2018年6月11日月曜日

誰が「効用」と訳したのか?

主観価値説が提唱した「効用(utility)という言葉は、「限界効用」や「効用関数」などと、現代日本ではほぼ日常的な経済用語として使われています。

しかし、実際のところは、これまた明治末~大正時代に現れた翻訳語にすぎません。

英語の「utility」の翻訳歴を振り返ってみましょう。




 幕末
英和辞書『英和対訳袖珍辞書』(堀達之助著、文久2年=1862年)・・・「要用、利益

明治期
『英和字彙・増補訂正改訂二版』(柴田昌吉, 子安峻著、明治15年=1882年)・・・「利益、裨益、功利
『富国論』(A.スミス著・石川暎作訳、明治17年=1884年)・・・「実用
『惹氏 経済論綱』(W.S.ジェヴォンズ著、嵯峨正作・古田新六訳、明治22年=1889年)・・・「有用、利用
『最近経済学』(田島錦治著、明治31年=1898年)・・・ジェヴォンズのmarginal utilityを初めて「限界的効用」と訳す。

大正期
『哲学字彙 英独仏和』(井上哲次郎・元良勇次郎・中島力造著、大正元年=1912年)・・・「功利、利用
『経済学純理』(W.S.ジェヴォンズ著、小泉信三訳、大正2年=1913年)・・・「利用
『経済学原論』(W.S.ジェヴォンズ著、小田勇二訳、大正11年=1922年)・・・初めて単独で「効用」と訳す。
『資本利子及企業利得論』(トマス・フオン・アキノ等著、高畠素之・安倍浩訳、大正12年=1923年)・・・メンガーの説を「功用説」と紹介。
『理論経済学の若干問題 』(川西正鑑著、大正14年=1925年)・・・ジェヴォンズの説を「効用」で説明。

以上のように、「utility」という英語には、幕末から明治中期まで「要用」「利益」「実用」「有用」「利用」「功利」「利用」などと極めて多様な訳語が充てられてきましたが、明治30年代~大正10年代(1890~1920年)に至って、ようやく「効用」に辿り着いたものと思われます。

要するに、経済用語としての「価値」の歴史は約120年前後、「効用」の歴史もまた約100年前後にすぎません。

大和言葉の「ねうち」や「ききめ」に比べる時、どちらも1世紀前後の歴史しか持っていない、外来的な観念といえるでしょう。

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