2024年2月21日水曜日

生活学の新たな展開に向かって

生活学という、新たな学問分野について、基本的な視点と方法を考える「新原論」を展開しようとしています。

これは初めてのことではなく、実は30数年も前、日本生活学会を退会する直前に、同学会論文集『生活学1990』の序文として、次のような文章を寄稿しています。



序――生活学の新たな展開に向かって

私たちの生活をとりまく環境は、最近、急速に変わってきた。

鳥瞰的にみれば、 1830年以降一貫して増加し、現在約13200万人に達したわが国の総人口が、2010年頃の13600万人をピークとして減少過程に入っていくものと予測されている(厚生省人口問題研究所)。このため、1990年から2010年までの20年間は、人口が漸増から急増へと転換した明治維新や、急増期のほぼ中央に当たる太平洋戦争などの時期に匹敵する、 一大転換期となる可能性が強い

つまり、この時期には、約160年間続いてきた、成長・拡大型の社会システムや生活様式が終わり、飽和・安定型のシステムや様式への移行が始まる。従来の世の中の仕組みや生活慣習などがいったん弛緩し、再構成に向かって動き出すことが予想される。

一方、虫瞰的にも、私たちの身の周りでは、さまざまな変化が起こり始めている。町を歩けば、円高や内需主導経済の進行に伴って、外国商品の彩しい流入、外国人労働者の急増などが始まっているし、家に帰れば、サービス化や高度情報化の進展に伴って、家事の外部化が進む一方、夥しいニューメディアが流入し、従来からの家庭機能を大きく変えつつある。

生活主体の側でも、高齢化、単身化、男女格差の縮小などが、急速に進み始めているし、家族そのものもまた、伝統的な三世代家族や核家族だけでなく、DINKS(子どものいない共働き夫婦)、ステップファミリー(子連れ再婚家族など)、別居家族、単身者同居家族などの多様化か始まっている。

これらの変化に影響されて、生活構造もまた、大きく見直しを迫られている。仕事一辺倒の生活から、できるだけ余裕のある生活へ、できるだけ休みをとる生活へという動きは、さらに進んで、仕事と生活の融合や、仕事と遊びの融合をめざす方向へと動き出している。

そこで、生活の24時間化や就業畔間のフレックスタイム化、あるいは職住近接のサテライトオフィス、職遊近接のリゾートオフィス、さらには在宅勤務のホームオフィスなど、従来の生活時間や生活空間の枠を超えた、新たな動きも始まっている。

以上のように、鳥瞰のみならず虫瞰的にも、生活環境、生活主体、生活区分、生活時聞、生活空間など、あらゆる生活の分野で、従来とは異なる動きが発生している。

とすると、生活に関する学問にも、このような変化に対応できる、新たな展開が必要となってきた。従来からの理論や方法に加えて、転換期の生活を読み取るための、新しい理論と方法が求められることになる。

折から、日本生活学会は、1988牟初夏から89年夏にかけての約1年間、「今和次郎生誕百年・日本生活学会設立15周年記念行事」として、さまざまなイベントを行ってきた。これらは、当学会創立者の業績をしのぶとともに、設立後15年間の知的成果を世に問うものであったが、予想以上に多くの観各や聴衆を集め、一応の評価を収めることができた。

これによって、創設期以来の一区切りがついた。とすれば、今や日本生活学会は、新たな目標を模索すべき時にきている。これまで15年間の蓄積を基礎にしつつ、これからの15年間に向けて、新たな一歩を踏み出さねばならないと思うのだ。

幸いにして、この『生活学一九九〇』には、新しい方向への契機となりうる論文を.いくつか納めることができた。これらを素材として、今後、より活発な議論の起こることを期待したい。

19891031日      古 田 隆 彦

現時点で読み返してみると、30数年という時間差をほとんど感じません。2000年以降について予想した事象は、概ね当たっていると思います。

この序文以降、筆者はこうした問題意識を抱きつつ、生活学の新たな視点と方法を求めて、さまざまな方向から検討を続け、その一部をこのブログでも述べてきました。

これから始めようとしている「生活学・新原論」は、それらの集約ということになるでしょう。

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