思考・観念言語における音声言語の位置を考えています。
前回述べたように、思考・観念言語における音声言語には、幾つかの次元があります。
1つは、日常・交信言語を加工したり、抽象化して創り出した、個人的な思考言語です。
2つめは、それらを基礎に、地縁共同体内で創造され、使われる集団的な思考言語です。
3つめは、専門分野や特異分野など、特定の“理”縁共同体内で創造され、使用される観念言語です。
個人的な思考行動は、私たちが日常的に使っている音声言語を基礎に、自らの創造力で生み出した思考言語を用いて実行されています。 日常生活で使っている日常・交信言語を、頭の中で駆使しつつ、ある物事について理知力(コトを理解する能力)を働かしたり、眼前にない物事について理知力を働かしているということです。 これらの言語は、地縁集団内の日常の会話でも使われているものですが、個人的な思考行動では頭の中で自問するための道具(自問言語)となっています。 それゆえ、日常会話の次元を幾分超えて、予測、想定、前提、仮説、論理などの思考用語や、それぞれに応じた文法が使われています。 |
集団的な思考行動は、個人的に生み出された思考言語を基礎にしつつ、地縁共同体という特定集団が共同思考や共同行動を可能にするため、日常言語を変形した思考言語(変型言語)を使って行われています。 共同作業を行う狩猟や漁労などでは、最も早くから使われてきました。 例えば、狩人仲間のマタギ言葉では、うじ(けもの道)、しかり( マタギのリーダー)、せこ(獲物を追い出す係)、ぶっぱ(獲物の撃ち手)、さんぺ(心臓)など、また漁師言葉では、しけ(嵐)、なぎ(凪)、なれい(北風)、しおなみ(無風時の波)などがあげられます。 その後、牧畜集団や信仰集団など、多様な特定集団へ広がっています。 |
“理”縁的な思考行動は、特定の専門分野を前提に、人為的に創られた観念言語(人為言語)を使って行われています。 “理”縁共同体は、私たちを取り巻く自然・生活環境を、理知的に理解しようとする人たちが意図的に形成した集団であり、それが故に新しい観念言語を次々に作り出して、ふんだんに使用しています。 それらに参加しようとする人々は、各自の関心によって、別々の共同体を選択しますから、さまざまな観念言語が生まれてきます。 例えば思想・哲学などの共同体では、自我、理性、全体主義、弁証法、昇華などの用語が、経済や法律などの共同体では、市場メカニズム、価格、消費、私有制、刑罰、制度などの用語が、さらに生物学や物理学などの共同体では、染色体、代謝、化合物、内分泌、細菌、遺伝子などや、元素、極小粒子、量子、中性子、素粒子、電磁波などが生み出されています。 |
以上のように、思考・観念次元における音声言語は、日常・交信言語における音声言語を基礎にしつつ、地縁共同体から“理”縁共同体へと移行するにつれて、深層次元から人為次元へと次第に移行していきます。