確かに「エコノミクス(Economics:経済学)」の語源は、ギリシア語の「オイコノミコス(Οἰκονομικός)」に由来しています。
ギリシア語では、「オイコス(οἶκος, oikos:家)」と「ノモス(νόμος, nomos:法)」の合成語が「オイコノミア(Oικονομία)」であり、「家政=家庭の管理・運営」を意味しています。
「オイコノミア」の複数形の形容詞が「オイコノミカ(Οἰκονομικά)」、単数形の形容詞が「オイコノミコス(Οἰκονομικός)」であり、ともに「家政論」や「家政学」を意味しているようです。
古代ギリシャの歴史家、クセノフォン(Xenophon)がBC430~BC354年頃に著した『オイコノミコス』の中で、「家政とは何か」というソクラテスの問いに対し、クリトブロスなる人物が「良い家政家であるということは、自分自身の家財をきちんと管理できるということだ」と答えています(越前谷悦子訳、リーベル出版)。
これを敷衍すれば、「オイコノミコス」とは「自分の家産や家計をいかに管理するか」という意味であり、日本語に訳せば、まさに「家政」という言葉に相当します。
古代ギリシアでは、こうした「家政」の集合として、ポリス(都市国家)の経済を把握していたようです。つまり、家政の延長上に国家の財政や金融の政策がある、という趣旨です。
こうした思想は、西欧においても、A.スミス(Adam Smith)のを『国富論』(1776年)を経て、A.マーシャル(Alfred Marshall)の主著『経済学原理』(Principles of Economics, 1890年)により、「経済学」(Economics)という理論名称で定着しました。
以上の経緯を振り返ると、「オイコノミコス」が「エコノミクス」の語源となったことはほぼ間違いありません。
とすれば、経済学の原点は家政学であり、改めて異なる立場を提唱する必要はないようにも思えます。
しかしながら、次の視点に立つと、必ずしもそうとは言えないのではないでしょうか。
筆者が必要性を感じるのは、次の3つです。
①オイコノミコスの「自分自身の家財をきちんと管理できる」という守備的な範囲を超えて、生活民自身の生み出す、独創、自給、自足といった、より積極的な生活思考や生活行動を把握する理論が求められます。
②家政学から発展したにもかかわらず、現代の経済学は、個人や家族よりも国家や企業の経済活動を究明することに重点を移しているため、個人や私人の立場に立った、より強力な生活理論が求められます。
③「共効」を前提とする経済学、「個効」に中心を置く家政学に対し、純個人的・私人的な「私効」の立場から市場や財政などに立ち向かう理論が必要になっています。
②家政学から発展したにもかかわらず、現代の経済学は、個人や家族よりも国家や企業の経済活動を究明することに重点を移しているため、個人や私人の立場に立った、より強力な生活理論が求められます。
③「共効」を前提とする経済学、「個効」に中心を置く家政学に対し、純個人的・私人的な「私効」の立場から市場や財政などに立ち向かう理論が必要になっています。
とすれば、現代の高度市場社会に対応していくには、「オイコノミコス」の原点に戻りつつも、個人、私人といった「生活民」一人ひとりのための生活理論を改めて研究することが必要なのではないでしょうか。
一言でいえば、
「アトモノミクス(Άτομο,átomo:私人・原子 + νόμος,nomos:法)」
の構築です。
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