人口容量が満杯だというが、日本の現状をどう理解すべきか、というご質問をいただきましたので、その構造を説明しておきます。
動物の場合、「キャリング・キャパシティー(Carrying Capacity:生存容量)」の上限は、先に述べたように、一定空間内の食糧獲得量、接触密度、排泄物濃度などが絡まって定まっており、これに応じて個体当たり容量の内容も決まっています。
人間の場合も、「人口容量(Population Capacity)」の上限は、一定空間内での衣食住の生活水準、経済水準、環境水準などの複合条件で決まっており、それらに応じて、個人容量(=生活水準)の中身も決まります。
もっとも、人間の場合は【人口容量=自然環境×文明】で、大きく容量を変えてきましたので、文明の変化によって、時代が変わるごとに容量の構造も異なってきます。
日本列島の人口容量は、次のように変化してきました。
①紀元前3万年からの「石器前波」・・・日本列島×旧石器文明=約3万人 ②前1万年からの「石器後波」・・・日本列島×新石器文明=約26万人 ③前500年からの「農業前波」・・・日本列島×粗放農業文明=約700万人 ④西暦1300年からの「農業後波」・・・日本列島×集約農業文明=約3250万人 ⑤1800年からの「工業現波」・・・日本列島×近代工業文明=約1億2800万人 |
それゆえ、波動別に人口容量の構造も変わってきました。おおまかにいえば、次の通りです。
①石器前波・・・石器による食糧獲得量+環境許容量 ②石器後波・・・石器+土器による食糧獲得量+環境許容量 ③農業前波・・・粗放農林漁業などによる食糧獲得量+環境許容量 ④農業後波・・・集約農林漁業などによる食糧獲得量+環境許容量 ⑤工業現波・・・近代的工農林漁業などによる食糧・資源獲得量+環境許容量 |
これを前提にすると、工業現波に相当する現代日本列島の人口容量=1億2800万人は、次のような構造を持っている、と推定されます。
❶日本列島はユーラシア大陸の東方、北東アジアと呼ばれる地域に位置する弧状列島であり、東経122度55分57秒~東経153度59分12秒、北緯20度25分31秒~45度33分26秒に位置し、日本国の現在の面積は約37万8,000平方㎞である。 ❷この自然環境へ近代的な工農林漁業などを適用して得られる人口扶養量は、人口容量のおよそ6割程度と考えられる。例えば、食糧自給率(令和元年度)は、カロリーベースで38%、生産額ベースで66%であり、資源を代表するエネルギー(石油・石炭・天然ガスなど)の自給率(2017年)は9.6%と、極端に低い。人口容量(1億2800万人)に換算すると、食糧で4860~7680万人、エネルギーで1230万人程度である。・・・参考:農林水産省・食糧封鎖時の自給可能量推計 ❸列島内で自給できる扶養量を超える生活資源は、海外からの輸入に依存しているので、その対価となる資金を、主として輸出に依存している(加工貿易)。その意味でいえば、工業現波の人口容量とは、列島×文明で得られた国内向け諸物質と輸出向け諸物質の、両方によって形成されている。 ❹また、近代工業文明が生み出した生産・生活様式から発生する、さまざまな廃棄物を、工業文明によって列島内で処理できる許容量についても、一定の限界がある。 ❺要するに、現代日本の人口容量(1億2800万人)とは、日本列島という自然環境を工業文明で応用して作り出した扶養量と許容量で構成されている。 ❻人口容量が小さくても生活民一人一人の生活水準が低ければ、人口容量は多くなり、逆に人口容量が大きくても生活水準が高ければ、人口容量は低くなる。 |
以上の状況を逆説的にいえば、人口減少が続いている過去20年間とは、なおも高い生活水準を望む生活民が、減少で生まれた人口容量のゆとりを密かに満喫している状態ともいえるでしょう。
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