マルクスは「価値」を「使用価値=ねうち」と「交換価値=あたひ」に分けたうえで、後者の方に比重をかけていきました。
これに対し、1870年代に欧州各地で台頭した「主観価値説(効用価値説)」では前者、つまり「使用価値=ねうち」の方に力点をおいた理論を展開していきます。
「主観価値説」とは、W.S.ジェヴォンズ、C.メンガー、L.ワルラスがそれぞれ独自に創始した理論ですが、商品の価値はもっぱら消費者の主観的な評価である「効用(utility)」に基づく、というものです。彼らの主張はどんなものだったのか、順番に見ていきましょう。
最初はイギリスの経済学者W.S.ジェヴォンズ(William Stanley Jevons)。その著『経済学の理論』(The Theory of Political Economy、1871)の中で、次のように述べています(要旨)。
➀商品は「効用」という性能を持つ。
「財なるものには、人の物質的生活に関係ある種々なる欲望を満足せしむるを得る性能(がある。中略)。換言すれば、財には人の欲望を満たすに足るだけの有用性ありて、然もそが人々に依りて認めらるるが為である。財の此の性能を『効用』といふ」(小田勇二訳、1922)
② 「効用」視点から見ると、「価値」という言葉には3つの意味がある。
⑴使用価値=全部効用(value in use = total utility)
⑵評価=最終効用度(esteem =final degree of utility=限界効用)
⑶購買力=交換比率(purchasing power = ratio of exchange)
③ 「価値」は「効用」に依存するのであって、「労働」に起因するものではない。
「価値はまったく効用に依存する(中略)。いまひろくおこなわれているかんがえは、効用よりはむしろ労働を価値の起源とするものであって、なかにははっきりと労働は価値の原因であると主張するものさえあるのである。これに反してわたしは、満足な交換の理論に到達するため、われわれがもっている財貨の量に依存するものとしての効用変動の自然法則を注意ぶかく追求すればそれでいい(後略)。」
「労働はしばしば価値を決定するものとみられるが、しかしそれはただ間接的なしかたによってのみ、すなわち供給の増加または制限を通じて財貨の効用度を変動させることによってのみそうなのである。」(岩松繁俊訳、1958)
以上のように、ジェヴォンズは「人間の要求から生じる物の状況」を「効用(utility)」と名づけたうえで、従来の「使用価値」を「全部効用」、交換価値を「購買力」、そして両者の間で動く有用性の変化を「最終効用度」と、3つに分けています。
彼はこの立場から、スミス、リカード、マルクスなどの“価値”観を厳しく批判しています。
まさしく「使用価値=ねうち」論からの逆襲といえるでしょう。
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