しかし、伝統的な「差別化」から「差異化」が独立したように、さらなる細分化のきっかけを作ったのは「差延化」でしたので、順番を変えて、この戦略から説明していきます。
「差延化」という戦略を最初に提案したのは、他でもない、この筆者です。
21年前の1994年4月29日の日本経済新聞・経済教室で「消費、〝効用〟創造型に移行」と題する論文において、次のように書いています。
- ポスト構造主義の主導者、J・デリダは「差異化」の延長上に「差延化」を展望している。差延化とは「差異とはあらかじめ作られたものではなく、時間とともに作られていく」という考え方に基づく。
- これを商品のレベルでいえば、「差異」があらかじめ決定された売買時の「価値」であるのに対し、「差延」とは使用している間に作られていく「効用」ということだろう。
- 好況と深刻な不況を経験した後の消費社会は、その経験を生かして、生活者自らが「効用」の創造者となって生活を構成していく生活者主導社会へ移行していく。このため、マーケティングの方法も、時間とともに効用を生み出していく「差延化」に変わる。
「差別化」から「差異化」へ、さらに「差延化」へと視野を広げると、マーケティング戦略は従来の〝機能・効率・利便の差〟という欲求次元や、〝記号・イメージ〟という欲望次元を超えて、より広大な沃野に歩み出ることが可能になってきます。