企業側のマーケティング戦略でいえば、新たなネウチ(共効)を持った新商品 を、消費市場に向けて積極的に提案していくこと、それが 「差汎化」戦略 です、 新たなネウチ(共効)としては、新機能、新記号、新体感、新遊戯、新真摯 、さらにはこれらをさまざまに組み合わせたネウチを持った新商品や新サービスが代表的です。 (下図では 社会界の9院 をベースにして、代表的な5共効をあげています。)
昨今の消費不況の中で、供給者である企業側は、新しいなネウチ(共効)を持った用具(道具)や報具(情報具) などの開発に熱心であり、さまざまな新商品が毎日のように発売されています。 とりわけ新機能商品については、近年、AIやロボット などの新情報技術を応用して開発された電子機器や乗用車など、続々と新機能商品が売り出されています。 このように続々と提案される新共効に対して、生活民はどのように対応 していけばいいのでしょうか。 基本的な行動は次の3つだと思います。
①企業の提案する共効をそのまま受け入れず、個効、私効としてチェック する。
②共効を素材として差延化して、私効化 する。
③差延化で生み出した私効を企業側へ提案し、共効化 していく。
3つの対応行動によって、消費市場を「消費財購入」から「生活素材調達」の場へと転換 させていくこと、これこそが生活民としての差汎化対応だと思います。
生活民マーケティングの立場から、差延化戦略に続いて、その対極にある差汎化戦略への対応策 を考えてみましょう。差汎化戦略 とは何なのか、企業側からのそれについては、すでに「 差汎化とは何か? 」(2015年9月18日)で述べましたように、社会、価値、同調などを求める世欲 に応えて、社会的なネウチ(価値=共効)や共同体的な需要を創りだす手法です。
経済学では、いわゆる「ネウチ(有用性) 」 を「効用 」という言葉で表していますが、生活民マーケティングでは、この「効用」を次の3つの次元 に分けて考えていきます。 共効 ・・・社会集団が共通して認める有用性=共通効用 個効 ・・・個人が共効に基づいて認める有用性=個別効用 私効 ・・・私人が純私的に認める有用性=私的効用 このように分けると、 すでに述べたように 、市場社会で行われている、さまざまな需給行為には、次のような矛盾 が指摘できます。 ①供給者である企業は、市場の存在を前提にして、商品のネウチを作り出し、かつ供給しています。このネウチとは、市場を支える多くの需要者が共通して求める「個効」を集約 したものですから、まさに「共効 」です。つまり、商品のネウチとは、多くの需要者が共通して商品に求める有用性、いわば有用性の“最大共通素 ”とでもいうべきものです。 ②通常、需要者である個人は、それらの「共効」に従って商品を購入し、そのとおりに使用して、個人的な効用 である「個効 」を実現しています。 ③しかし、個性や独創を重んじる生活民の場合は、純私的、主観的な「私効」 を目的にしますから、既存の商品を購入した場合でも、それに手を加えたり、別の有用性に変換 するなど、自分なりの手法で使用して「私効」を満足させています(差延化対応)。この場合、一つの商品の有用性は、市場での最大共通素を前提にしながらも、その中から個人的、主観的に選ばれる有用性、いわば“最小共通素 ”となります。 このようなズレがあるため、一つの商品の持つ「共効」と「私効」の間には微妙なズレ が生まれてきます。 企業の側では、できるだけ多くの顧客の求めに共通する「個効」を抽出 して、商品の「共効」を作り出そうとします。これに対し、個性的な生活民の側ではできるだけ自分だけの有用性 を求めて、商品の「私効」を購入しようとします。 両者は当然重なっていますが、最大共通素と最小共通素がぴったり一致するのはごく稀 なことです。そこで、企業は少数需要者の「私効」の一部を切り捨てる ことで 大量生産を可能にし、また生活民は自分なりの「私効」をある程度犠牲 にすることでその生活行動を実現していきます。 企業の側に立てば、この落差を埋めることが差汎化戦略 であり、次のような方向が求められています。 第1に、生活民自身が試みる用途転用や用途変換に常に注意を払って、既存商品のネウチを再点検 することが必要です。 第2に、社会変化や生活変動に対応して、既存商品のネウチを一旦解体 し、そのうえで変化に見合うように再構築 していくことが必要です。 第3にはより積極的に、今後の日本が向う人口減少社会の望ましいと思う方向を、商品やサービスの新たなネウチとして提案 していくことです。 供給者の行うこのような差汎化戦略に対して、生活民一人ひとり はどのように対応 していけばいいのでしょうか。
2016年8月18日に、このブログで「USマーケティング 」を宣言して以来、フォロワーや友人の皆様から、さまざまなご意見やご批判をいただきました。とりわけ「 US」という名称には反対 が多かったように思います。 なるほど、と感じていましたが、ここに来て、やはり修正すべきだ 、と思うようになりました。その理由は次の通りです。 ①「US」という名称はUser Sideを略したものですが、これがUnited States を想起 させるのでは、とのご批判がありました。それでもいいのでは、と思っていましたが、ここにきて、United States of America の混迷ぶりを見ると、US という言葉のイメージは、確かにダウンしているように思えてきました。 ②Userを強調する言葉でしたが、このUserとは消費市場を前提にした、単なる需要者(consumer あるいは customer)をいうのではなく、むしろ市場そのものを超えた生活主体 を表しています。そうであれば、本来の趣旨を活かして、「生活民 」をもっと強調すべきだと思うようになりました。 ……ということで、「USマーケティング」を改め、新たに「生活民マーケティング 」に変えたいと思います。
英訳では、とりあえず「Self-helper Marketing 」とでも名付けます。 もともと「生活者」という言葉自体も英訳が困難で、「consumer」とか「prosumer」などと訳されてきました。
しかし、「生活民 」の意味するところは「自給自立人 」ですから、直訳すれば「Self-helper 」ということになります。 そこで、「生活民マーケティング」は「Self-helper Marketing 」、略称「SH Marketing 」ということにしたいと思います。