人減先進国としての日本の将来。・・・それを考える前提として、過去120年間、人口増加時代の生活様式がいかに変わってきたのか、を確認しています。
前回のエネルギー供給に続き、今回は食料自給率の変化を振り返ってみます。
食料自給率とは何でしょうか。農林水産省の定義によると、「我が国の食料供給に対する国内生産の割合を示す指標」として、次の3つを挙げています。
①品目別自給率=国内生産量/国内消費仕向量 ②カロリーベース総合食料自給率=1人1日当たり国産供給熱量/1人1日当たり供給熱量 ③生産額ベース総合食料自給率=食料の国内生産額/食料の国内消費仕向額 |
このうち、農林水産省の自給率統計では、昭和40年(1965年)以降の動向だけが推計されており、それ以前の動きは不明です。
これでは、当ブログの意図する20世紀全体の動向はつかめませんので、食料の中核である穀類の品目別自給率の推移を独自に推計したうえで、カロリーベース、生産額ベースの動きと比較してみました。
その結果が下図のようになりました。3つの食料自給率(穀類の品目別自給率、カロリーベース総合食料自給率、生産額ベース総合食料自給率)を比べたうえで、人口推移と比較しています。
穀類量ベースの自給率は、次のように変化しています。
❶1900∼1944年の45年間は、1913年の95%から始まり、30年の80%を経て、39年に87%にまで落ちている。 ❷1945∼64年の20年間は、1946年の85%から始まり、52年には94%、58年には59%と、乱高下を繰り返しつつ、64年には63%まで落ちている。 ❸1965~79年の15年間は、1965年の62%から始まり、67年の64%までは上がったものの、以後は低下し、79年には35%まで落ちている。 ❹1980~2020年の41年間は、80年の29%に始まり、93年の22%で下限を、94年の33%で上限をそれぞれ示した後、30%前後を保っている。 |
カロリーベースと生産額ベースの自給率は、次のように動いています。
❶カロリーベースでは、1965年の73%からほぼ低下しつづけ、1993年の記録的な冷夏による37%への急落の後、翌年には40%台を回復し、2011年からは46~48%を保っている。 ❷生産額ベースでは、1965~80年に90%台から80%台へ落ち、90年代に70%台、2000年代に60%台に落ちたものの、2010年以降はやや回復し、70%台を維持している。 |
以上のような動向を比べてみると、次のようなトレンドが読み取れます。
➀現状(2010∼20年)では生産額ベースが70%台、カロリーベースが46~48%、穀類量が27~29%と、3つの自給率がかなり分離しており、生産額ではまずまずだが、カロリーや穀類では50%を切っている。この背景として、2009年以降の人口減少の影響が考えられるが、依然として不安が続いている。 ②1965年以降のカロリーベースと穀類量ベースはほぼ比例した動きを見せており、1980年以降のカロリーベース/穀類量ベースはほぼ1.5~1.7倍、平均1.6倍である。但し、1960∼70年は1.2倍ほどである。 ③この比率1.2倍を前提にして、1965年以前のカロリーベースを推測(上限100%)してみると、1950年93%、1930年100%、1913年100%となる。とすれば、同時期のカロリーベースもまた100%であったと推測できる。 |
これらの動向を人口推移と比べてみると、次のような傾向が浮上してきます。
❶戦前の人口容量7500万人の食料は、ほぼ全てが自給できていた。 ❷戦後の人口容量12800万人では、1945~80年の人口急増に伴って、穀類は90%台から30%台へ、カロリーもまた65年の73%から80年の53%へ急落している。 ❸1980年以降は人口が飽和から減少に向かうにつれて、穀類量、カロリー、生産額とも、低下から微かな上昇に転じている。とりわけ2010年以降は、3指標とも回復基調にあり、人口容量のゆとりを示し始めている。 ❹とはいえ、穀類量29%、カロリー46%、生産額71%という自給状況は、依然として人口容量の不安定さを示している。もっとも、今後の人口が減少して7500万人を切る場合には、カロリーベースで80%ほどの自給が可能となろう。 |
要約すると、わが国の食料自給率は、戦前の100%時代から、前後の人口急増期に急落したものの、1980年代以降は人口の停滞・減少につれて幾分回復してきました。しかし、今後の人減時代を保障するには、まだまだ至っていない、と言うべきでしょう。