2019年8月9日金曜日

互酬制を再建する!

互酬や互酬制を再建せよ」という主張は、最近ではマーケティング批判という範疇を超えて、社会学者はもとより経済学者や政治学者、さらには文芸評論家にまで広がっています。

いうまでもなく、それぞれの意見において互酬の内容や範囲には違いがありますが、家族、親族、地縁などの共同体に、構成員相互間の生活扶助や生活支援を、一定の規模で委ねようとする方向はほぼ一致しています。


これらの意見の背景にある、主な論拠を探ってみると、次の3つに整理できます。

第1は国家制度の欠陥を補う視点

近代国家に特有の、社会保障制度の拡大やそれに伴う財政への過剰な負担を避けるため、さまざまな共同体による互酬性を再建し、負担の一部を分担してもらおうという意見です。

生活に関わる諸費用や必要サービスのほとんどを国家に頼る、北欧型の福祉国家モデルを見直し、個人を包み込む共同体との連携強化をめざしています。

第2は市場経済システムの欠陥を補う視点

市場経済の拡大が引き起こす格差拡大や貧困層の増加を救済するため、セーフティーネット(安全網)として、共同体を再構築するという意見です。

アメリカ型市場経済の利点は認めつつも、過剰な競争と加重する自己責任が、結果としてもたらすマイナス効果に対処していくには、互酬制による最終的保護が求められる、というものです。

第3は社会構造の欠陥を補う視点

現代社会の中に構造的に潜んでいる個人化・モナド(孤立)化に対処するため、さまざまな共同体による保護体制が必要とする主張です。

具体的には、伝統的な共同体の復活や新たな共同体の構築によって、多様な互酬性を拡大し、老齢者や幼少年の保護、弱小家庭への支援などをめざしています。

以上のように、幾つかの分野から一斉に互酬制への期待が高まってきたのは、人口減少や経済停滞などに伴って、現代社会が成熟した結果だといえるしょう。

人口が増加し、経済も伸びていた時代には、成長・拡大型社会の背後に密かに隠れていた、さまざまな欠陥が、次第に露呈してきたというわけです。

とすれば、これからの日本にとって、このような要請に応えうる互酬システムの再構築が課題になります。

その方向は大きく分けて、次の2つでしょう。

1つは破壊された共同体の再建

市場経済や福祉国家がなしくずしに壊してきた伝統的共同体、つまり家族や親族、村落や町内会などの共同体を改めて支援し、保護・育成する政策が求められます。

2つめは新しい共同体の構築

都市化や産業化の進んだ現代社会に対応するには、伝統的な共同体の再興だけではもはや不可能です。

そこで、ハウスシェアリングやルームシェアリングなどのシェアリング家族、老齢者や単身世帯などが相互支援を前提に一緒に居住するコレクティブ家族、緊急時の共同対応や生活財の共同購入などを行なうマンション共同体、共同で農業を営む新農業共同体など、すでに進みつつある、新たな共同体の萌芽を活かしつつ、未来型の互酬制の主体を積極的に育成していくという対応が必要になります。

もしも以上にあげたような新旧の共同体の増加によって、新たな互酬制を拡大していくことができれば、社会全体の安定感は徐々に増していくでしょう。

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