの使い勝手や、冷蔵庫の冷却効率、電気洗濯機の洗浄効率、自動車の速度や燃費など、他の商品に対する比較優位性を強調します。
「差別化」戦略は、著しい経済成長によって、私たちの日常生活が急速に拡大した1960~70年代には、最も中心的なマーケティング戦略でした。
そこで、広告や広報でも、差別すべき利点を告知、説明、広報することに重点がおかれ、「私にも写せます」(富士写真フィルム・フジカシングル8、1965)、「大きいことはいいことだ」(森永製菓・エールチョコレート、1968)、「となりのクルマが小さく見えまーす」(日産自動車・サニー1200,1970)といったテレビCMが頻繁に流されていました。
しかし、1980年代になると、これを超える戦略が求められるようになってきました。
0 件のコメント:
コメントを投稿