思考・観念言語について、音声言語、文字言語に続き、今回は表象記号をとりあげます。
表象記号とは【思考・観念言語は地縁共同体から”理”縁共同体へ!】で述べたように、専門分野や特異分野など特定の“理”縁言語共同体において、新たに創造された、さまざまな概念を、視覚的なイメージとして表現した記号、符号、文字を指します。
さまざまな分野で使われていますが、代表的な事例をあげておきましょう。
●物理記号
Δ(デルタ関数)、Θ(角度)、Σ(置換)、Ω(角速度)、Ψ(波動関数)などの論理記号。 物理学で使用する記号は、物理現象を解き明かすのに必要なパラメータ(変数間の媒介変数)を表すもので、アルファベットやギリシア文字で表されるものが多い。 これらの記号のシニフィエ(記号内容)は、特定の対象ではなく、対象間の関係という論理(ロジック)を示している。 |
●幾何記号
∟(直角)、⊥(垂直)、≈(近似的に等しい)、≡(合同)、∽(相似)などの論理記号。 幾何記号は、幾何学上に抽象された概念を簡潔に表すために用いられる。 これらの記号のシニフィエもまた、特定の対象というより、対象間の関係という論理(ロジック)を示している。 |
●化学記号
H(水素)、He(ヘリウム)、Li(リチウム)、Be(ベリリウム)、B(ホウ素)などの物質記号。 化学物質を表す記号であり、主として元素記号として使われている。 アルファベットが特定の物質を示しているから、この記号のシニフィエは、論理(ロジック)ではなく、特定の対象を示している。 |
●気象記号
〇(快晴)、●(雨)、◎(曇り)、◒ (雷)などの天気記号。 気象状況を表す記号であり、単純な形態で使われている。 これらの記号は天候、気象など特定の状況を示しているから、シニフィエもまた、論理(ロジック)ではなく、特定の状況を示している。 |
こうしてみると、表層記号には、そのシニフィアンがロジックや関係を表すものと、特定の対象や現象を表すものの、2種類があるようです。
物理記号や幾何記号はシンタックス(統辞)を示し、化学記号や気象記号はシニフィエ(意味内容)を示している、ということです。
とすれば、私たちの思考・観念行動において、物理記号や幾何記号はさまざまな対象間の関係状況として作動します。
これらの記号は日常・交信言語として口に出ることもありますが、基本的には頭の中や紙に書き込んだイメージとして使用されますから、思考・観念言語の典型ともいえるでしょう。
先に述べた数字・計算文字の計算文字もまた同様ですから、私たちの思考・観念行動はこれらの文字や記号に依存するケースが多いのです。
こうした文字や記号は、日常・交信言語で使われる自然言語を大きく超えて、人間が思考のために敢えて創り出した人造言語です。
改めて議論しますが、対象を細かく分節化したうえで、特定部分だけを抽出化した記号ということになります。
一方、物質記号や気象記号は特定の物質や状態を示すものとして、それぞれ使用されています。対象間の関係を示すものではなく、個々の対象や状態を示しているのです。数字・計算文字でいえば、数量文字に相当しています。
思考・観念行動では、シンタックスを示すのではなく、その素材となる対象をシニフィエしています。
以上のように、思考・観念言語としての表象記号もまた、シニフィエを示す記号とシンタックスを表す記号に大別されます。
とすれば、私たちが表象記号で思考しようとするには、予めそれぞれの専門分野という“理”縁共同体の中で重層的に蓄積された、各記号のシニフィエとシンタックスを十分に理解することが求められるでしょう。
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