2021年12月30日木曜日

数字の起源を考える!

文字や記号という視覚言語もまた、音声言語と同様に、深層・象徴段階で発生し、やがて日常・交信段階へと変貌していく、と述べてきました。

とりわけ、表語文字(漢字、アラビア数字等)は、象形文字が起源となっているケースが多く、「識分け」次元と「言分け」次元を繋ぐ役割を果たしていますので、深層・象徴言語と日常・交信言語の両界に跨る文字と言えるでしょう。

そこで、現代社会の科学的思考の原点になっている「数字」がどのように生まれてきたのか、を考えてみます。

人間が「身分け」によって得られたモノ世界の幾つかの同類を、「識分け」によって「一つ、二つ、三つ」と眼や指で認識し、それを地面や掌などへ何らかのイメージで書き留めた。そこに数字という文字の始まりがあるのでは、と思います。

数字の起源については、先史時代と推定されていますが、明確な時期については確定されていないようで、研究者の間でもさまざまな見解があります。

その中で最も古いという見解では、B.C.3000年頃の古代バビロニア、シュメール時代に、粘土板にとがった筆記用具で、識知した数をそのまま書き込んだ「楔形(くさびがた)数字」があげられています。

またほとんど同時期のB.C.3000B.C.300年頃古代エジプトでも、パピルス(パピルス草で作られた紙)に染色棒で書かれた象形数字が生まれた、といわれています。

当時使われていた3種のエジプト文字のうちの1つ、ヒエログリフ(hieroglyph:神聖文字)では、一は垂直な棒、十は放牧牛を繋ぐ道具、百は長さを測る巻測量綱、千は蓮の葉、万は指、十万はオタマジャクシ、百万は驚いている人、といった記号が用いられていました。

その後、B.C.300年からA.D.1200年頃にかけて、インドで生まれたインド数字が、イスラム圏を経てヨーロッパへと伝わり、いわゆるアラビア数字12345…)になりました。

インド数字の最古はB.C.300年頃からのブラーフミー数字(バラモン数字)とよばれるものですが、これにはまだ0 の数字がありませんでした。その後、A.D.500年頃までに 0 が発明されて十進法位取りのデーヴァナーガリー数字となり、イスラム圏へ伝播しました。

イスラム圏ではこの数字が少しずつ改変され、その後1013世紀ごろにヨーロッパへ伝わりました。同地ではさらに修正が加えられると、急速に世界中に広まって、現在のアラビア数字となりました。

以上のように見てくると、現代社会の時代識知の、有力な基盤の一つである「数字」もまた、深層・象徴次元の記号文字や象形文字を基礎にして、簡略的に創造された日常・交信文字である、と推定できます。

さらにいえば、思考・観念言語の典型である数理思考言語もまた、深層・象徴次元の識知の中からさまざまに取捨選択したうえで、意識的に創られた言語、ということができるでしょう。 

2021年12月18日土曜日

視覚言語を言語3階層で考える!

文字や記号は、音声言語や識知的な観念を、視覚的に表現しようとする、人類の発明ですが、それがゆえに深層・象徴言語とも密接な関りを持っています。 

前回整理した文字分類を、文字と記号で分けてみると、次のようになります。

文字で表現するもの・・・音節文字音素文字(ともに表音文字)表語文字(表意文字)。

記号で表現するもの・・・象形文字(表意文字)、記号文字象徴文字(ともに絵文字)。

 ①②と音声文字との関係を、言語=Sé(意味されるもの)Sa(意味するもの)で整理すると、次のようになります。

❶文字で表現・・・(意味/音声)/文字・・・文字によって音声の意味するものを表現する。

❷記号で表現・・・意味 または(意味/音声)/記号・・・記号によって意味や音声の意味するものを表現する。

このように整理すると、文字よりも記号の方が、深層・象徴言語には馴染んでくるように思われます。

深層・象徴言語という言語段階は、「識分け」で捉えたモノコト界の事物を、「言分け」次元の言葉や記号などに置き換えようとする、初期的な次元ですから、曖昧な音声や深層的なイメージほど馴染みが深いからです。

それゆえ、識分け力が捉えた物音や幻像などは、文字よりもイメージの方が表現されやすい、といえるでしょう。

例えば、ユング心理学でいう元型(アーキタイプ)は、人類の深層心理に潜んでいる普遍的なイメージのことですが、まずはさまざまなイメージとして象徴文字で表現され、そのうえで音声言語によって捉えられています(ユングの元型は言葉で把握されている!)。

その延長線上で、さまざまな宗教のシンボルもまた、太陽、星、光、大樹、大河などを象徴するシンボルマークとして、象徴文字で表現されています。

とすれば、深層・象徴言語の段階では、象徴文字がまずは生まれ、続いて象形文字と記号文字に進化していくのではないでしょうか。

象徴文字(元型、宗教印、国旗等)、象形文字(ヒエログリフ、古代エジプト文字等)、記号文字(ピストグラム等)の順に、文字が生まれたということです。

一方、音節文字、音素文字、表語文字は、「音声で言分ける」という「言分け」次元から生まれてきます。

このうち、表語文字(漢字、アラビア数字等)は、前回述べたように、象形文字が起源となっているケースが多く、「識分け」次元と「言分け」次元を繋ぐ役割を果たしていますので、深層・象徴言語と日常・交信言語の両界に跨る文字と言えるでしょう。

また音節文字(ア、イ、ウ、エ、オ等)と音素文字(A、B、C、D、E等)は、すでに音声化された言葉を文字化するという表音文字ですから、「言分け」で生まれた日常・交信言語の次元に近いと言えます。

以上のように、文字や記号という視覚言語もまた、音声言語と同じように、深層・象徴段階で発生し、やがて日常・交信段階へと変貌していくのです。

2021年12月8日水曜日

視覚言語を3つに分ける!

言語3階層(思考・観念言語、日常・交信言語、深層・象徴言語)と、言語形態(音声言語、文字言語、表象記号)の関係を考えています。

前回は深層・象徴言語と音声言語の関係を取り上げましたので、今回は視覚言語(文字言語と表象記号)を取り上げます。

視覚言語とは、どのような言葉をいうのでしょうか。さまざまな定義や種類があるようですので、先達各位のさまざまな見解を参考にしつつ、改めて整理してみました。 


当ブログの立場によると、視覚言語とは、音声言語やそれらが意味する想念・観念などを、視覚的な文字や記号によって表現したもので、大別すると、表音文字、表意文字、絵文字(ピクトグラム)に分けられ、さらにそれぞれが2つに分かれてきます。

1.表音文字(phonogram

一字が音節または音素を表し、「意味」には対応しない文字体系。下記の表語文字が一つの文字で一つの「意味」を示すのに対し、表音文字は2つ以上に繋がった文字で一つの「意味」を示すケースが多いようです。

11.音節文字(syllabary・・・一字が一音節(単音または連続単音)を表わす文字。例:日本語の仮名(ア、あ)。

12.音素文字(segmental script・・・一字が音素(母音と子音の組み合わせ)を表わす文字。例:ローマ字(A、B)、ギリシア文字(α、β)。 

2.表意文字(ideogram

一字が一つの「意味」を表わす文字体系。一つ一つの文字が明確に「意味」を表していますが、聴覚的な発音との結びつきが薄い体系です。

21.表語文字(logogram・・・一字が発音と「意味」を同時に表している文字。この文字の多くは、象形文字(言葉と文字と意味が一対の対応)が起源となっています。例:中国語の漢字(火、山、川)、アラビア数字(1, 2, 3)。

22.象形文字(hieroglyph・・・モノの形を象った‎‎記号‎‎で「意味」を表す‎‎文字。‎‎この文字は、3で述べる‎‎絵文字(言葉よりもモノ自体を表すイメージ)‎‎から発展したものと考えられています。例:ヒエログリフ(神聖文字=古代エジプト文字)。 

3.絵文字(pictogram

モノを描いた形状で、モノの「意味」する想念・観念を表示する記号。

31.記号文字(signal character・・・一つのイメージによって、それに類似した、特定の「意味」を表す記号。文字という記号を使用せず、イメージそのものから想起される「意味」を表しています。例:東京2020オリピック・パラリンピックスポーツピクトグラム。

32.象徴文字(symbolic character・・・一つのイメージによって、抽象的な「意味」を表す記号。「識分け」から漏れた「身分け」次元の想念を、言葉になる以前のイメージで表わすものです。例:元型アーキタイプ、宗教印、国旗。

以上のように、文字や記号とは、聴覚的な「言語」識知的な観念を、視覚的に表現しようとする、人類の発明ですが、それがゆえに深層・象徴言語とも密接な関りを持っています。

いかなる関係なのか、次回で探ってみましょう。